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幕間①:討伐作戦を終えて

──冒険者ギルド・帝都支部長室


 目を通していた書類に判子を押したイザベラは、軽く伸びをした。 

 机の脇にはまだ山ほどの書類が(うずたか)く積まれている。

 これらを全て処理しなければ、仕事は終わらない。


「お疲れ様です、イザベラ様」

「ああ、お前もな」


 そっと、イザベラの前にコーヒーの入ったカップが置かれる。

 その心遣いに感謝し、近くの席に座って書類仕事に戻るギュスターヴに労いの言葉を掛けた。


「しかし、何だったのだろうな。アレは」

「さて……凡人の私には分かりかねます」


 先日、自身の目でも確認した異形の怪物──デウリエリ。

 アレは、明らかに人類の理解の範疇(はんちゅう)を超えていた。


 イザベラの長年の経験から断言できる。


 あの怪物は断じて魔獣などではない。

 もっと異質で、歪んでいて、まるで神話に出てくる悪魔のような存在だと。


 デウリエリに比べれば、魔獣など可愛いものだ。

 まるで愛玩動物のようにすら思えてしまう。


「…………」

  

 イザベラは、葉巻に火をつける。

 芳醇な香りの煙を吐き出しながら、少しの間天井を見つめた。


 ──実のところ、あの時イザベラは恐怖を覚えていた。


 たまたま駆けつけた頃にはヴァニとノエルの尽力のおかげで、運よく弱っていただけだ。

 もしも向こうが万全の状態で戦闘になっていたら、どうなっていたか分かったものではない。


「ヴァニたちに感謝、だな」


 独り言だ。

 

 それよりも、まずは目の前の仕事をこなさなければならない。

 数日前から、他ギルド支部からの問い合わせの書簡がひっきりなしに届いている。 


 内容はほぼ全てデウリエリに関するもの。

 やはりどこも、新たに現れた異形の存在について知りたいのだろう。

 当然と言える。今回はたまたまイザベラの管轄に現れただけだが、もしも他ギルドの管轄場所に現れていたらまた話は変わっていただろうから。

 

 それに、今回の一件だけで終わるとも限らない。

 もしかしたら第二、第三のデウリエリが現れる可能性だってあるのだ。


「それにしても…………ハァ」


 イザベラは煙と共に、ため息を吐き出す。


 デウリエリの話は今は一旦いい。

 これまでもこれからも、どうせ嫌になるほど見ることになるのだから。


 そして、一枚の書簡に軽く目を通した。


 その内容は『迷宮(ラビリンス)における異常事態の発生と応援要請』とある。 

 場所は同じく帝国領域にある街、フレデリックから。

 

 この街は世界でも有数の名所、迷宮(ラビリンス)がある場所で、多くの冒険者が集う街とされている。

 また、迷宮(ラビリンス)からの資源によってかなり豊かに発展しており、一般人も観光に訪れるほどだ。


 しかし、そんな観光名所としての(かなめ)に異常事態が発生しているという。

 加えて応援要請ときたものだ。

 

 気のせいであってほしいとはもちろん思うが、立て続けのコレ(事件)だ。

 イザベラにはどうしても、デウリエリの一件と無関係とは思えなかった。


「……何やら浮かない顔をされておりますが」

「ああ、また面倒な手紙が届いていてな」


 イザベラは今しがた自分が見ていた書類をギュスターヴに渡す。

 彼はいつも通りの仏頂面でそれを見つめたあと、イザベラに返した。


「成程、把握はいたしました。して、誰を派遣するおつもりで?」

「そのことで悩んでいるんだ。私の中での最有力候補はヴァニとノエルだが……ハァ、また奴に協力を仰がねばならないと思うとな」

 

 ヴァニは頼めば何だかんだ仕事をやってくれるが、毎回無理に押し付けている気がしてイザベラとしても申し訳ない気持ちがある。

 

 それに、今回の大仕事の大半を担ってくれたのは彼らだ。

 また別の大仕事を頼むともなれば、その負担は計り知れない。


 しかし、では別の冒険者を派遣すればと言ってもギルドは慢性的に人手不足だ。

 中途半端な冒険者を送ればこちらの評価にも関わるし、何より無駄な犠牲を生み出しかねない。


「面倒なことになったものだ。一難去ってまた一難、か」


 イザベラは腹を(くく)る。

 ここはやはり、ヴァニ達に頼むしかないだろう。

  

 その代わり、無事に仕事を終えて帰ってきた暁にはゆっくり休ませてやろう。

 今度何かが起きても、それは別の冒険者に頼めばいい。


 そんなことを自分に言い聞かせながら、イザベラは再び書類仕事に取り掛かった。

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