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不死刑—世界を救えば死ねるらしい—  作者: 茄子田わさび
第二章:万魔のラビリンス
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第28話:迷宮の調査へ

 翌日、俺たちは千剣の迷宮(ラビリンス)の前に集まっていた。

 今日からいよいよ調査が始まる。

 

 さて、この先に待ち受けるのは一体何か……。


「二人とも、準備はいいか?」

「はい、行きましょう!」

「ええ、問題ないわ」

 

 迷宮(ラビリンス)の入り口の前には、衛兵が二人待機している。

 彼らは俺たちの姿を認め、声を掛けてきた。


「失礼、現在迷宮は立ち入り禁止となっています。失礼ですが、あなた方は?」

「今回正式にギルドから迷宮調査の依頼を出された冒険者だ」


 そう言って、俺はあらかじめシモンに貰っていた許可証を見せる。


「ハッ、失礼しました。どうぞお進みください。……お気をつけて」


 衛兵は敬礼し、俺たちを塞いでいた槍を退ける。

 軽く礼を返して迷宮の中に入ると、そこは正に迷宮、という風な見た目になっていた。


「これが迷宮(ラビリンス)……」


 俺の少し後ろを歩くノエルが呟く。


 暗くどこまでも続いていそうな迷路の壁に、等間隔で松明(たいまつ)が掲げられている。

 漂ってくる空気は重く、どこかひんやりとしていた。


 これは所謂(いわゆる)、迷宮の玄関口と呼ばれるものだ。

 こんな雰囲気の景色がしばらく続き、ある程度進むと全く別の景色構造が現れるというのが通例になっている。

 

 その内包量と空間の広さは外観と大きく異なっており、異質な存在というのが迷宮(ラビリンス)の特色だ。


「今のところは普通ね」

「流石に入ったばっかりだからな。これで何かあったらそれこそ笑えない話だ」


 曰く、迷宮に足を踏み入れた冒険者は帰ってこないという話だったか。


 考察できる可能性としては、何かしらの(トラップ)が異常作用しているのか、あるいは帰ってこれないほど凶悪な魔物が徘徊しているからか。


 何にせよ、もう少し奥に進んでみないと分からない。


「っと、お前ら構えろ。早速お出ましだ」

 

 前方十五メートル先の曲り道、その角から何かが出てくるのが見える。

 赤褐色の巨体に、でこぼこの大鉈を構えた魔物──喰鬼(オグル)だ。


「入ってまだ三分も経ってないってのに、こんな浅瀬で喰鬼(オグル)だと?」


 早々の異変を疑問に思いながらも、剣を構える。


 しかし。


「ヴァニ、ノエル。ここは私に任せてくれないかしら?」

「あん?」

「私だってあれから強くなったの。成長を見せるいいチャンスだから」


 そう言うなら、任せよう。

 俺とノエルは構えを解き、セスカを見る。


『GRRRRRRAAAAAAAAAA!』


 喰鬼(オグル)が俺たちの存在に気付き、咆哮を上げる。

 そして猛スピードでこちらに向かって突進してきた。


「悪いわね、アンタじゃ試し切りにもならないわっ!」


 一方で、こちらにいるセスカも喰鬼(オグル)に向かって駆け出す。


「≪付与・火薔薇(エル・フェアリア)≫! はああっ!」


 走りながら魔法の詠唱をするセスカ。

 すると、剣に火で出来た薔薇が現れる。


 そしてすれ違いざまに、一閃。


『…………GA?』


 喰鬼は「今何をしたんだ、こいつ?」というような顔でセスカの方を振り返り、そして──上半身がズレたかと思えば、次の瞬間それがずるりと崩れ落ち、絶命した。

 

 喰鬼(オグル)の死体は黒い砂煙を上げ、消えていく。

 

