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第3章 一日一生 その1

「夏だー!!」

 冷たい水の中から陽翔の声が弾けた。レジャープールのプールサイドに響くその元気な声は、真夏の陽射しを跳ね返すように明るく弾んだ。ざぶん、と周囲の水面が波打ち、はははっと女子の笑い声がこだました。

 水面越しに顔を出した陽翔は、濡れた髪をかきあげながら大きく息を吸い込んだ。日差しに焼けた肌がきらりと輝き、肩や腕の筋肉は無意識に力強さを感じさせる。

 ここは「ルミナス・シーリゾート」。海沿いの広大な敷地に広がるこの人気レジャー施設は、巨大な丸形プールや流れるプール、そしてスリル満点の多彩なウォータースライダーを備えている。若者や子供たちでいつも賑わい、リラクゼーション用のビーチチェアスペースでは、太陽の光を全身に浴びながらゆったり過ごすこともできる。

 ここはただのレジャー施設ではなく、地域の憩いの場所だ。

 そんな明るい雰囲気の中、陽翔は今日も最高の夏の日を全身で感じていた。

「みんな、こっちこっち!」

 陽翔の声に応えるように、朱音がゆっくりとプールの縁に足をつけた。真紅の髪が濡れて光を受けて鮮やかに揺れ、彼女の水着はシンプルで清楚なワンピースタイプ。落ち着いた雰囲気にぴったりで、夏の青空の下でも凛とした存在感を放っていた。

「陽翔、はしゃぎすぎだよっ」

 朱音は少し照れくさそうに言いながらも、陽翔の近くへゆったりと歩み寄る。

 そこへ跳ねるような足音と共に梨々香が水面を蹴って飛び込んできた。金髪が濡れて輝き、ネオンカラーのビキニが鮮やかに映える。彼女の明るい笑顔は周囲にすぐに陽気な空気を運び、水しぶきを元気よく跳ね上げた。

「わー! 最高に気持ちいいね、夏って感じ!」

 陽翔は笑い声をあげ、水中から勢いよく浮かび上がり、無邪気に手を振った。

 プールの端からは、青いショートヘアのゆかりがすらりとした姿で水面に足をつけている。彼女の水着はシックな黒のビキニでまとめられていて、大人びた雰囲気が漂う。

 その隣には、黒髪を後ろでまとめた摩耶が日焼け止めを丁寧に塗っている。紺色のワンピース水着が彼女の知的な印象を際立たせ、引き締まった身体のラインがさりげなく伝わる。

 摩耶は日差しを避けながらも、すっきりとした表情で周囲の声に耳を傾けていた。

「摩耶、塗りすぎじゃない?」

 梨々香がからかうと、彼女は軽く眉を寄せつつも優しく微笑み返した。

「気をつけてるだけよ。焼けると嫌だし」

 近くで控えめに笑うのは、銀白色のロングヘアを後ろで大きな三つ編みにまとめた冴。彼女は鮮やかな赤のビキニを身につけていて、静かな美しさを放っている。細い背中のラインや鎖骨がちらりと見え、自然な柔らかさを感じさせた。

 その隣で、もう一人の銀髪の少女、天音は淡い水色のワンピースを着ている。騒がしいプールの空気をよそに、静かに水面を見つめている姿はまるで風景の一部のように穏やかだった。

