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不死刑—世界を救えば死ねるらしい—  作者: 茄子田わさび
第二章:万魔のラビリンス
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第45話:できない約束

 セスカが息を吹き返し、帰還を喜び合った後。

 俺たちは休憩を取っていた。

 ここは所謂(いわゆる)ボス部屋だからな。

 他の魔物が寄り付く心配もない。


 そして情報共有を兼ねて、話し合う。

 (おおよ)そは各自見たものは同じだった。


 ここにきて、急に冒険者たちの死体が現れたのだ。

 その死体は凄惨なもので、溶かされているもの、喰われているもの、餓死しているもの、などなど……実に多岐(たき)に渡る。


 結論から言うと、やはり第三層で踏んだ転移の魔法陣に、他の冒険者たちも捕まってしまったのではないかということになった。


「ねえ、ヴァニ」

「ん?」

「あのさ、アンタのさっきの戦いだけど……」


 どうやらセスカは気になっているようだ。

 それはノエルも一緒のようで、俺に向かって頷く。


 なら、見せた方が手っ取り早いか。

 ……いや、やっぱりやめておこう。


「別に、ちょっと本気で戦っただけだ」

「嘘」

「嘘ですね」

「即答かよ」


 こんなもの、見せない方がいいに決まってる。

 どうせ心配をかけるだけだ。


 俺が取り込んだデウリエリの釘の副作用は、今のところ出ていない。

 確かに全身に行き渡る謎の力を感じるが、それによって苦しくなったり体が激しく痛んだりなんてことは起こっていない。

 もっと別の所で何か作用が起きている可能性はあるが、感知できない以上気にしても仕方がないだろう。

  

「何か隠してるわね」

「別に何も」


 やけに食い下がってくるな。

 セスカは俺の顔をじっと見つめた後、ぼそりと言った。


「アンタさ、気付いてる?」

「気付いてるって何が」

「アンタ……嘘をつくときね、一瞬だけ左の口角が上がるのよ」

「……は? おいマジかよ」

()よ」


 しまった。まんまと罠に掛けられたか。

 セスカは勝ち誇ったように笑い、そして言う。


「やっぱりね。……ねぇ、教えてよ。隠し事なんて寂しいじゃない」

「そうですよ。どうしても言いたくないのなら別ですけど……それでも、私たちは仲間じゃないですか」

「…………」


 そういうことを言われてしまうと、俺としては弱い。

 確かに隠した理由は彼女たちに心配をかけたくなかったからだし、隠したことで逆に心配させてしまうなら意味はないからな。


「俺が強くなった理由は、これ(・・)だ」


 そう言って、俺は服の襟をずらして心臓の辺りまで露出させる。


 まるで刺青(いれずみ)のように、しかし不気味に脈動する紋様(もんよう)と、その中心に深々と突き刺さる釘を見て、彼女たちは目を(みは)った。


「何、それ……?」

「まさか……」

「ああ、デウリエリが落としていったものだ。つっても、セスカは知らないよな」


 俺は少し説明をする。

 ノエルと出会った時のこと、一緒にデウリエリという怪物を(たお)したこと、そしてそこまでの道程(みちのり)を。


 彼女は黙って聞いていたが、やがて聞き終えると(けわ)しい顔で俺を見た。


「何で、そんな意味の分からないモノを自分に使ったの?」

「頭の中の声に従った」

「っ……! 意味が分からないわ! 危険なモノかもしれないんでしょ!?」

「今のところは何も起きてない。だから平気だ」

   

 しかし俺の説明に納得できないのか、セスカは唇を噛んで(うつむ)いてしまった。


「私もセスカさんと同じ意見です。もし今後、ヴァニさんの身に何かあったら……」


 ノエルは眉をハの字に曲げてそう言う。

 

 正直、彼女たちの心配は痛いほど分かる。

 今は良くてもこれから何か良くないことが起きれば、それは一大事だ。

 ただ、あの時は使うしかなかった。

 そうしなければ、彼女たちの救助に間に合うことはなかったのだから。


「……らしくねぇよな、焦るなんて」

「もう一つ聞かせてください」

「何だ?」

「さっき言ってた『頭の中の声』って何ですか?」

「ああ、それか……正直、俺にもアイツ(パーカーの男)が何なのかはよく分かってないんだが──」


 こっちに関しては隠す必要はない。

 俺は二人に、自分が死んだ後たまに行く世界に現れる謎の男のことを説明した。

 そして、その男の声に従って釘を使ったこと、それからセスカが息を引き取った直後にあの男の声がして、そのお陰で諦めずにセスカを蘇らせることに成功したことを。


「またよく分からない存在が出てきたね……そいつは平気な奴なの?」

「ああ、ただ雑談をして終わるだけの関係性だ。悪意や害意みたいなのは感じたことがないな。むしろ、好意や親しみがひしひしと伝わってくる」

「その人は誰、なんでしょうか……」

「さてな、分からん」


 今度会ったら聞いてみよう。

 アイツはどうも、俺の知らない何かを知ってる気がする。

 そうでなくても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()はずっと気になってたからな。


「さて、一通りの情報共有は終わったか。まだ何か聞きたいことはあるか? なければそろそろ次の階層に行こうぜ」

「最後に一つだけ」

「なんだ」


 セスカはそう言って、俺の服の裾を握った。


「もう、これ以上アタシたちに何も言わないで危険なことをするのはやめて。……それを、今ここで約束してちょうだい」

「それは……」

「私からもお願いします、ヴァニさん」


 二人は真剣な顔で俺に懇願(こんがん)する。

 しかし俺は、即答することができなかった。


 もし今後、同じような状況になったらどうするだろうか?


 答えはこうだ、迷わずそうする。

 これは散々主張してきたことだが、俺は俺の命や身体なんてどうでもいい。

 この身を使い潰してでもノエルやセスカを守れるなら、喜んでそうしてやるつもりだ。


 だが、言い淀んでいるとセスカが俺の裾を掴む手が更に強くなる。


「……お願い、ヴァニ。もうアンタが独りで無茶をする姿を見るのは、耐えられないの……」

「セスカ……」

「危険なことなら一緒に考えてやりましょう。もし相談できない状況なら、私たちを信じてください。それとも……〝相棒〟のお願いでも聞いてくれないですか?」

「お前まで……」


 俺は少し逡巡した後、頭をガシガシと掻いてため息をついた。


「わかったよ、約束する。黙って無茶するのはやめるよ、ちゃんと相談してからにする」

「信じるからね」

「信じます」


 そうして解放された俺は、二人と一緒に立ち上がる。

 いよいよ次の層だ。

 これはただの予感だが……何となく、次の層が最後な気がする。


 階段はこの先だ。

 歩きながら、俺は自分の心が痛むのを感じた。


 ……悪いな、ノエル、セスカ。さっきの言葉は嘘だ。

 俺はもう、後悔したくないんだよ。

 お前たちを信じてないわけじゃないが、この世には現実ってものがある。


 だから、俺は──

 

 謝罪の言葉は、口の中で済ませた。

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