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不死刑—世界を救えば死ねるらしい—  作者: 茄子田わさび
第二章:万魔のラビリンス
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第46話:歪んだ男の成れの果て①

 階段を下りた先は、荘厳な山奥のような風景だった。

 奥にある寺院までの山林の道中には、無数に突き刺さった千の剣がある。

 成程、これはまさしく千剣の迷宮(ラビリンス)というわけだ。

 

 しかし、道はそれほど長いわけでもない。

 五分もあれば寺院まで辿り着くことができるだろう。

 つまり、ここは変な小細工なしの最終地点というわけだ。


「遂に辿り着いたわね」

「そうですね……気を引き締めていきましょう」


 そしてきっと、この奥には今回の異変を引き起こした犯人がいる。

 どんな面をしてるのかは分からないが……一発殴ってやらなきゃ気が済まない。

 

 そうして戦場跡のような山林を進んでいると、不意に進行先の空間が歪んだ。

 武器を構える俺たちの耳に、聞き覚えのある高笑いが届く。


『おめでとう、おめでとう! よくここまで辿り着いたな!』


 そして現れたのはマルクス……なのだろうか。

 疑問形になったのには答えがある。奴は、大きな変貌を遂げていた。


 ずしんと音を立てて奴が地面に着地する。

 その姿は、まさに異形のバケモノと呼んで差し支えない。


「マルクス……あなたは……」

 

 ぼこぼこに膨れ上がった巨体の各所。

 右腕は大きな鎌のようになっており、反対に左腕は(いびつ)なほどに小さい。

 足は魔物のように鋭い爪が生えた筋肉質なもので、唯一奴の面影を残しているのはその顔面だけだ。


『ああ、見ろよこの姿。気持ち悪いよな。でもいいんだ、これで俺は再びこの世界に戻ってきたんだからさ!』


 マルクスはそう言って、勢いよく右腕を振るう。

 距離はかなり離れているはずなのに、それだけで左右の林の木々が薙ぎ倒された。


『それに、この力──ヒャハハ! こいつはいい! この力があれば俺は無敵だ!』

「……どうやら狂ったのは頭だけじゃないみたいね」


 セスカが毒づく。


『それで……』


 ぎょろりと、零れ落ちそうな程に見開かれたマルクスの目が俺たちを、それからノエルを捉えた。


『ああ、会いに来てくれたんだなぁノエル。ずっと待ってた。お前ならここまで来れるって信じてたぞ!』

「……っ!」

『さあ、俺の下に来い! 今なら傷付けずにお前を迎え入れてやる! 一緒にそいつらを殺そう!』

「何言ってるんですか、そんなの死んでも嫌です」

『ハッハッハ! そう言うと思ったよ! なら仕方ない──死ね』


 その言葉を聞き終わるか、聞き終わらないかぐらいのタイミングで俺の体が動いた。

 一瞬でノエルの前に行き、剣を構える。


 甲高い硬質な音が山林に響き、俺の剣と奴の鎌と化した右腕が交差していた。


『へぇ、これに間に合うのか』

「……どういうつもりだ。お前の望みは、彼女を自分の手下に引き入れることだろ。何故殺そうとする?」


 俺の問いかけに、マルクスはニヤリと笑って返答の代わりに蹴りを放ってきた。

 咄嗟に腕でガードすると、凄まじい衝撃が届いて俺は数メートル後退る。

 今ので骨がイカれなかったのは、やはりデウリエリの釘のお陰だろう。


『別に死んでも構わないさ。どうせ俺みたいに生き返れるんだからな、それも素晴らしい肉体を持って!』

「ふざけないでッ!」


 再びノエルを狙って振り下ろされた右腕を、今度はセスカが防ぐ。


「アンタの歪んだ思想に彼女を──アタシの親友(・・)を巻き込まないでちょうだい!」

 

 そう叫んで、なんとセスカは細剣(レイピア)で押し返した。

 その剣身は半ばで折れたままだというのに、だ。


 まさか──


『チィッ! どいつもこいつも俺の邪魔をしやがって!』

 

 マルクスは忌々し気に吐き捨てると、一度飛び退いて元の位置に戻る。


「セスカ、お前……」

「……正直、アタシも驚いてるわ。もしかしてだけど──」


 言い終わる前に、遠隔斬撃が飛んでくる。


「≪堅水壁(アク・ミリア)≫!」


 しかし斬撃は俺たちに届く前に、ノエルの張った防御壁に防がれた。


「ヴァニさんたちには、傷一つ付けさせません」

「ありがとう、ノエル」


 俺は彼女に礼を言いながら、セスカの体を見る。

 特に何も目立ったところはない。傷一つない綺麗な体だ。


 だが、さっきの膂力(りょりょく)は──


「あの時、俺の……いや、正確にはデウリエリの力の一部がセスカに移譲された?」

「……かもしれないわ」


 どういう理屈かはさっぱり分からない。 

 しかし、そうとしか言い切れない状況だ。


 ともかく。


 この状況を打破し、奴を倒すのにこれほど心強いことはない。


「セスカ、これを」

「ありがとう」


 俺は自分の剣の一本をセスカに渡す。

 

「仕掛けるぞ、ノエルは俺たちがバリアの外に出たら魔法で援護を頼む」

「任せてください」


 セスカと頷き合い、二手に分かれてバリアの外に。


『何をこそこそと! お前たちが何を企んだって、全部無意味なんだよ!』

 

 マルクスは次から次へと斬撃を飛ばしてくる。

 それを回避し、一瞬足に力を溜めたあと俺は全力で地を蹴った。


『なっ! 迅い!?』

「こっちだ」


 俺の姿を見失ったマルクスが一瞬虚を突かれた隙に、俺は既に奴の背後に回り込んでいた。


『がぁっ!』

「アタシのことも忘れるんじゃないわよ!」


 背後から剣を突き刺され、マルクスが前のめりに突っ張ったところで、セスカが正面からやってくる。

 そして剣に炎を付与し、正面からも剣を刺す。


『こ、のォ……ッ!』

「≪斬裂水(アルフェリア)≫!」


 トドメにノエルの水魔法がマルクスの両足を襲い、切り飛ばす。


『ぐおおおおぉぉぉぉぉぉッ!』


 チェックメイトだ。

 動けなくなった以上、奴に打つ手はない。


 俺はその首筋に剣を当て、尋ねる。


「死ぬ前に答えろ。お前をそんな姿にした犯人は?」

『ヘヘッ……バーカ! やってみろよ』

「そうか」


 どうやら答える気がないようだ。俺はマルクスの首を斬り飛ばした。

 別に拷問する気はなかった。どうせこの後すぐに分かることになるからな。


「……さ、行こう」

 

 そして寺院を目指してその場を後にする俺たち。

 しかし、その背後でぼこぼこと何かが泡立つような音が聞こえる。


「何だ?」


 振り返ると、奴の死体は消えていなかった。

 それどころか、全身が激しく弾け、収縮し、新たな姿を形作っている。


「どうやら、まだ終わりじゃないみたいね」

「ああ。お前ら、構えろ」

「マルクス……」


 復活したマルクスは、先ほどよりも一回りほど大きくなっていた。

 もはや人の姿を留めていない。その姿はまさしく──そう、恐竜。

 翼を持たず、されどその力は竜の如し。

 

『GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!』


 そんな恐るべき怪物が、俺たちの前に再び立ち塞がった。

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