表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/45

第14話:信じている

「……以上が、報告に上がった魔獣の詳細だ」


 『銀閃の剣』の唯一の生き残り、エインズの話を語り終えたイザベラが、葉巻を咥えた。

 そこにすかさずギュスターヴが火をつける。


 エインズ……先ほどノエルが傷を癒した男だ。

 正直、そんな状況でよく生き残れたなと思う。


 それにしても……。


「厄介だな」

 

 人語を介する魔獣など、聞いたことがない。

 ましてや、実在する人間の声を模倣する魔獣なぞ。

 

 話に聞いた件のバケモノからは、明確な〝悪意〟を感じる。

 これはもはや只事ではない。


「…………」


 ノエルは先ほどから、浮かない表情で下を向いている。

 彼女の優しさを考えれば無理もない。

 いかに自分をこっぴどく追放したパーティとはいえ、共に活動した仲だ。

 

 それが無惨な最期を迎えたとなれば、愉快な気分ではいられないだろう。


「……で、これからどうするんだ」


 俺はイザベラに向かって問う。


「急ぎ討伐隊を編成する予定だ。報告が事実なら、悠長に構えてはいられない」

「だろうな。で、俺たちを呼んだ理由はって聞いてんだ」


 チッ……自分でも苛立ってるのが分かる。

 これは何に対しての怒りなのだろうか。

 厄介ごとに巻き込まれることへの怒り? それとも、ノエルにこんな顔をさせた魔獣への怒り? ……分からない、分からないが苛々する。


「無理を承知で頼みたい。お前たちも、討伐隊に加わってくれないか」

「ハァ……」

「ヴァニさん……」


 ノエルがこちらに顔を向ける。

 ……ったく、そんな顔をするなよ。


 俺は頭をガシガシと掻きながら、イザベラの目をまっすぐ見つめた。


「いいだろう。しかし条件がある」

「言ってみろ」

「俺とノエルはあくまで火力支援担当だ、前線には出ない」


 いいだろう、やれというならやってやる。

 だが、やはりノエルを危険な目に(さら)すのは見過ごせない。


 いくら強くなったとはいえ、相手は未知数のバケモノ。

 どうなるか分かったものではないのだから。


 イザベラは顔の前で手を組み、少しの間瞑目していた。

 しかし、顔を上げたかと思えば首を横に振る。


「すまないが、その要求を聞いてやれるほど余裕はない」

「はっ! おい、現場に出なさ過ぎてとうとう頭がやられちまったか? 俺はまだしも、ノエルはまだ銅級だ。それを前線に放り込むだと? ギルドの条項はどうなってやがる」

「──」

「いい、ギュスターヴ」

「……ご随意に」

 

 遂にブチギレた俺に、ギュスターヴが静かに接近しようとする。

 イザベラがそれを手で制した。


「私とて、ありえない要求をしているのは理解している。だが、先ほど部屋に入ってきたときに分かった。その少女──ノエルは数日前より遥かに強くなっているだろう」

「そういう問題じゃ──」

「ヴァニさん」


 尚も喰ってかかろうとする俺を、今度はノエルが制止してくる。

 彼女の方を向くと、その瞳に強い決意を(たた)えながらこちらを見ていた。


「私は大丈夫です。……イザベラさん、そのお話、お受けします」

「……感謝する」

「……ノエル」

「これ以上誰かが被害に遭うのは見過ごせません。それに、今の私ならそんな言葉も臆病にならずに語れます。信じてください、ヴァニさん。一緒に魔獣を倒しましょう」


 これ以上何を言っても無駄だと思わせるほどに、ノエルの決意は固いようだった。

 

 少しの沈黙。


 ……彼女がここまで言っているんだ。なら、俺は相棒として応えてやるしかないのではないか。否、それ以外に選択肢はないのだ。


「……分かった」

「二人とも、改めて協力感謝する」


 渋々頷くと、イザベラが座したまま深く頭を下げる。 

 ギュスターヴは、何故か苦々しい顔で俺を見ていたが。


「作戦の決行は三日後の昼だ。追って通達するから、準備をしておいてくれ」

「了解だ」

「はい!」



 夕暮れの街中。

 

「さっきはごめんなさい、ヴァニさん」

「……何がだ」

「勝手にお話を決めてしまって、です」

「気にしてない……と完全に言うのは無理だが、いいさ」


 隣を歩くノエルの顔は浮かない。


「あの人たちは確かに酷い人たちでしたけど、だからってあんな死に方をしていいわけがないんです。そう思ったら、悲しくて、許せなくて」


 あの人たち、というのは『銀閃の剣』のことだろう。


 冒険者なんてのは遅かれ早かれ死ぬ職業だ。

 無事に引退して勝ち馬に乗れる奴らなんてほんの一握りだけ。

 大抵の奴は野心か、はたまた事故か、何らかの形で命を落とす。


 だから、今回のことだってそれだけのことなのだ。


 しかし、それを良しとしないのがノエルという少女だ。

 それは、この数日間一緒に過ごしてよく理解しているつもりだ。


「何にせよ、やると決まったなら覚悟を決めるだけだ。しっかり準備しようぜ」

「そうですね」


 色々と依頼を請ける予定だったが、全部キャンセルだな。

 何が待ち受けているか分からない以上、全力で対策を講じる必要がある。

 

 準備するもののリストを頭に思い浮かべながら、優先順位を決めていく。


「ノエル」

「はい?」


 気付けば、俺の足は止まっていた。

 ノエルが遅れて立ち止まり、俺の方を振り返る。


「何があってもお前のことだけは守る。だから無茶するなよ」


 もう何度目かも分からない言葉。

 聞き飽きただろうに、ノエルは目を丸くして、それからくすっと笑う。


「もう、ほんとヴァニさんは優しいです。でも、その言葉はそっくりそのままお返ししますね。……ヴァニさんこそ、絶対に無茶しないでください」

「……善処する」


 討伐作戦まであと三日。

 気を引き締めねばなるまいよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