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第19話:重なる死の影④

 意識が途絶えたのは一瞬だった。

 すぐにチカチカと視界が戻り、次に聴覚、それから他の五感が戻ってくる。


 どうやら死んだようだ。

 毎度のことながら、自分の死に様は分からない。

 ただ〝死んだ〟という事実だけが後付けの認識としてやってくるのみ。


「ヴァニさんっ!」

「平気だ。それより──」


 俺はちらりとノエルの隣を見る。

 そこでは、俺の突き飛ばされたイストが驚いたような表情で俺を見つめていた。

 よしよし、何とか助けられたか。


「イスト」

「な、なんだ!? っていうかお前──」

「話は全員が帝都に戻ってからだ。それよりお前、ハシュムとレイニーを連れてここから逃げろ」

「何言ってんだ! 俺も残って戦う!」

「死にかけの仲間を放っておいてか? お前の幼馴染なんだろ。なら、早く安全なところに連れてってやりな」

「だけど! ………………くっ、分かった。すまない」


 イストを説得し、俺はデウリエリに再び対峙する。


「よう、バケモノ。礼を言うよ……お前のおかげでシャキッと目が覚めた」

『みどりむし? 青い山!』


 相変わらず意味の分からないやつだ。

 だけどそんなことどうでもいい。こいつはここで必ずブチ殺す。


「ヴァニ! ノエルさん! 必ず応援を呼んでくる! だからそれまで絶対死ぬな!」


 背後から聞こえたその言葉に、俺は片手を上げて答える。

 これで三人の命は繋げた。ガルトラは……残念だったが。


 意識を切り替え、背後にいるノエルに声を掛ける。


「ノエル」

「はい!」


 今までの、そしてさっきルナリーたちを相手に自分を犠牲にした彼女を見てきて、俺の中で考えが少し変わった。

 ノエルはもう、守られるだけの雛鳥じゃない。

 自分の意志で戦い、成長している立派な少女だ。


 だから。


「頼りにしてるぜ、一緒にこの(きたね)ぇイヌッコロを倒そう」

「ヴァニさん…………もちろんです!」


 さあ、第二ラウンドだ。

 ここからは出し惜しみなしで行かせてもらうぜ。


『イヌッコロを倒そう!』


 俺の声を真似しながら気味悪く動くデウリエリ。

 

