第百二十七話 決心
「あの、旧仲長官。僕からも御願いがあります」
言いながらガンネスさんが用意した玉の上にマモリちゃんは手をかざしました。
金色の玉と銀色の玉2000個に紋章が浮き出しました。
紋章の横にローマ数字で3と書かれています。
「おおっ! マモリちゃんが御願いとは、いったい何じゃ?」
旧仲長官は少しうれしそうです。
それに引換え、マモリちゃんはとても言いにくそうです。
でも、意を決したように口を開きました。
「はい、僕は1度魔人の国へ行ってみたいのです」
「おおっ!」
集っている人達からどよめきが起りました。
でも、皆さんの顔には優しい笑顔があります。
「うふふ。やっと、その時が来たのですね」
ノブコちゃんが言いました。
まるで、マモリちゃんがそう言い出すのを待っていたようです。
「えっ??」
「くすっ。わたしはマモリ様が、日本の食料を自分の収納魔法で収納せずに、リリイさんに任せきっている時点で気付いていました」
「ふふっ、ノブコにはかないませんね」
「あの、あの、私は行きます。絶対に行きます」
ユウキちゃんが必死の表情で言いました。
「では、わたしも」
「わたくしも」
「オラもダニー」
「オラもズラー」
「オラもデェス」
「おれも」
「行くですのぉ」
ユウキちゃんが言い終わると、大勢が名乗りを上げました。
でも、リリイさんはさみしそうに下を向きました。
僕は後悔していました。
――なんで、言ってしまったんだろう
地球防衛義勇軍幸魂支部を捨てると判断した長官。
そのおかげで地球防衛義勇軍は当面前線というものが無くなりました。
日本国政府は、地球防衛義勇軍本部がどこにあるのかは知らない。関心も無いでしょう。
日本の山奥の廃村にある義勇軍本部は、東京の侵略軍とは遠く離れました。
だから、安心してしまったのでしょうか。
地球は相変わらずたいへんなままなのに……
「いまから、行くのですか」
ユウキは、キラキラ目を輝かせて聞いて来ました。
――ユウキ、僕はその事を思わず言ってしまった事を後悔しているのですよ。
その気持ちは隠して来たつもりでしたが、ノブコにはバレていたみたいですし、情けない事です。
「いいえ。ユウキ、まだ先です」
「えっ!?」
「ちがいますね、撤回します。やっぱり、まだ早い気がします」
「いや、マモリちゃんや。行くべきじゃ。長官として命令する。マモリちゃん、魔王国の様子を見てくるのじゃ。そして、必要ならば手を差し伸べるのじゃ。それが義勇軍の役目じゃ。魔王国を滅ぼさせてはならん。それに、魔王国が息を吹き返せば、アッガーノ王国も鎮圧のため精鋭の兵士をそちらに向けねばならんじゃろう。そうなれば、間接的に地球を防衛していることにもなる」
「でも」
長官は僕に続きを言わせずに続けます。
「わしは日本人じゃ。日本を第一に守りたい。じゃが、日本国政府は我々義勇軍をテロリストとして自衛隊を派遣してきた。完全に敵対関係じゃ。それでも必要ならば日本国民を守るため、テロリストの汚名を受けたままでも必死で戦う覚悟じゃった。すべては日本国民を守るためじゃ。じゃがのう、マモリちゃんや。その日本国民からも、敵対視されてしまったのじゃ。もはや、日本人に義勇軍がしてやれることはない」
長官は悲痛で痛々しいほどの暗い表情になりました。
デモがこたえたのでしょうね。
テレビや新聞で情報操作をされているとは思いますが、もう少し真実を知って欲しいと思いました。
「マモリちゃんや、日本人が我ら義勇軍を必要とする日まで、魔王国を支援してはもらえんじゃろうかのう」
旧仲長官は深く頭を下げてくれました。
僕にはわかっています。
これは、僕が魔王国に行きやすくするための演技です。
僕が、魔人の国に行きたいと言ったばかりに。
「ふふふ。でも、考えてみたら行く方法がわかりません」
本当は、行く方法にだいたい見当が付いています。
でも、あえて言ってみました。
「な、なんじゃと!!」
長官は、本気の驚きです。
ああ、長官は本気で僕を魔人達の住む世界へ行かせてくれようとしているのだと、この時わかりました。
「マモリ様、今は魔王の封印が解けています。マモリ様の移動魔法ならいけるのではないでしょうか?」
空気を読まないメイヤが言いました。
でも、僕もやっと決心がつきました。
――魔王国へ行こう!! 僕のせいで滅びそうになっている魔人の元へ!!
「ふふふ。まだやっていませんでしたが、ためせば案外行けるかもしれませんね」
いいえ、行けると思います。
僕もそう思っていました。
そうでなければ、アッガーノ王国軍がこれ程まで軍隊を派遣できるはずがありませんからね。
「くっくく、マモリ様はすでに、お気づきでしたか」
メイヤめ、それをばらすなよー。
相変わらず空気が読めない奴だ。
「ただ、僕があちらの世界で残しているマーキングは、魔王城と自宅だけです。魔力節約のため後は消してしまいました」
僕の移動魔法はどこにでも行けるわけではありません。
マーキングのある場所だけです。
行くとすれば魔王城になるだろう。
そして、マーキングのある場所の周辺は様子を見ることも出来る。
僕はこっそり、様子を見てみた。
向こうの世界を気にしたのは、こっちに来てから初めてだ。
それほどまでに、ユウキとの生活が楽しかったのだなと実感した。
魔王城はとても静かだった。
この様子なら、廃城になっているようですね。
僕が開けた壁の大穴はそのままです。
そして、中は荒らされ放題に荒らされています。
宝物は全部持って行かれているようですね。
ここなら、移動しても問題無さそうです。
「マモリちゃんやどうじゃ。行けそうかのう」
「はい、長官。行けそうです」
「うむ、それはよかった。ところで、ファルコン君をどうやって、英国へいかせるかじゃが」
そ、そうです。
そっちの方が難題です。
「それには、一つ案があります」
メイヤが、簡単そうに言いました。
「ふむ、なんじゃね」
「はい。わたくしは、黄泉の国を通ってどこへでも行けます。だた、黄泉の国へ人を連れて行くと、その人はそこから出る事が出来ません」
黄泉の国とは地獄のことだ。
地獄に入った人間は出られないって、じゃあ駄目じゃないか。
メイヤの奴、何を言っているんだ。
「ふむ。それは移動が出来ないと、いうことではないのかのう」
「ふふふ。そこで、マモリ様の金玉の出番です。マモリ様の金玉だけなら移動しても外に出せます。そこでマモリ様の金玉を持って英国へ行き、マモリ様の金玉を擦るのです。そうすれば、マモリ様を呼び出すことが出来ますので、一緒にファルコンさんも移動すればよいのではないでしょうか」
メイヤの奴、マモリ様の金玉ばかりいいやがってーー。
まるで、僕の金の玉みたいじゃないかーー。
こうして、ファルコンファミリーの英国行きと僕の魔王国行きが決まりました。
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