第九話 勉強会イベント、開始早々バグりました!?
▶恋エグメモ
【白砂 律】=【45/100】
(玲の隣は自分の場所だと本気で思い始めている。サクラへの「玲自慢」が止まらない。)
【鬼塚 烈】=【42/100】
(二人きりの勉強会を逃し、不機嫌さを隠しきれない。)
【黒崎 冴】=【41/100】
(玲への執着と庇護欲が着実に深化。烈への告白めいた発言に静かな危機感を募らせている。)
【神城 豪】=【41/100】
(恋愛経験値ゼロゆえに感情の整理が追いつかない。玲を「守りたい」という気持ちが少しずつ大きくなっている。)
【千早 絢】=【40/100】
(穏やかな笑顔の裏で独占欲が成長中。玲の隣に立つ権利を自然に確保しようとしている。)
本来の主人公・サクラが生徒会へ加わり、『恋エグ』のメインシナリオはいよいよ本格始動――。
……の、はずだった。
放課後の生徒会室。
私は書類を整理しながら、開発者時代の記憶を総動員して今後の展開を思い返していた。
(次は、定期考査イベントだよね。)
恋愛シミュレーション『恋エグ』において、定期考査は重要なイベントの一つだ。
プレイヤーは攻略対象の中から二人を選び、一緒に勉強会を行う。
親密度を上げたり、個別ルートの伏線を回収したり。
選択肢次第で、その後の展開が大きく変わる。
(そしてここから、本格的にサクラちゃん無双が始まるんだよね!)
私は微笑ましい気持ちで視線を向けた。
すると――。
「律くん、絢さん! よかったら一緒に勉強しませんか?」
サクラが勇気を振り絞るように声をかけていた。
「お菓子も作ってきたんです! 休憩の時にでも――」
「……それよりさ。」
律はサクラではなく、なぜか私を指差した。
「玲って本当にすごいんだよ。あんたクラスメイトなんでしょ?」
「え?」
「授業中ってどんな感じ? 友達多い?」
「いや、その……。」
戸惑うサクラ。
「もっと教えてよ?」
律の瞳はきらきら輝いていた。
ただし、向いている先は玲である。
(違う違う違う!! そこはヒロインとの会話イベントだから!! なんでヒロインじゃなくて私の情報収集してるの!?)
その隣。
「絢さん、お菓子どうですか?」
「……今、勉強に集中したいので。」
ぱらり。
教科書のページがめくられる。
「静かにしていただけますか?」
「……は、はい。」
サクラの肩がぴくりと震えた。
手の中のクッキーの包みをぎゅっと握る。
しゅん、と小さく肩を落とした。
今日もまた、主人公の恋愛フラグは音を立てて折れていた。
一方――。
(……いや、人のこと考えてる場合じゃないな。)
如月玲は完璧超人。
文武両道。成績優秀。非の打ち所がない生徒会長。
――しかし。
中身はゲーム開発オタクである。
(万が一赤点なんて取ったら大惨事だよ!? 如月玲ブランドに傷がつく!!)
それだけは避けなければならない。
(せっかくだし、誰か誘って勉強会しよう!)
過去問を持っていそうな人物。
三年生。
面倒見も良さそう。
(……よし。)
私は勢いよく立ち上がった。
「ねぇ、烈!」
「ん?」
「俺と付き合ってほしいんだけど!」
――しん。
空気が止まった。
「……は?」
烈が目を丸くする。
豪の口は半開きになり。
律は瞬きを忘れ。
絢の笑顔が固まり。
冴がゆっくりと本から顔を上げた。
そして――。
「ふぇぇっ!?」
サクラが顔を真っ赤にして口元を押さえる。
一斉に騒ぎ出す生徒会室。
一人だけ、私はきょとんとしていた。
「三年生だし、過去問も持ってるでしょ? 烈の部屋で一緒に勉強会できたらいいなぁって。」
「……おい。」
ぴくり。
烈のこめかみが引きつった。
「それを先に言えよ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶ。
「なんで最初に『付き合ってほしい』なんだよ!!」
「え、だって勉強会――」
「普通そうはならねぇだろ!!」
大きくため息を吐く。
そして、乱暴に金髪をかき上げた。
「……チッ。紛らわしいこと言いやがって。」
けれど、口元にはいつもの不敵な笑み。
「まあいい。付き合ってやるよ。」
にやり、と八重歯を覗かせる。
「俺の部屋で二人きり、みっちり教え込んでやるからな?」
「ダメ!」
律が立ち上がった。
「玲は俺が教える!」
「おい! 二人きりは危険だろ!」
豪も慌てて声を上げる。
「俺も行く!」
「ふふ。僕もお手伝いできますよ?」
「……私も参加する。参考書を持ってこよう。」
「わ、私も参加させてくださいっ!」
全員集合。
私はぱっと顔を輝かせた。
「おお! じゃあ生徒会室でみんなで勉強会しようか!」
「……チッ」
烈が露骨に舌打ちする。
「「「「…………」」」」
残る四人も無言。
どうすれば玲の隣を確保できるか。
二人きりになれる時間を作れるか。
静かな火花が散っていた。
しかし、当の本人はそんな攻防など露ほども知らない。
(推したちと勉強会!! 勉強してる推しが見放題!? なにこの神イベント!! 贅沢すぎるっ!!)
頬を緩める玲。
――その頃。
サクラは、机の隅でクッキーの包みを抱えたまま小さく首を傾げていた。
「……あれ?」
ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「やっぱり……みんな、玲会長ばっかり見てる。」
誰にも聞こえない小さな呟き。
こうして、本来なら主人公・サクラを中心に進むはずだった定期考査イベントは――
開始からわずか五分で、盛大にバグったのだった。




