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不死刑—世界を救えば死ねるらしい—  作者: 茄子田わさび
第二章:万魔のラビリンス
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第23話:フレデリック

 ガタゴトと揺れる馬車。

 空は相も変わらず穏やかな模様で、白い雲が浮かんでいる。


「あ~、つっかれたなぁ」


 俺は思いっきり伸びをする。

 フレデリックまでの馬車旅ももうすぐ終わりだ。


 道中は何事もなく、平和そのものだった。

 魔獣が出るでもなし、野党が襲ってくるでもなし。

 

 良いことではあるのだが、いかんせん暇で仕方がなかった。

 それに、ケツが痛いし。


「ふわぁ……」


 向かいに座るノエルが欠伸(あくび)をする。

 彼女はずっと本を読んでいた。


 何の本かと気になって聞いてみれば、魔法に関する参考本だという。

 その勤勉さには頭が上がらないよ、本当に。


「お二人とも、もうすぐ着きますよ」

 

 御者の声に頭を上げれば、フレデリックの街が見え始めている。

 到着まであと数分といったところか。


「わぁ……あれがフレデリックですか」


 ノエルが感嘆のため息を吐く。

 遠目からでも見える、空まで届きそうなほど高く伸びた剣のような塔。


 あれがフレデリックの名物、『千剣の迷宮(ラビリンス)』だ。


 (もっと)も、今はその観光名所で異変が起きてるという話だが……そこは着いてから現地の支部長に話を聞いてみないと分からないな。


 それから少しの間馬車に揺られ、俺たちはとうとうフレデリックに到着。


 馬車を降りて再度背伸びをすると、()り固まった背骨がポキポキと小気味いい音を立てて鳴った。


「ん~~~、ふあぁ」


 隣に立つノエルも同じように伸びをしている。

 その様子を見て、まるで猫みたいだなと俺は思った。


「? どうかしましたか、ヴァニさん?」

「いや、何でもない」


 彼女のアーモンド型のくりくりした瞳がこちらを向く。

 

「それじゃ、入るか」

「はいっ」


 通行門で衛兵に冒険者の証であるタグを見せ、承認を得た俺たちはいよいよフレデリックの門を潜る。


 その瞬間、賑やかな人々の喧騒が聞こえてきた。


 街中は活気があり、大勢の人が行きかっている。

 屋台のオッサン、井戸端会議をするご婦人方、追いかけっこをする子供たち。

 

 平和そのものだ。


「素敵な街……」


 どうやらノエルはお気に召したようだ。

 街路樹の並ぶ街道を歩きながら、(しき)りに辺りを見回している。


 この街の建物は、それぞれが鮮やかなペンキで色を塗られている。

 青を基調に、黄色や赤など、実に様々だ。


 街にある大きな時計台を見る。


 時刻は十一時四十二分。

 確か現地での待ち合わせが十二時半だったから……まだ時間があるな。


「ノエル、ちょっと寄り道しようぜ」

「寄り道、ですか?」


 ノエルを連れて、俺は近くにあった屋台に寄る。


「いらっしゃい」

「おっちゃん、千剣焼き二つ頼むわ。釣りはいらん」

「まいど!」


 銀貨三枚を払い、俺は千剣焼きを二つ受け取る。

 

