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第10話:対メルシエラ戦

 少し距離を取り、メルシエラと向き合う。

 ザリっと踏みしめた地面の音がやけに鮮明に聞こえた。


「なんか久しぶりだね、こうして戦うのは」

「はっ、正直勘弁してほしいんだが?」

「ダメ」

「……さいで」

 

 即答である。

 ここまできたら覚悟するしかあるまい。

  

 双剣を握りしめ、意識を切り替える。


「いつでもいいぜ」

「おっけー、それじゃあやろう、あの頃みたいに!」


 ──直感。

 飛びのいた瞬間、先ほどまで俺がいたところに氷柱が刺さっていた。


「へぇ、今の避けれるんだ」


 メルシエラは楽しそうに指を動かす。

 その姿はまるで指揮者のようだ。

 しかし起こる現象はどれもえげつないものばかり。


 上下左右、あらゆるところから鋭利な氷の柱が襲い掛かってくる。


 かと思えば足を絡めるように炎の縄が現れ、それを避ければ不可視の風の刃が首元を狙って飛来する。

 先ほどのノエルと同じ戦法だ。だが、詠唱もなければ攻撃の速度もノエルとは段違い。


 思わず冷や汗が首筋を伝う。

 死なずに戦うのがこれほど面倒くさいとはな。


 前にメルシエラと戦ったときは、その選択が取れた。

 だが今は──


 俺はチラリとノエルの方を見る。


 彼女のためにも、死ぬこと前提の捨て身特攻はできない。

 俺に女を泣かせる趣味はないからな。

 無論そうしなければならないときは喜んでそうするが、今は駄目だ。


 飛来した氷柱を叩き斬る。

 かと思えば、その先には何重にも連なる氷柱が俺に矛先を向けていた。


「畜生!」


 咄嗟に体を翻し、円を描くように走る。

 その後を追うように土煙を上げながら氷柱が地面に突き刺さった。


「あははっ! 楽しいね!」

「ちょっとは手加減しろよ!」


 流石はメルシエラ、近づくのも容易じゃない。

 俺は腰のベルトから投げナイフを抜き払い、メルシエラに向かって投擲する。

 が、風の防護壁によって彼女に到達する前に全て叩き落されてしまう。


 だがそれでいい。

 彼女が俺にそうしたように、これも陽動だ。


 あと少し──


 そこで、世界が反転(・・)した。


「何……」


 それが重力操作の魔法だと気付くのに、そう時間はかからなかった。

 いつの間にか俺の体は逆さまになっており、空に足をつけている(・・・・・・・・・)


「惜しかったね、僕だってまだまだ成長してるってことだよ」


 再び彼女の猛攻が始まった。


 上下不覚。浮遊感による気持ち悪さに耐えながら、何とか避ける。

 俺の足は宙に向いているというのに、そこには確かに力場がある。

 どういう原理かは知らないが……考えるのは今じゃない。


 迫りくる氷柱を全て切り落とし、炎の壁を被害面積を最小にしながら無理矢理突破する。

 メルシエラは涼し気な顔をしているというのに、俺は次第にボロボロになっていく。


「……流石だな」


 思わずそんな言葉が漏れた。

 これでもまだ彼女は全力を出し切ってはいない。

 メルシエラが本気なら、今頃俺は既に十回は死んでいる(・・・・・・・・)だろう。


 だからこそ、そこに付け入るチャンスがある。

 俺は敢えて、回避することをやめた。


 体に何本も氷柱が突き刺さる。

 ノエルには悪いが、捨て身にならなければメルシエラに勝つことはできないだろう。


「え!? ちょっ、噓でしょ!?」


 メルシエラの動揺した声が響き、重力魔法が解除される。

 恐らく、ここまでの戦いで俺が今回は捨て身の戦法を取らないと思い込んでいたのだろう。


「術を解いたな。待ってたぜ、この瞬間を」

「あ、しまっ──」


 体を動かす度に全身に鋭い痛みが(はし)る。

 だが、そんなものを気にするのはとうの昔にやめた。

 

 痛みがあるということは、まだ動けるということだ。

 動けるならば、痛みなどどうでもいい。


「もらった!」


 そして俺はメルシエラに肉薄する。


「……相変わらずの無茶っぷりだね」

「……これが俺の戦い方なもんでな」


 俺の剣先はメルシエラの喉元に突きつけられている。

 

 勝った、と思ったがしかし。


「チッ……ここまでやっても引き分けかよ」

「ふふん、君の戦いかたはよく知ってるから」


 よく見れば、俺の心臓の手前に氷の短剣があった。


 やはりこの女は油断できない。

 あの土壇場ですぐに戦闘を近接戦闘に切り替えるなんてな。


 互いに武器を引くと、メルシエラは満足そうに笑った。


「いやぁ、久しぶりにヴァニの強さを確認できてよかったよ! 君以外の人と戦ってもすぐに終わっちゃうから」

「……マジでもう二度とやりたくねぇ」

「ヴァニさんっ!!」


 笑いあっていると、ノエルが走り寄ってくる。


「大丈夫ですか!?」

「ん? ああ、このくらい平気……って、()つつ」

「痛いなんてレベルじゃないですよ! あちこちに穴が開いて……!」


 そして俺の全身を見た後、何かを決意したように頷いた。


「今の私なら……! 《治癒水膜(レステア)》」

「おお……」


 俺の全身を薄い水の膜が覆った直後、傷がどんどん癒えていく。

 なんていうか……温かい水だ。安心感を覚える。


 数秒後、ボロボロだった俺の体はすっかり元通りになっていた。


「ありがとな、ノエル」

「良かった……」


 礼を言うと、ノエルは安堵のため息を吐く。

 しかしすぐに怒ったように頬を膨らませた。


「もう……あんな無茶な戦い方しないでください! 私、ヴァニさんがこれ以上傷つく姿なんて見たくないです!」

「はは……悪かったな」

「メルシエラさんもです! まさか本当に攻撃を当てちゃうなんて! ヴァニさんが死んじゃったらどうするんですか!」

「で、でもヴァニは死なな──」

「でもじゃないです!」

「うっ、ごめんなさい」


 おお、以外に(したた)かだな、この子。

 あのメルシエラが素直に謝るなんて、これは珍しいものを見た。


「ちょっとヴァニ! 何笑ってるのかな?」

「くくく……いや、ざまぁみろと思ってな」

「あー! 言ったね!? もう今日はお菓子出してあげないから!」

「へいへい、悪かったって」


 先ほどの冷徹な魔女の威厳はどこへやら。

 幼い子供のようにぷりぷりと怒るメルシエラを見て、苦笑が漏れる。


 ともあれ、今の戦いは見ていたノエルにも実りあるものだっただろう。


 魔法士は、近づかれない限り最強のアタッカーだ。

 いかに相手を寄せ付けないかに要がある。


 流石に重力操作の魔法は規格外すぎて習得は難しいだろうが……いつかはメルシエラに教えてもらえるかもしれない。

 そうなれば、今よりもっと強くなれることだろう。


 それに、治癒魔法まで使えるのは素直に驚いた。

 

 彼女に頼り切るのはよくないことだが、これなら俺も毎回傷を治すために自殺する(・・・・)必要はないかもしれない。


 とはいえ……怪我したら怒られるんだろうな。


 これからのことを思い、俺は頬を掻いた。

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