 こいつの行動パターンはなんとなく掴んだ。

 バケモノといえど所詮は魔獣だ。人間ほど高い知能は持っていない。


「よっ、と」


 俺は後ろに飛びのいて攻撃を避ける。


 分かったこと、一つ目。

 奴は攻撃の前に必ず意味の分からない言葉を叫ぶ。


「そこか」


 避けた位置に丁度さっき捨てたクロスボウが落ちていたため、足で引っ掛けて拾い上げ、デウリエリがいるであろう方向に撃ち込む。

 爆発ボルトが命中し、派手な花火が上がった。


 分かったこと、二つ目。

 奴は絶対に正面から攻撃はしてこない。どこか死角から襲ってこようとする。


『砂漠で墨を焼くとき、リスは猛々しく走ります!』

「ノエル、ちょっとすまんな」

「え? きゃっ──」


 断りを入れてノエルの身体を抱き寄せ、一緒に横っ飛びする。

 先ほどまで俺たちが──正確にはノエルが居た位置にデウリエリの爪が突き刺さる。


 分かったこと、三つ目。

 奴はその場にいる最も弱いであろう人間を標的にする。


 分かってしまえばなんてことはない。

 少し手間取ったが……相手の行動パターンや癖を見抜き、見切るなんてことは今までに死ぬほどやってきた。それができなきゃ、永遠に殺され続ける場所にいたからな。


「あ、ありがとうございます」

「気にするな、この調子でいくぞ。魔法の支援、頼めるか?」

「は、はいっ!」


 何故かノエルの顔が少し赤い。

 少し心配ではあるが、返事は元気そのものだし大丈夫だろう。


 ──もう、彼女の保護者を気取ることは辞めた。


 ノエルは一人前の冒険者になった。

 だから、これからは正真正銘の相棒だ。


「今度はこっちから行くぜ、バケモノ」


 俺は地を蹴り、デウリエリに接近する。

 こいつにはどうせ、どんな攻撃を与えようがまともなダメージにはならない。

 それでもひたすらに手傷を与えていく。


 ヤケクソになっているわけでは決してない。

 あと一つ分からないこと、最後のパズルのピースを見つけるためだ。


『痛ぇなあぁぁぁぁ! ヴァニィィィィィ!!』


 ガルトラの声を発しながら再びデウリエリが視界から消えようとする。


 しかし。


「≪縛侵水(アクエスタ)≫!」

「お見事」


 デウリエリがどこかへ行こうとする前に、ノエルの魔法が奴の身体を絡め取って地面に縛り付けた。

 何とか拘束を解こうとしているが、強力に抑えられていて中々抜け出せずもがいている。 


 さぁ、この隙に観察させてもらうぜ。


「どこかにあるはずだ、こいつの弱点が」


 今のところ、一番有力なのは奴の口の中に潜む女が()なのではないかという説。


 あいつからは異質な気配を感じたからな。

 それに、デウリエリが大技を放つときは必ずあの女が起点になっている。

 とはいえ口の上や裏から串刺しにしようにも、巨体すぎて俺の剣の刃渡りではそこまで届かない。


 こうなったら背水の陣でも敷くか。


「ノエル! これから俺──後二、三回は死のうと思う」

「何を言ってるんですか!? 駄目に決まってます!」


 そう言うと思ったよ。

 だが、それしか方法がないんだ。


「大丈夫だ、考えなしに言ってるわけじゃない。ただ俺を信じてくれ」

「でも──」

「頼むよ、ノエル。俺はお前を信頼してる(・・・・・)。だから、な?」

「ヴァニさん……ほんとに、あなたはずるい人です」


 ノエルは少しの間俯いたあと、顔を上げて俺を見た。

 その瞳は、今までのように不安や悲しみに揺れていない。


「分かりました。それがヴァニさんの作戦なら、信じます。だから……どうかご無事で!」

「ありがとな。よし、それじゃあ拘束を解いてくれ!」

「はい!」


 俺の合図で、デウリエリを縛っていた水の鎖が地面に溶けて消えてゆく。

 そしてそれを待ってましたと言わんばかりに、デウリエリの姿が掻き消えた。


『赤子や赤子、泣いてしまうのは誰のせい? 時計の針が廻れば鐘が鳴る! 鐘がなればお家に帰る!』


 段々と奴の話す言葉に意味が現れてきた。

 どういう変化なのかは分からないが、少なくともこれまで通りとはいかないだろう。


 だがどうでもいい。

 元から俺の狙いはただ一つ。


「………………」


 何もせず、ただだらんと腕を伸ばして立ち止まる。


 さぁ、どこからでもかかってこいよ。


「……! っぐ……!」


 次の瞬間、横から凄まじい力が加わって俺の視界が揺れた。

 どうやら、奴の口に咥えられたようだ。


 そのまま走りながらぶんぶんと振り回されるが、デウリエリの口元に剣を突き立てて離されないようにする。


 狙いの第一段階は達成された。

 ここからどうにかして次のステップに進む必要があるが……。


「がぁっ!」


 デウリエリの牙が体に深く突き刺さる。

 ぶちぶちと肉が断たれる感覚がして、反射で口から血が飛び散る。

 

「≪水穿槍・三重奏(アクシオラ・トリオラ)≫!!」 

『!』


 そこでノエルの魔法がデウリエリの体に突き刺さり、少しだけだが奴の口元が緩んだ。


「っでかした、ノエル!」


 俺はすかさず剣を口腔内に突き立てて閉じないように固定し、更に両手を使ってこじ開ける。

 手のひらに牙が食い込んで大量に血が出るが、気にしない。


 ノエルと俺で作った貴重なチャンスだ。絶対に無駄にはしない。


「開けぇぇぇぇぇぇぇッ!」


 渾身の力を振り絞ってデウリエリの口を大きく開けた直後、俺はデウリエリの体ごと樹に圧し潰されて絶命する。

 

 ──だが、まだだ、まだ終わらないさ。

 

 すぐに意識を取り戻し、肉体の再構築が済んだことを確認すると素早くデウリエリの口の中に潜り込む。


 中では女が目を閉じて鎮座していた。

 そいつに向かって脹脛(ふくらはぎ)の鞘に収まっていた短剣を突き立てる。


『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


 ビンゴ。

 ざまぁみたかよ、遂に一矢報いてやったぜ。


 至近距離で大絶叫を浴びた俺は、ガルトラと同じように鼓膜が破れて頭部の熱が膨張するのを感じ、三度目の死を迎えた。

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