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不死刑—世界を救えば死ねるらしい—  作者: 茄子田わさび
第二章:万魔のラビリンス
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第24話:騒音公害

「ああああああああああああああああ~~~っ!?」


 突然聞こえてきた女の絶叫。

 あまりの(やかま)しさに思わず両手で耳を塞いでしまう。

 デウリエリ顔負けの大音量だ。


 他の冒険者たちも何事かと声の出どころを見つめている。


 そこに立っていたのは、綺麗なプラチナブロンドの髪をハーフアップにした少女。

 その小さな顔はまるで人形のような顔立ちをしているが、こちらを指さしながら盛大に顔をしかめっ面にしているため、その美貌が少し崩れている。


「アンタ! 何でこんなところにいるのよ!」


 少女は叫びながら、ずんずんとこちらにやってくる。


「げ……」


 その少女に俺は見覚えがあった。 

 といってもあまり良い思い出ではない。


「ヴァニさん、お知り合いの方ですか?」


 耳から手を放し、若干涙目になったノエルがそう問いかけてくる。


「知り合いっていうか、まぁ、そうと言えなくもなくもない……のか?」


 やがて少女は俺たちの目の前までやってくると、腰に手を当ててずいっと睨んできた。


「久しぶりねヴァニ。二十年ぶりかしら」

「二年だ」

「そうとも言うわね」

「はぁ……」

 

 年の頃はノエルと同じ、十六から十七歳ほど。

 動きやすい軽装の服と皮鎧に身を包み、腰にはルビーの嵌った細剣(レイピア)を差している。


「そっちの子は誰なのよ」

「お前には関係ないだろ」

「だ・れ・な・の・よ・って聞いてんのよ」


 面倒くせぇ……。

 俺は渋々ノエルを紹介する。


「俺の相棒でパーティメンバーのノエルだ」

「はぁっ!? パーティってアンタ、ちょ、えっ、はぁ!?!?」

「うるっさ、てかうるさい」


 ぎゃんぎゃんと喚く少女。

 

「は、初めまして。ノエルといいます」

「ふーん……この子がねぇ」

「あの……?」


 少女は舐めまわすようにノエルを見つめる。

 やがて納得いってなさそうな顔をしながら、威圧するように胸を張った。


「アタシはセスカ。セスカ・イープロイよ。ヴァニとは昔からの付き合い(・・・・・・・・)なの」


 少女──セスカは好戦的に口を吊り上げ、何故だか自信たっぷりにそう言った。

 

「てっきりこいつとパーティを組むのはアタシだけだと思ってたけど、アンタ、ヴァニのなんなわけ?」


 いや、そんな約束した覚えないが。

 ってか何でそんなにノエルに喰ってかかってるんだ、こいつは?


 理解できないでいるとしかし、ノエルもノエルで何やら不穏な笑みを浮かべる。


「私はヴァニさんの相棒です。これまでも(・・・・・)これからも(・・・・・)


「あ゛?」

「ふふっ」


 怖ぇよ、てか怖い。

 なんなのこの子たち。なんでバチバチ火花散らしてるわけ?

