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不死刑—世界を救えば死ねるらしい—  作者: 茄子田わさび
第二章:万魔のラビリンス
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幕間①:怪物は謳いたい

 休日の昼下がり、俺は一人で街を歩いていた。 

 

 今日はノエルとセスカは一緒に買い物に出掛けている。

 俺は……適当にうろつくかな。


 何だかんだいって、俺たちはまだフレデリックの街に滞在している。

 適当に依頼をこなしながら、空いた時間で街の復興を手伝っているのだ。

 それも順調に進んでおり、街は活気を取り戻しつつあった。


 ただ、目下問題が一つある。


 それは──


──『おお神よ(オ・レティーア)おお神よ(オ・レティーア)哀れな子羊を救い(ミ・シルヴェリーナ)たまえ(・ソニア)我らを導きた(ラス・フェミーア・)まえ(オルエ)

  

 …………こいつ(デウリエリ)がうるッッッさいことだ。


 確かに歌は上手い。演劇歌手顔負けの歌声だ。

 だが、それを昼夜問わず四六時中頭の中でされてみろ。

 本気でノイローゼになる。


 おまけに無理矢理黙らせても、数時間後にはケロッと復活してまた(うた)い出す。

 お陰で俺の不眠は更に深刻なものになってしまった。


 最近、ノエルにも言われたばっかりだ。


『ヴァニさん、何だか顔が怖いです』

『何言ってるのよノエル、そんなのいつものことでしょ?』


 ついでにセスカの馬鹿にしたような声が脳内で再生された。

 畜生、あいつ本気で許さねぇ。


 ──少しだけ真面目な話をすると、これが釘の力を酷使した代償なのかとも思う。

  

 釘の中に封印されていたデウリエリの自我が、力と共に解放された結果復活した。

 そう考えると辻褄も合うというものだ。


 もう一つ代償はあった。

 こっちは大したことじゃないが。


「…………」


 ちらりと、俺は自分の右腕を見る。

 そこは元の日に焼けていない白い肌ではなく、炭のように真っ黒になっていた。

 だが別に見た目以外に変わったことはない。

 ちゃんと動かせるし、力も入るし、感覚もある。


 多分もう元に戻ることはないんだと思うと、少し寂しいけどな。


──『ねぇねぇ、もっと聞きたい? もっと聞きたい?』


 うるさい。聞きたくない。黙ってろ。


──『えー』  


 デウリエリは拗ねたような声を出す。

 こいつに感情は本当にあるのか? ただ模倣してるだけじゃないのか?

 分からないことだらけだ。

 

 それに、奇妙なものだ。本気で殺し合った存在と、今では共生しているのだから。

 ……まぁ最初に利用したのは俺だが。


 もっと奇妙なのは、俺がこいつに愛着のようなものを抱き始めていること。


 嘘だと思うだろ? 信じられないだろ?

 だが、事実だ。

 実害があって、悩まされているのにどこか憎めない。

 

 それが今の正直な本音だった。


──『あはは、ヴァニってばかわいー』


 黙ってろ。当然のように俺の思考を読むな。


 念じて、それは無理な相談かと悟る。

 何故ならこいつは俺の思考に寄生してるんだからな。

 

 二十四時間なんでも俺のことなら読み取り放題だ。

 プライバシーもクソもあったもんじゃない。


──『ラ、ラ、ラー』


 歌い始めたデウリエリを、俺はもう諦めの境地で放っておくことにする。

 どうせ止めても無駄なんだ。好きにさせておけばいい。


 ……はぁ、あれこれ考えてたら腹が減った。

 どこか適当な店でも見つけて入るか。


 周囲を見渡しながら歩いていると、デウリエリが再び語り掛けてくる。


──『焼きうどん食べようよ、焼きうどん』

 

 だから当然のように俺の好物を言い当てるな。

 そして焼きうどんはこの世界に無い。


 クソッたれ、意識させられたせいで猛烈に焼きうどんが食べたくなってしまった。

 何か似たような食べ物で、代わりになるものは……いや、あれは唯一無二の料理だ。代替品など存在しない。頂点は焼きうどんただ一つ。


 確か小麦粉と塩があれば麺は作れたはず……今度試してみるか?


 いや、俺の料理スキルは壊滅的だ。

 どう足掻いても失敗する未来しか見えない。


──『ならノエルかセスカに作ってもらえばー?』


 そうか! その手があった! お前は天才だ、デウリエリ!


──『やったー、じゃあ(うた)ってもいいよね? いいよね?』


 それは駄目だ。


──『けち』


 ぶぅたれるデウリエリを放置しながら、俺は諦めて適当に人の少ない店に入る。

 今、ここに俺の夢は決まった。

 いつか、完璧な焼きうどんを食べて見せる。


 そのためにはノエルたちの協力が必要不可欠だ。

 他力本願だが……信じてるぞ。


 こうして穏やかな昼下がりを、俺は騒がしい怪物と過ごすのだった。

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