「ま、こんなものね」


 セスカは得意げに肩にかかった髪を背中へ流す。


「へぇ、やるじゃないか」

「付与魔法ですか。凄いです!」


 素直に感心した。

 付与魔法というのは、かなり難易度が高いと聞く。


 それをあの一瞬で構築、実行に移してみせるとは恐れ入った。


 セスカはこちらへ戻ってきながら、喰鬼(オグル)の死体があったところに落ちていた魔石を拾い上げる。


 迷宮(ラビリンス)で命を落とした魔物は、死体を残さずに魔石やドロップ品を落として消えるという法則がある。

 それがどういう原理で、何故そうなるかは長年の研究を経た今でも解明されていない。

 

 が、魔物が落とした魔石には強い魔力が込められており、魔法道具の製作や風力などの代替エネルギーとして活用されており、迷宮に潜る冒険者はこれらを売って生計を立てることになるのだ。


「さて、引き続き進みましょう」


 セスカの言葉に頷き、俺たちは再び進行を開始する。


「しかし、この迷宮で異変が起きてるってのは本当みたいだな」

「どうして分かるんですか?」

「ああ、ノエルは迷宮攻略は初めてだったか。迷宮(ラビリンス)ってのはな、奥に潜れば潜るほど魔物が強くなるんだ。だから、こんな浅い所でさっきの喰鬼(オグル)みたいな魔物が出てくるなんて普通はありえないんだよ」

「へぇ」


 ちなみに魔獣と魔物は区別が付けられている。

 自然界で発生し、生息しているのが魔獣。

 ダンジョンに棲んでいるのが魔物だ。


「私が前に千剣の迷宮(ラビリンス)に潜ったときは、大体この辺りだと出てくるのはスケルトンかレッドキャップぐらいだったわね」

 

 セスカが挙げた魔物は定番中の定番。

 その中でも所謂(いわゆる)〝雑魚〟として数えられる存在だ。


「こんなことになってるなら、そりゃ新米の冒険者なんかは命の危険があるわな」

「ええ、そうね」

 

 そんな話し合いをしながら進んでいると、前方から再び喰鬼(オグル)が。

 今度の数は三体だ。


『GOAAAAAAAAAAA!』


 喰鬼(オグル)は俺たちの姿を見るなり、咆哮を上げる。


「お二人とも、今度は私にやらせてくれませんか?」

「へぇ、お手並み拝見ね」


 俺はノエルの方を見て頷いた。


「今のノエルならやれる。かましてやれ」

「はい!」


 ノエルもまた、俺を見て頷き返す。


「≪斬裂水(アルフェリア)≫!」


 斬。

 

 水でできた剣が喰鬼(オグル)の首を三体まとめて斬り飛ばす。

 倒れる間もなくそのまま喰鬼たちは砂となって消えていった。


「どうだ? うちのノエルは」

「な、中々やるわね」

 

 今となっては見慣れたが、相変わらず出力が出鱈目(でたらめ)だ。

 初見のセスカは顔を引きつらせながら笑っている。


「うーん……まだこれじゃ足りないですね」


 当の本人は、自分の杖を見ながら残念そうな顔をしているが。


 それからも、俺たちは代わる代わる出てくる魔物を倒しながら迷宮を進んだ。

 現段階ではまだ異変らしい異変というのは、出てくる魔物の種類がおかしいことくらいしか見当たらない。

 

 これだけでは、迷宮(ラビリンス)で失踪した冒険者の謎の手掛かりを掴むことはできない。


 気付けば俺たちは、巨大な扉の手前までやってきていた。


「さて、ここからはフロアボスとの戦闘だ」

「本で読んだことがあります。確か、次の空間に進むための関門ですよね」

「その通り、ノエルは勤勉だな」

「えへへ……知識が役に立ちました」

 

 そう言葉を交わし合っていると。


「(っくぅ~~~~~! どうしてイチャイチャしてるのよ! アタシだってヴァニに褒められたいのに!)」


 何かを小声で叫びながらセスカが地団駄を踏んでいた。


「おいセスカ、どうした?」

「べ、別に!? 何でもないわよ! そ、そんなことよりさっさと行きましょ!」

「お、おう」

「どうしちゃったんでしょう、セスカさん」


 彼女はスタスタと先に歩いて行ってしまう。


 俺とノエルは顔を見合わせながら、その後に続いた。

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