第15話:討伐作戦決行
あれから三日間が経った。
勿論準備に抜かりはない。
今回は、いつものように双剣だけで行くつもりはなかったからな。
しっかりと装備を揃えさせてもらった。
ノエルはといえば、この三日間はひたすら魔法の精度コントロールや射出速度の特訓をしていた。
俺たちはギルドの中庭──おおよそ広さにして百人は入るほどの大きな空間に集合している。
既に多くの冒険者が集まっており、今回の作戦の規模を物語っていた。
そうして待機していると、中庭の二階部分、バルコニーにイザベラが現れる。
「諸君、よくぞ集まってくれた!」
「「「おおおおおおおおお!」」」
覇気のある声でイザベラがそう言うだけで、中庭が割れんばかりの歓声に包まれる。
「今回集まってもらったのは他でもない! 逢魔の森に現れたという魔獣──作戦の便宜上、〝デウリエリ〟と命名する! かの魔獣を討伐するためだ!」
イザベラはそこで一旦言葉を止め、俺たち全員を見渡した。
「ここ暫く逢魔の森では失踪者が相次いでいた。恐らくその件にも、デウリエリが絡んでいるものと私は見ている。そしてつい先日、若い冒険者パーティがまさに奴に襲われて壊滅した」
若い冒険者パーティ──つまり『銀閃の剣』のことだ。
「デウリエリが今後、どのような動きをするかは分からない。放っておけば、近隣の村々、ひいてはこの帝都にまで被害が及ぶ可能性もある。故に! 今ここで、確実に奴の息の根を止める!」
イザベラはそう言って、腰から抜いた剣を高く掲げる。
「そのためには諸君の尽力が必要だ! さあ、冒険者よ! 今こそ我らが真の力を見せる時だ!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
先ほどとは比べ物にならないほどの大歓声。
この場の空気は、完全に一体と化していた。
「凄いですね、イザベラさん」
「ああ、伊達に組織のトップを張ってるだけある」
隣にいたノエルが呟く。
それに関しては俺も同感だった。
この場にいるのは大体五十人弱。
個々の実力に差はあれど、これだけの大人数が動員されて当たる討伐作戦など例を見ないことだ。
それだけ、デウリエリの討伐には危険が伴うということ。
俺は改めて気を引き締める。
さて、どうなることやら。
♠
道中。
ギルドが用意した馬に乗って逢魔の森に向かっていると、ノエルとは反対隣に誰かが並んできた。
「よう、ヴァニ。やっぱりお前も参加してたんだな」
「シリウスか」
その正体はシリウス。よく見れば彼のパーティメンバーも近くにいる。
「ノエルちゃんも久しぶり。ヴァニとは仲良くやってるか?」
「シリウスさん! はい、お陰さまで!」
シリウスはその返事に満足そうに笑い、そして真面目な顔つきになる。
「今回の作戦、正直なところのお前の見立てはどうだ?」
「まぁ、よくて五分五分ってところか」
「そこまで厳しいのか……」
件の魔獣──デウリエリの実力は未知数だ。
どれだけの実力を持っていて、どのような存在かすら分からない。
下手をすれば、魔獣なんていう枠組みに入るかも不明である。
今回参加した冒険者たちがどれだけの手練れだろうと、完全勝利で終われないことだけは確実だ。
「あーあ、ただの噂だと思ってたんだけどな」
「嘘つけ、あれだけ楽しそうに語ってただろうが」
「ははは! 相変わらず手痛いツッコミだこって」
「リーダー!」
「ああ、今行く! っと、悪いなヴァニ、ノエルちゃん。俺は戻る」
シリウスは仲間に呼び止められ、返事をする。
「二人とも、絶対生きて帰ろうな。この作戦が無事に終わったら、ノエルちゃんにうちのメンバーも紹介させてくれ」
「はいっ、シリウスさんたちも、どうかご無事で!」
そうして離れていく親友の姿を見送りながら、俺は呟いた。
「ったく、死亡フラグ建てまくりやがって」
「ヴァニさん?」
「ああ、なんでもない」
まぁ、アイツらに限ってそんなことはない。
例え未知の怪物だろうと、余裕で生き残ることができるだろう……なんて、それこそ不吉な予言か。
♠
逢魔の森の前で、再びイザベラが集団の前に出る。
その後ろにはギュスターヴが控えていた。
「さて、いよいよ敵の本拠地に乗り込むことになる。各自、準備はいいだろうか」
「「「応!」」」
その反応を聞き、イザベラは頷く。
「突入に際して、パーティ複数単位で必ず固まって行動してくれ。互いを援護し合い、不測の事態に備えるんだ。敵はいつどこから襲ってくるか分からない。くれぐれも用心しろ!」
それが突入の合図となった。
森の中を進むのは、俺とノエルの他にもう一つのパーティ。
「よう、よろしくな。俺たちは『舜光』、白金級のパーティをやらせてもらってる。リーダーのイストだ」
「ヴァニだ、こっちの子と二人でパーティを組んでる」
「ノエルです、よろしくお願いします」
イスト、と名乗った男とその仲間たちが隣にやってきて挨拶する。
見た目はまだ若く、茶髪を刈り上げた、温和そうな男だ。
「二人パーティなんて珍しいな。そっちの子は見たところ、魔法士か?」
「は、はい! そうです!」
「へぇ、珍しい。うちのパーティには魔法士がいなくてな、欲しいとは思ってるんだが、なかなかご縁がないんだよ」
「悪いがウチのノエルはやらんぞ」
「ははっ、そんなことしないって!」
イストはそう言って笑う。
「なんだイスト、俺たちじゃ不満か?」
「よしてくれガルトラ、そんなわけないだろ? お前たちは最高の仲間だ」
「野郎に言われても嬉しくねぇな!」
「違ぇねえ! ガハハ!」
見たところ、彼らのパーティ仲は良好。
それに人当たりも良い。冒険者にしては珍しく、人付き合いの上手い連中だ。
「イストさんたちは、パーティを組んで長いんですか?」
「ん? そうだよ。俺たちは同じ村の出身でね。いつか大陸に名を轟かせる冒険者になってやろうぜって決めてるんだ」
「へぇ~! なんだか、凄く素敵です!」
ノエルにそう言われて、イストは満更でもなさそうに鼻の下をこする。
「まぁ、まだまだだけどさ。でも夢ってのはそれだからこそいいと思ってる」
「よせやいイスト、こっちが恥ずかしくなってくらぁ」
「だから揶揄うなっての!」
仲が良いのは結構なことだが……緊張感が足りなすぎるのではないか。
ここは既にデウリエリの縄張りの中だ。
いつ襲われるか分からないというのに、歓談をしている暇があるのか?
そう思っていると、ノエルが俺の服の裾を引っ張る。
「どうした、ノエル?」
「なんだか羨ましいですね、あの人たち」
「…………そうだな」
その言葉に、なんと答えていいのか分からず適当に返事をする。
彼女が期待していた言葉はなんなのだろうか。
そう考えていると。
「待ってくれ、ヴァニ、ノエルさん」
「どうした?」
「ウチのレイニーが何かがいるのを見つけた。ここから四十メートル先だ。デウリエリではないようだが……」
「斥候がいるのか、便利だな」
イストと頷き合い、手にした武器を構える。
さあ、初戦の幕開けだ。




