表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/58

第18話:重なる死の影③

 猛攻だ。とにかく猛攻を繰り広げる。

 奴に隙を与えるな。

 二射、三射と次から次にボルトを装填し、デウリエリに向かって撃ち込む。


 『舜影』もノエルも、同じように攻撃を続ける。

 しかし、全力の動きを続ければ疲労がかなりの速度で溜まるものだ。


「ハァ、ハァ……ッ!」

「クソッ、あいつ、無敵か……?」

「まだだ、まだ油断するな……!」


 特にずっと近接戦闘を続けていた『舜影』は、レイニーを除いて全員の息が上がっている。


「ノエル! あいつらに治癒魔法をかけてやってくれ!」

「分かりました!」


 ここは役割(ロール)交代といこう。

 俺はクロスボウをその場に投げ捨て、腰の鞘から双剣を抜く。


 ノエルが治癒魔法で『舜影』の面々を癒している間、ヘイトは俺が稼ぐ。


 俺は全力疾走してデウリエリに肉薄。


 近づいてみて分かったことがある。

 こいつは決して、今までの攻撃を無傷で過ごしていたわけじゃないということだ。


 元々黒々とした血で汚れていた身体は、よく見れば無数の傷跡が遺っている。

 いずれも俺たちが付けた傷だ。

 気味が悪いのは、その傷跡がぐじゅぐじゅと音を立てながら蠢いており、その中の肉がてらてらと不気味な輝きを放っていること。


 傷が付くならいずれは殺せる。

 そう思いたいが、頭のどこかで無駄なんじゃないかという考えが邪魔をする。


「シッ!」


 連鎖斬撃。

 デウリエリの前脚から奴の身体の下を潜り抜けるようにして後方に回る。

 その間、三十箇所は斬り付けた。


 しかし奴は未だに何もせず佇んでいるままだ。


 何故だ、何故動かない。

 ずっとそのままでいる理由は?


 その時、遂にデウリエリが動きを見せる。


しかし、彼の者(エステリーシマ・)は言った(アーメイラ)見よ、(シ・)愚かなる者たち(オーブリエステリ・)の罪は(ネイアー・)消えることはなく(ダステリーア)さりとて魂を以て(ラークス・ネ・)贖われることなしと(ソウラマスティーア)

 

 演劇場の女優のような、荘厳な声で歌いながら身体を揺らす。

 その度に、鼻を突く腐臭が濃くなった。


私は祈る他になし(エ・ネステリ)何故(ダ・)ならそれこそ、(ラウミニエステリ・)求められし(カルマータ・ラ・)行いであるからこそ、(カルマータ・ラ・)私の使命であるか(メア・パスティーマ・)らこそ(フォルネ)さあ、人の子らよ、(シ・アリスターナ・)共に歌おう(ソンブラ)

 

 デウリエリがこちらを向く。

 にたり、とその顔が奇妙に歪むのを俺は見た。


 次の瞬間。ぐぱり、と顔が横に裂ける。

 そして無数に並ぶ食虫植物のような牙の奥に、こちらに向かって突き出る女の顔が現れた。


 女の目が見開かれ、その深淵のような真っ黒な瞳が俺を捉えた瞬間。

 言いようのない感覚に背筋が凍り付く感覚が走る。


 こいつはまずい。

 まともに見てはいけない存在だ。


『花咲く丘は遥かなる夢見の星で、(そら)が鳥に向かって微笑むときに味覚が喜びます』


 意味の分からない言葉を紡いだ瞬間、デウリエリの姿が掻き消える。

 直後、俺の体に凄まじい衝撃が襲ってきた。


「がっ──!?」

「ヴァニさん!?」


 ノエルの悲鳴で、俺の身に何が起きたのか分かった。

 横っ面に思い切り薙ぎ払われたのだ。


 俺の体は勢いよく吹っ飛び、何本も木を折ったところでやっと停止する。


 全身が激しい痛みを訴える。

 これは肋骨が五、六本逝ったか。

 むしろそれで済んだだけでマシだ。


『あじさい』

「ヴァニ! 後ろだ!」


 レイニーの声が聞こえた瞬間、俺は体を捻りながら横に跳躍した。

 骨折しながら無茶な体勢で無茶な動きをしたせいで突き刺すような痛みが襲ってくるが、あのまま攻撃を受けるよりはマシだ。


 先ほどまで俺がいたところに向かって、デウリエリが前脚を振り下ろしているのが見える。


「野郎……上等じゃねぇか。ようやくやる気を出したってわけだ」


 いつの間にか服ごと皮膚が裂けてぼたぼたと垂れ落ちる血。

 それによって柄が滑るのを防ぐために、袖口から服を嚙みちぎって素早く止血する。

 ついでに剣を逆手に持ち替え、しっかりと握りしめた。


「俺たちも援護する!」

「こっちだバケモノ!」

「かかってきやがれ!」


 『舜影』も回復したようで、再びデウリエリに接近する。


 ガルトラがデウリエリの脚に深く剣を突き刺す。

 黒に近い紅の血が噴き出す。


 ハシュムがハルバードを振るい、デウリエリの腹部を切り裂く。

 ぐじゅりと音がして肉がボコボコと蠢く。


 イストが飛び上がり、空中で一回転してデウリエリの首筋を狙って大剣を叩きつける。

 刀身がデウリエリの首半ばまでめり込む。


「ナイスアシストだ」


 奴の動きが一瞬止まったのを見計らって、俺は地を蹴った。

 

