0話:プロローグ
紫の目が夜の黒の中にポツンと淡く光っている。とても怖く、冷徹に。
―――一陣の風が吹いた。巻き起こる風とともに、紫色は消えていた。それは一体何だったのだろうか。
いつもどおりの日常。壊れないように守り続ける日常。非日常を望まない日常。今の日常がいつまでも、いつまでも続けばよい、そう思う。そもそも、非日常とは何か、なんていうのは分からないし、誰もが日常を望むわけではないのも分かっている。例えば、アフリカの貧しい暮らしなんて知らないし、アフリカの人にとってはそれが日常だ。続いて欲しいわけが無い。そんなことを、いつか考えていた。そんな、ある日。俺は、出逢ってしまった。あの、冷たく妖艶な、氷の女王に。
氷の女王。最初にそう名乗られたとき、何を言っているのか分からなかった。彼女は、酷く凍てついた目で俺のことを見つめた。紫の綺麗な瞳だった。だが、その瞳から伺えるのは絶望と孤独と小さな希望だった。そうして彼女は言った。
「氷、それは、全てを終わらせる終焉よ。貴方に耐えられるかしら」
クスッと笑うように言った。その後、彼女は何かを俺に向かって言った。全く理解できなかった。しかし、そのとき、俺の周りは暗く寒くなった。それと同時に全てに見放された気分になった。何なのだろう。全てを終わらせる終焉。それがこれか…。俺は、嫌だ。こんなの、嫌だ。
「………………消えろ」
瞬間、明るく暖かいものに包まれる。
「あなたは、なにかしらね。本当の《終焉》ではないとはいえ。フフッ、着いてきなさい。あなたは、力を手にする権利がある」
そうして俺は『夜』を手に入れた。全てを包む最凶の魔法を。
魔法使い。そんなものが存在するのかと疑問に思う事もあるだろう。しかし、この世界には確かに魔法使いと言う者が存在していた。密かに、見つからないように。だが、中世の時代に《魔女狩り》が本格化されてきて、世の魔法使いは怯え、隠れ、逃げ、それでも半数以上減ってしまった。数が激減した魔法使い達は、徐々に死に絶え、血が薄れ、今となっては、少しの魔力しか持たないものが多い。それでも優れた魔力を持つ家のものは少なからず現存していて、有名なものとなると《三縞》や《炎魔》などがある。そう言った名家では、弟子を採り、その弟子に継承していくシステムを採るところが多くなっていると言われている。そして、多々の家々に十人十色様々な能力を持っている。もちろん相性はあるが、中には様々な魔術を操る人もいる。そうやって、幾人もの人間が魔法を使えるが、それでも世界的規模で見ればかなり少ないと言える。そもそも、魔力というものを持って生まれる人間が少ないのだ。それに、持って生まれたとしても、開花する事も滅多にない。
そして、そんな時代でも、家同士のいざこざは起こる。今は魔法使いが少なくなって、同士討ちすべき時ではないのは、皆分かっている。それでも、互いに知らない魔法というのは、恐怖の対象であり、忌むべきものでもある。だから、争いが絶えず起こるのだ。最近の争いの中で最も、過激で危険な争いは、やはり、《炎魔》と《劉水》の二家が、長野の山奥で対決をして、山を二つ破壊した事だろう。一応、世間的見解では、地割れによる災害と、それによって起きた二次災害となっている。二次災害が付け足されたのは、《炎魔》によって、焼かれた木々や、《劉水》によって、増水した河などが原因に上げられる。こちらは、山小屋に放置された危険発火物が、地割れの際に発火した、と、ダムが一つ決壊したと言う言い訳になっている。
要するに、魔法使いが絶滅の危機にあるのに、同士討ちして、一般人にも危険が及ぶような危機的状況になってしまう。そんな逆一石二鳥(いらない事をすれば、二つもいらない事が起こる)になってしまうのだ。
そんな魔法の実態は、未だによくは知られていない。ただ、魔力を媒体に使うものというだけで、その魔力が何かは未だに解明されていない。魔力は、心の奥底に存在するように感じられる。瑠璃さんに教わった魔力というものは、自分の《気持ち》という事だけだった。
そして、これから、激化を辿る魔法の話が、此処に綴られる…。