 仲良くしてくれよ……。


「まぁいいわ。で、ヴァニ」

「なんだよ」

「さっきの質問に答えなさい。なんでアンタがここにいるわけ?」

「仕事だ。イザベラに頼まれてきたんだよ」

「仕事ってなんの仕事?」


 しつけぇなこいつ。

 何でそんな根掘り葉掘り聞こうとしてくるんだよ。


「迷宮の異変の調査だ」

「ふぅん」


 セスカは相槌を打つと、くるくると自分の髪の毛の先を指で弄ぶ。


「いいわ。喜びなさい、アタシも付き合ってあげる」

「はぁ?」


 いや、喜ぶもなにも頼んだ覚えはないが。


「セスカさん、結構ですよ。これは私たちの(・・・・)仕事ですので」


 ノエルが何故か圧のある口調で返す。

 あれ……こんなトゲのある子だったっけ、ノエルって。


 俺の中のノエル像がゲシュタルト崩壊を起こしそうになっていると。


「あなたには言ってないわ。っていうか、あなたでヴァニの相棒が務まるわけ? そうは見えないけど」

「セスカさんにどう見られようがどうでもいいですけどね。私はしっかりヴァニさんのお役に立ってみせますよ?」

「この泥棒猫」

「なんですか、チワワさん」

「どうどうどうどう! お前ら落ち着け。何、何なの」


 何の因縁なんだよ、マジで。

 どうして喧嘩が起きそうになってるのか本気で理解できない。

 だがまぁ、とにかく面倒くさいことはごめんだ。


「ヴァニ様、ノエル様、お待たせいたしました。支部長がお待ちですのでついてきてください」

「あ、ああ。分かった」

「はい」


 ナイスタイミング。

 丁度支部長の準備が整ったようで、職員が呼びに来てくれる。

 

 この空気のままいるのは正直キツかったからな。

 ありがたい助け船に乗らせてもらうとしよう。


「それじゃセスカ、またどこかでな」


 軽く手を上げて挨拶し、職員の後についていく。


 が。


「……あの、セスカさん?」

「なによ」

「なんでお前もついてきてるわけ?」


 セスカは普通に俺たちの後に続いてきた。


「あら、もう忘れたの? 言ったじゃない、アタシも付き合ったげるって」

「いや頼んでないが」

「そうだったかしら?」


 わざとらしく小首を傾げるセスカ。

 無駄に絵になっているのが腹立たしい。


 ふと、ノエルが俺の服の袖を引っ張って小声で呟いた。


「私、あの人嫌いです」

「おいおい、お前まで……」


 どうやらノエルとは合わないらしい。

 かといって、こうなったセスカは(てこ)でも自分の意志を曲げないんだよなぁ……。


 まぁ、支部長が何とかしてくれるだろ。

 

 俺は思考を放棄して、死んだ魚のような目で職員の後を追う。


 支部長室の前に着くと、職員がコンコンと扉をノックした。


「シモン様、ヴァニ様たちをお連れしました」

『うん、ご苦労様。入れてあげてくれるかな?』

「はっ」


 そして扉が開かれ、中に案内される。

 職員とはここでお別れだ。


 部屋に入ると、そこには恰幅(かっぷく)の良い男性が座っていた。


 イザベラの支部長室とは違って、こっちは良い匂いが充満している。

 恐らくその出どころは、机の上で()かれている香だろう。


「やぁ、初めまして。私はシモン・バンセル。このフレデリックのギルド支部長だ」


 支部長──シモンは首元まで伸びた顎髭(あごひげ)をさすりながら柔和に微笑む。


「ヴァニだ、んでこっちがノエル。今回はよろしく頼む」

「ご紹介いただきました、ノエルです。よろしくお願いしますね」

「うん、二人とも良い名前だね。さぁ、かけてかけて」


 シモンは穏やかな声音でソファに座るよう促す。

 そして、俺たちの後ろに目を留めた。


「はて、君はセスカさんだったかな? どうしてここにいるんだい?」

「アタシもヴァニたちの仕事に参加するからよ、支部長」

「えーと……」


 シモンは困惑した瞳でこちらを見る。

 俺は諦めたように首を振った。


「なるほど、君もなかなか苦労しているようだ」


 どうやら察してくれたらしい。

 頼むぞシモン、この騒音公害ド直球少女をつまみ出してくれ。


「うん、まぁいいだろう。人手はあればあるだけ有難いしね。さ、セスカ君も座って座って」


 って、おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!

 どうして歓迎してるんだよ! そこは追い出すとこだろう!?

 いいのかよ社外秘だぞ!? 一般の冒険者巻き込んじゃダメだろ!


 しかしそんな俺の嘆きは露知らず、セスカは俺の隣──ノエルの反対側にさも「当然」といった顔で座った。


 ノエルはといえば、思いっきり苦虫を嚙み潰したようなしかめっ面になっている。


 ハッキリ言って地獄の空気だ。

 間に挟まれる俺の気持ちにもなってほしい。


 そして見損なったぞ、シモン支部長。

 良い人そうだなと思った俺の純情を返してくれ。


 が、当の本人は穏やかな顔をしながら顎鬚(あごひげ)を撫で、話を切り出した。

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