 これはこの街のダンジョンに(ちな)んで名付けられた名物で、丸い生地に千剣の迷宮が焼き印された甘い菓子パンのようなものだ。

 中にはカスタードとホイップクリームがふんだんに詰め込まれており、とても美味いと評判だ。


「ほらよ、ノエル」

「わわっ、ありがとうございます」


 一つを口で咥えながら、もう一つをノエルに手渡す。

 ノエルは不思議そうに千剣焼きを少し見つめて、それから小さくかぶりついた。


「~~~~~~っ!」


 そして咀嚼しながら目をキラキラと輝かせる。

 聞かなくても分かる。どうやら喜んでくれたようだ。


「ヴァニさんっ、これ、すっごく甘くて美味しいです。私これ大好きです!」

「ははっ、そいつは良かったな」


 俺も千剣焼きを一口齧る。

 うん、美味い。

 甘いのはあまり好きじゃないが、これはかなりいけるな。


 そうして二人でベンチに座り、景色を眺めながら千剣焼きを食べる。


 驚いたのは、ぺろりと平らげたノエルが自分の金でもう一つ買ってきたことだ。

 そんなに気に入ったんだな、これ。


 女子はスイーツが好きだとはよく聞くが、本当だったんだと実感する。


 ──そうこうしている内にいい時間になったので、俺たちはギルドに向かう。


 四分ほど歩くと、お目当ての建物が見えてきた。

 流石に帝都のものほど大きくも立派でもないが、それなりにどっしりと構えている。


 木製の扉を開け、中へ。


 しかしそこは、想像していたよりもずっと静かだった。


「…………」


 なんだか雰囲気が暗く、ちらほら見える冒険者たちもどこか浮かない顔つきをしている。

 

 これも迷宮で起きている異変のせいなのだろうか。

 前に来たときはもっと騒がしかった記憶があるが。


 気にはなるものの、受付カウンターに向かう。


「すまない」

「あ、ようこそおいでくださいました。本日はどのようなご用件で?」

「ああ、帝都ギルドから来たヴァニとノエルだ。迷宮の異変の調査で派遣された」

「あ、ああ! お話はお伺いしております! 支部長にお話を通してきますので、しばらく空いている席におかけになってお待ちください」


 業務連絡を受付嬢に頼み、俺たちは適当な席に腰掛ける。


「皆さん、どうしちゃったんでしょう」

「さてな……随分と辛気臭い連中が多いのは確かだが」

「な、なぁ、あんたたち」


 ノエルと話し合っていると、一人の冒険者がやってくる。


「ん? 何か用か?」

「ああ。あんたたち、他所(よそ)から来たのか?」

「そうだが」


 冒険者は「やっぱりな」と一人で何かを納得したように頷く。


「悪いことは言わねぇ、今この街で活動するのはやめときな」

「どういうことですか?」

迷宮(ラビリンス)の呪いだよ。ここ最近、何十人も冒険者が失踪してるんだ」

「失踪ねぇ」


 何十人も、というのが引っかかる。

 そういえば、デウリエリの一件が明るみに出る前の逢魔(おうま)の森でも失踪者が相次いでいたはずだ。何か関連性はあるのだろうか。


「それに迷宮の中だけじゃねぇ。この辺の魔獣がみんな凶暴化してやがるときた」

「ほう? ってことはなんだ、前まではそんなことはなかったと」


 俺の質問に、冒険者の男は首肯する。


「前なら、この街は冒険者にとって天国みたいなところだった。迷宮(ラビリンス)での安定した収入はもちろん、街の周辺の環境もそこまで過酷じゃない。駆け出しの冒険者が何人もいたし、ベテランもそんな奴らの面倒を見ながら楽しく仕事できるいい街だったんだ」


 それが、と男の顔に悔しそうな色が浮かぶ。


「今となっちゃ、全部千剣の迷宮のせいだ。クソッ、あんなものがなければ……」


 なるほどな。

 どうやら何かが起こってるのは間違いないらしい。


「とにかく、俺は忠告したぜ。気を付けてくれよ」

「ああ、情報ありがとな」


 男はそう言うと、元居た場所に戻っていった。


「何が起きてるんでしょうね」

「それを調べるのが俺たちの仕事だ」


 職員はまだ呼びに来ない。

 時間を持て余している間、煙草でも先に吸っておくかとポケットを漁り始めた直後。


「あああああああああああああああああ~~~っ!?」


 ギルドの入り口の方から、(やかま)しい高音の女の叫び声が聞こえてきた。

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