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第六話 本物の神様

 かなり時間をかけて神社の階段を上ってきたのは、スーツ姿のメガネをかけたおばさんだった。

 肩で息をしている。呼吸音がここまで聞こえて来た。

 鳥居をくぐりながら大きく息を吸い、呼吸を整えながら石畳の道の端を、まっすぐこっちに近寄ってくる。


「うわぁーーっ!! あなたがユウキちゃんね! 大きくなったわねえ!!」


 セイラー服姿の可愛いユウキを見つけると、ユウキに近寄ってうれしそうに目を細めた。


「はい、あの……」


 ユウキは怪訝な顔で返事をした。


「そっか、ごめんなさい。誰か分からないわよね。おば……お姉さんはユウキちゃんのお母さんの親友よ。火葬場で、おばあさんに抱っこされたユウキちゃんと会っているのよ。ユウキちゃんの両親とお姉ちゃんの棺は硬く蓋を閉じられて、お別れが言えなかったわ。何でも遺体の損傷がひどくて会わせられないということだったの。棺桶の板にうっすら、血がにじんでいたわ」


 そう言うと、火葬場で棺を見下ろすように視線を動かした。

 まるでそこにユウキの家族の棺があるように。

 ユウキも棺が見えるのか視線をそこに動かした。


「……おかあさん、お姉ちゃん、おとうさん…………」


 そしてユウキは小さくつぶやいた。

 その時の事を憶えているのだろうか?

 かなり小さかったはずだが……。


「その後、お姉さんは、あなたのおばあさんと一緒に保険会社や警察を回ったのよ。最初は協力的だった人達がある時からパタッと急に冷たくなってね、裏で何か大きな力が働いたみたい。それでも、あきらめなかったら、お姉さん、駅の階段を一人で歩いているときに、後ろから誰かに強く突き飛ばされて、階段を下まで落ちてしまったのよ。命は取り留めたけど強く頭を打って意識不明で入院。ふふふ、目が覚めたのがつい最近のことなのよ」


 笑顔で歩き出して、神社のお社の階段に近づくとそこに腰を下ろした。

 良く見ると歩くときに少し体の動きがおかしい。

 体になにかの後遺症が残っているように見えた。


「ええっ!! だっ、大丈夫ですか?」


 ユウキは本当に心配そうな表情になり聞きました。

 本当にユウキは、いい子だ。


「ふふふ、大丈夫よ。治っているわ。でも少し後遺症が残っちゃった。これはもう治らないらしいのよね……。それでね、そこからお姉さん、おばあさんの事を調べたのよ。ご苦労されたみたいね。なんだか、ユウキちゃんの家族もお姉さんも、大きな力で深い闇に巻き込まれたみたい」


「そうですか……」


 ユウキは暗い表情になりつぶやいた。


「うふふ、話はまだ終わりじゃ無いのよ。むしろここからが肝心なの。そこでお姉さんは考えたの。大きな力には大きな力。うふふ、私の実家は、今や落ちぶれていますが明治維新の時に官軍で手柄を上げた名家なの。伊藤とかいうお札になった人の知り合いなのよ。それで、そのつてで現在三十年政権を握っている政党の、地元の偉い国会議員のフルナカという議員さんと話をする事が出来て、全てを忘れる事を条件に、慰謝料をゲットしたのよ!! はいこれ!!」


 そう言うと、おばさんはユウキに小さな手帳の様な物と筒状の小物を二セット差し出した。


「こ、これは!?」


 ユウキは受け取らずに先に質問をした。


「うふふ、通帳よ。一つはあなたの物。もう一つはお姉さんの物。でも、お姉さんのは、いらないからユウキちゃんにあげる。うふふ」


 おばさんは、笑いながら泣きそうな顔をしている。


「ええぇぇぇーーーーーーーーっ!!!!」


 ユウキはそれを受け取り開いて中を見て驚いている。

 僕も後ろからのぞき込んだ。


「どひゃあああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!」


 通帳には四とゼロが沢山並んでいる。

 今度は僕が驚きの声を上げた。

 おばあさんが一ヶ月四万円と言っていたけど、この通帳にはその万倍なのかなあ。

 良くわからないけどすごい金額がかき込まれている。


「これは、いただけません」


 ユウキは通帳と印鑑をおばさんに返そうとした。


「それは、貴方が家族を失った悲しみに対する慰謝料と損害賠償だから、貰っていいのよ」


「じゃあ、一つだけ」


「こっちは、私の慰謝料と損害賠償なのよ。でもね、お姉さん悪性の腫瘍でもうじき死ぬの、余命三ヶ月。だから、私の分ももらってほしいのよ。思えばつまらない人生だったなーー……」


 そう言うとおばさんは視線を首吊りの木に移した。

 黙って、その木の枝をじっと見つめた。


「かっ、かみさまーーーーっ!!!! しゅごしんさまーーーーーーっ!!!!!!」


 ユウキは急に僕を呼んだ。

 余りにも急で、大きな声なので少し体が宙に浮いてしまった。


「ユウキ。どっ、どうしたんだい。急にそんなに大きな声を出して」


「お願いします。お願いします。何でも言うとおりにします。ユウキのお願いを聞いて下さい」


「……」


 僕はいたずらっぽく笑顔になり、無言でユウキを見た。


「そういえば、さっきから気になっていたのよねーー。あなた、そこにずっと当たり前の様にいるけど、いったい何者?? 可愛いユウキちゃんに神様なんて呼ばせるなんて、とんだ変態野郎ね」


「おばさん!! 何てことを言うのですかーー!! このお方は本当の神様です。私の守護神様です!!」


「はーーっ。神様!? 神様なんていませんよ!! あーーっ、それと、ユウキちゃん私はお姉さんですよ」


「おばさん!! 神様に謝って下さい!!!!」


 ユウキはお姉さんと言う気は無いみたいだ。


「ユウキ、そんなことより君の願いを言ってみて。放っておくと鳥居の上の拭き掃除を始めそうだから……」


「おばさんを助けて下さい!!!! お願いします!!!! 本当に何でもします。だからお願いです。助けて下さい……」


 ユウキは真剣な顔をして、両手を合せて言った。


「ふふふ、ユウキ。僕は前にも言っただろー、ユウキの頼みなら、僕で出来る事は何でもしてあげるって」


「まさか?? そんなことが……出来るわけはありません」


 おばさんが少し驚きの表情でつぶやいた。

 だが、体の変化には気がついているようだ。


「かみさまーーーー!!!! お願いします!!!!」


 ユウキはそのまま両手を合せて続けている。


「ユウキ、もう終わっているよ。ねえ、お姉さん」


「まさか、嘘でしょ。体から痛みが消えました。あなたは、ほっ、本物の神様ですか??」


 おばさんが薄ら涙を浮かべて、僕を見つめている。


「いいえ。僕は神様ではありません。こことは違う世界で、暴れ回ったので追放されて来ただけのただの人間です」


「すごーーい。天界で暴れて追放された天界の暴れん坊ですね。まるで伝説の神様斉天大聖のようです」


 ユウキとおばさんが瞳をキラキラさせて見つめてきます。

 もう、違いますと否定する気にもならなかった。

最後までお読み頂きありがとうございます。


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