 騒がしいプールの中央で、陽翔は水にぷかぷかと身を任せながら、空を仰いでいた。眩しい太陽に目を細め、流れる雲を見ていると、自然と息が深くなる。

「……ふはー……たのしー」

 そんなつぶやきと同時に、ざぶん!と大きな水音。突然、波に乗ってきた何かが陽翔の顔面を襲った。

「ぐわーっ!」

 顔一面に水をかけられて慌てて起き上がると、すぐ目の前に、ずぶ濡れの楓が浮かんでいた。

「はっはっはっは! はしゃぎ過ぎだぞ、陽翔!」

 短パン型の水着に日焼けした肌、頭から水を滴らせながら、楓は満面の笑みで陽翔を見下ろしていた。

「ぜってーお前の方がはしゃいでるだろ!」

「いーや、お前は美女に囲まれて誰よりも浮かれてる! 俺の直感がそう告げてるんだ!」

「すでに一人でスライダー3回も連続で行ってるヤツが言うなよ!」

 楓は大笑いしながら、

「じゃあ一緒にスライダー行こうぜ! マッハが体験できるやつ、あっちにあるぞ!」

「死ぬわ!」

 陽翔が笑いながら、ばしっと楓の背中を叩いた。

 そのやりとりに、近くで見ていた朱音や梨々香、摩耶たちが一斉に吹き出す。

「……夏、最高だな」

 楓がプールサイドのベンチで髪をかき上げながら空を仰ぐ。澄み渡る青に白い雲がぽっかり浮かび、その横顔を陽翔はなんとなく見つめた。

「おう! 生きてるって感じがするな!」

 陽翔の返事に、楓もふっと笑って視線を戻す。

 笑い声が水面に跳ね返り、きらきらと光の粒になって空へと舞う。どこまでも眩しい夏のひととき。喧騒の中に溶け込むように、まるで時間がゆるやかに流れていた。


「よっしゃー! じゃあスライダーいこ、楓ー!」

 ビーチサンダルの音を鳴らしながら、梨々香がひょいっと現れる。ネオンカラーのビキニのまぶしさも手伝って、どこか常に目立つ。

「おっ、いくか。俺もそろそろ全身で風になりてぇわ」

 楓は肩を軽く回しながらプールサイドへ上がる。

「ひゃっほー! 私、マッハで滑るから見ててよー、陽翔ー!」

 梨々香が太陽に向かって元気よく両手を広げると、陽翔に向けて指を突き出し、ぐいっとウインクを投げた。

 楓は少し後ろからそれを追いかけつつ、振り返って陽翔にひと言。

「……生きてまたここで会おう」

「フラグ!」

 陽翔がツッコミを返すと、二人は高台へと向かっていった。

 二人の背中が、スライダーの元へと小さくなっていく。陽翔はその様子を眺めながら、ふと気持ちがふわりと軽くなるのを感じていた。

 しばらくして――

「いっくよー! 見ててね、陽翔ーっ!」

 高台のスライダー入り口から、梨々香の声が高らかに響いた。

 まぶしい太陽の下で、ネオンカラーのビキニがひときわ輝く。風に舞う金髪が水滴を弾きながら揺れ、その姿はまるで光そのものだった。

「梨々香、めちゃくちゃ目立ってるな……」

 陽翔が苦笑しながら見上げると、梨々香は満面の笑みで両手を振り――

 ――飛び込むように、梨々香がスライダーへと滑り出した!

「うわっ、はやっ!? え、ちょ、ちょっと待って待って――!」

 開始早々、想像以上のスピードに体が跳ね上がる。

 蛇行したチューブの内壁に振り回されるように、梨々香の身体が左右へ激しく揺さぶられた。

「うっそ、これやばっ、どっちに曲がんの!? あっ痛っ、壁にぶつかっ――ちょっ、ひゃあっ!?」

 滑り台というより、もはや水流ジェット。

 足が浮く、腰がズレる、視界が一瞬で流れていく。叫び声がスライダーの中を反響し、陽翔のもとへ届く頃には、もう勢いは止められない。

「これ止まんないやつじゃん!? ちょ、最後カーブ急すぎっ、マジでやばいって!!」

 最後の直線に突入した梨々香の体が、もはや跳ね飛ぶような勢いで飛び出す。


「ひゃ――」


 ――ばっしゃあああんっ!!

 派手な水しぶきとともに、梨々香が水面に叩きつけられるようにして沈んだ。陽翔はすぐさまバシャッと水を蹴って近づいた。

「おい梨々香!? 大丈夫かっ!?」

 水面にバタバタと手が現れ、苦しげに水をかく姿。陽翔は慌てて彼女の体を抱き寄せ、力いっぱい引き上げた。

「ぶはっ! ぷはっ! ……やばぁ、死ぬかと思った~!」

 彼の肩に顔をうずめるようにして、梨々香が息を整える。びしょ濡れの体がぴったりと陽翔の腕の中に収まり、柔らかな感触と濡れた肌の冷たさが密着して伝わってきた。胸元から香るのは、甘いフルーツのようなボディソープの匂い。陽翔はどきりとしながらも、真剣な顔で言った。

「……なにやってんだよ! 心配しただろ!」

 その言葉に、梨々香の頬が見る間に真っ赤になる。ぴとっとしがみついたまま、小さな声でつぶやいた。

「……ごめん……」

 陽翔は、何かを言いかけて口を閉じる。

「おーい大丈夫かー」

 楓がスライダーの上から声をかける。陽翔は大きく手を振った。

「とりあえず、プールサイドに行くぞ」

「おっす……」

 梨々香は恥ずかしそうに、でもどこかうれしそうに、陽翔に抱えられながら水から上がった。夏の陽射しが、水に濡れた肌の上できらめいていた。

 その後、梨々香はタオルを借りて「ありがとー」と明るく笑いながら更衣スペースへと向かっていった。

 陽翔は彼女の背中を見送りながら、濡れた髪をかき上げる。


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