居酒屋
喉の渇きを覚えた学生服姿の高校生――男の子は、空腹も満たすために、目についた店舗の暖簾をくぐった。
「いらっしゃい」
禿頭にねじり鉢巻、タンクトップにジーパン、真っ赤なエプロンを纏った厳ついおじさんが、カウンターの中から声をかけてきた。
雰囲気からしてどうやら店主のようだ。他の客からおやっさんなどと呼称されている。
その店主がコースターに載せた冷やを、カウンター席に腰を下ろした男の子の目前に置いた。
「見ない顔だね」
「先日こちら側に来たばかりなので」
「そうかそうか。ま、なんにしてもゆっくりしていきな」
「ありがとうございます」
うんうんと頷く店主。
笑うと糸目になる。
「よしまずは景気付けに酒でも飲むかい?」
「え、僕は未成年なので、お酒はちょっと……」
男の子の見た目は、纏う服装、背格好から、明らかに未成年だとわかりそうなもの。
しかし、店主は――
「ここでそんなこと言ってると、ずっと未成年のままだぜ?」
ニヤリッと人の良さそうな笑みを浮かべてそう言い切った。
「いや、でも」
「ほら、あそこに座る小学生くらいの男の子を見てみな。美味そうにピッチャーでビールを飲んでるだろ?」
促されてカウンターの置く席を男の子は見やる。
そこでは両手にピッチャーを抱えながら、喉を鳴らして胃にビールを流し込んでいる小学生が居た。
周囲の老若男女は止めるどころか「イッキ! イッキ!」と拍手喝采を起こしている。
「え、あの年齢で飲ませて良いんですか?」
仰天なできごとを目の当たりにした男の子は、そこかに釘付けとなる。
「その質問をオレにする前に、ここがどこかよく考えてみな」
「あ」
店主に指摘されて、男の子はすんなりと納得した。
「そう言うこと」
男の子は周囲を気にしつつも、「それじゃあ……」と口にしてこう告げた。
「僕もビールを下さい。試しに飲んでみます」
「はい、よろこんで」
ここは死後の居酒屋さん。