14話:終わり
俺は、《夜剱》を構えた。真なる《夜剱》を使うのは、随分ぶりだが、身体が覚えているようで、しっくりと馴染む。まるで、身体の一部であるかのように。
「何者なんだ…」
二人の敵は、示し合わせたかのように、まったく同じセリフを呟く。そして、動く。
「水術奥義!《水の乱舞》!」
「精霊よ、奴を消せッ!」
《夜剱》から、闇色の剣光が迸る。そして、《夜剱》を上段に構え、振り下ろす。
瞬間、夜の闇に溶け込んだ、闇色の閃光が、斬撃となって、《水の精霊》達を蹴散らした。いや、蹴散らすという表現は、少し不適切で、正確には、《水の精霊》達を切り刻んだ、である。
「ば、馬鹿な…。我が精霊達が、一撃で…」
一撃で、自身の精霊が消されることで、その計り知れない強さを悟ったのだろう。
「ふん、《水飛沫》の雑魚精霊なんぞ、我らとて、一撃で壊せるわい。それほどに、貴様ら《水飛沫》が弱いだけだろう!」
だが、もう一人は、嘲笑い、俺に向かって来た。
無数に繰り出される《水の槍》は、空中で、数百もの数となっている。
「ふん、行け!」
そして、槍は、まるで、雨の如く降り注ぐ。それに対して、俺は、下段から、《夜剱》を振り上げる。そして、《瑠璃》色の刀身から、闇色の斬撃が放たれ、一気に、数十本の槍を消し去る。
通常の、彼我の力の差が分かる人間なら、ここで引くのが普通なのだ。しかし、生まれつき当主の地位が約束された人間は、その差を理解できないものが多い。それは、自分より優れた人間は、存在しないという莫迦げた空想から、自らを貶める行為なのだ。
「ハッ、たかが、数十本!槍はまだまだ残っている!」
そして、《劉水》の当主は、俺に向かって、再び、槍を放つ。対する俺は、《夜剱》に魔力を軽く込める。そして、勢い良く突き上げる。そして、眩い《瑠璃》色の閃光が、幾多の槍を跳ね除け、空に風穴を開けた。夜の暗闇の中、月明かりを遮っていた雲に、穴が開き月明かりが降り注ぐ。
その月明かりを《夜剱》が反射して、様々な方向に光を撒き散らす。そして、その撒き散らした光の一つに、二人の人物が立っているのが分かった。一人は、見るからに厳格そうな黒い髪をした四十半ばくらいの男。そして、もう一人は、鮮やかな紫の髪をした二十代くらいの女性、つまりは、瑠璃さんである。
それを見た瞬間、美希が声を上げた。
「お、お父様…?」
その一言で悟る。あの男は、《炎魔》家の当主ということである。そして、敵の二人も悟ったようで、怯え、数歩ほど、下がる。そして、《炎魔》の当主が声を上げる。
「貴様らが、《劉水》家、《水飛沫》家の両家の当主だな。我が《炎魔》の家を狩ろうなどと、無謀な策略を立てた、代償は、きっちりと払ってもらうぞ。のう、《氷》の…」
最後の言葉は、瑠璃さんに向けて放たれた言葉だろう。《氷》の、というのは、《氷の女王》である、瑠璃さんのことを指す以外に無いからだ。
「私には関係のない話…といいたいところだけれど、ちゃっかり弟子が戦っているのでね。まあ、《炎魔》、あなたに任せるわよ」
「そうか、なら、思う存分、奴等をいたぶれる」
敵二人が、かなり怯えだしたところで、俺は、《夜剱》を地面に刺した。もう戦う必要性を感じないからだ。
「ヒノキ、《夜剱》は、私に貸しなさい。しばらくは保つんでしょ」
地面に刺した《夜剱》を、瑠璃さんに向かって飛ばす。うまいこと掴んだ瑠璃さんは、《夜剱》を腰の鞘に綺麗に収めた。あらかじめ、サイズが分かっていたかのような用意のよさだが、おそらく、氷で鞘を作ったのだろう。だから、氷の大きさを自由に調整しただけだと思われる。
「さて、ここからは、相手を代わろう。どうする、小童ども」
いくつもの炎が《炎魔》の当主の後ろに燃え上がる。この風格、技、流石は、《炎魔》の当主と言ったところか。
結局、奴等は、二人で、当主になることに決まり、再び決闘するかもしれないと、言葉を残し、俺たちのもとを去ったのだった。
「それにしても、いつぶりかしら。《炎魔》、あなたに会うのは。」
急に、瑠璃さんは、そんな話題を取り出した。口ぶりからして、前からの知り合いであることは、分かっていたのだが、それにしたって急にである。
「四十年ぶりくらいではないか。あの頃は、俺もまだ、十にも満たない年であったからな」
懐かしむように呟いた《炎魔》の当主を尻目に、俺と美希は、本格的に瑠璃さんの年齢が気になったという。