 イストとアイコンタクトしながら彼の背を踏み台にし、デウリエリの上に飛び乗る。

 そのままデウリエリの背に剣を突き立てながら、先ほどと同じように尾に向かって全力で走った。


「うおおおおおおおッ!」


 遅れて血の波が空に舞い散って華を咲かせた。


「ハァ、ハァ」


 少なくともそれなりに手傷は与えられたはずだ。

 『舜影』たちと再集結し、デウリエリと距離を置く。


 すかさずノエルが駆け寄ってきて、俺の傷を癒してくれた。

 骨が動く感覚がして僅かに痛みが走るものの、すぐに楽になる。


「ここまでの強敵だとはな」

「まだ想定の範囲内だ。だからこそ気を付けろ、何をしてくるか分からん」


 イストの苛立ちの混じった言葉に、俺は注意を促す。


 今のところ、デウリエリの目立つ攻撃と言えば、不可視に近い速度での移動とそこからの奇襲だ。だが、その程度のはずがない。


 現にさっきの俺たちの攻撃にも奴は悲鳴一つ上げることがなかった。

 まだまだ余裕ということだ。


『アッハハハハハハハ! 不行状! 不行状! 不行状!』


 デウリエリはまたしても意味の分からない言葉を叫びながらその姿を消す。

 今度はどこに行った。

 耳を澄ませるが、何も聞こえない。

 

 本来、生き物が移動するときは必ず何かしらの音を立てるものだ。

 しかしそれが全く聞こえないというのはおかしい。


 聴覚に頼れない以上、視覚で探すしかない。

 周囲を素早く見渡すと、上空に違和感を覚えた。


「レイニー! 今すぐそこから避けろ!」

「ッ!?」


 俺は慌てて叫ぶが、レイニーは一手遅れてしまう。


 ぶしゃり。


「ぐあああああああああああああッ!!」


 何とか全身丸ごと喰われることは避けたが、左の肩から下が消失していた。

 レイニーは激痛に叫び、もんどりうって樹から落下する。


 かなりの高所だ。

 しかし、斥候としての彼の経験が生きることに手助けをしたのか、頭から落ちずに上手く落下する。


 それでも相当な大怪我を負ったことには間違いない。

 レイニーは一言も発さず、地面に倒れたままだ。

 恐らく気を失っているのだろう。


 死闘の中で回復役(ヒーラー)に回ったノエルがレイニーの治療にかかる。

 だが、あの様子ではもはやレイニーの戦線復帰は無理だろうな。


「畜生! よくもレイニーをォォォッ!」

  

 一方、仲間をやられた『舜影』は激情に駆られた様子でデウリエリに躍りかかる。

 その判断が一番まずいということを知らずに。


「おい待て! お前ら、今そいつに近づくな!」


 何か嫌な予感がした俺が声をかけるが、『舜影』──その中でもガルトラは止まらない。

 

御名において(ル・フェイ・)安らぎを(ノスティノーラ)祝福のあらん(ラ・ハウレシア・)ことを(ルナエ)良く祈り、(ロウレシーア・)善く信じよ(ロウネミーア)楽園への道は(アサステシム・)(フォーラ・)開かれり(フォ・テラマリア)


 奴が歌を歌った次の瞬間、デウリエリの口が再び大きく開き、またあの女が現れる。

 女は目を見開き、その眼球から黒い液体を涙のように流す。


 そして──


『アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!』


 大絶叫を放った。


 眩暈がして前後不覚になるほどの大音量だ。

 耳に激痛が走る。

 

 この距離でこれならば、接近していたガルトラはと思いそちらを見ると。

 

 ぼん。


 耳から血と脳漿(のうしょう)を撒き散らし、次の瞬間頭が爆散して(たお)れるガルトラの姿があった。

 次点で距離が近かったハシュムも耳から血を流し、叫びながら地面をのたうちまわっている。


 唯一助かったのは俺の傍にいたイストだけ。

 こうなってしまった以上、『舜影』のパーティとしての機能は失われたと見るべきだ。


 最悪は再び更新される。


『青々とした海は私の大地のお魚とのことですか?』


 ようやく慣れてきた目が、ありえない速度で動けないでいるイストに接近するデウリエリの姿を捉える。


「クソがッ!」


 咄嗟に俺はイストを突き飛ばし、そして。

 

 意識が暗闇の彼方へ消し飛ばされた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