第百二十四話 おごり
「ひっ!!」
マオちゃんとレイコちゃんが小さく悲鳴を上げました。
どうしたのでしょうか。
そして、キョロキョロしています。
なぜかマオちゃんと目が合いました。
マオちゃんはユウキちゃんとマモリちゃんの手をすり抜けると、猪のように私に突進してきます。
「ええぇっ!!」
猛烈なタックルです。
肋骨からミシリと嫌な音が聞こえます。
わたしは、そのままゴロンゴロンと回転して、すごい勢いのまま神社の鳥居の足に後頭部を強く打ち付けました。
立派な石で出来た鳥居です。
後頭部の骨が砕けたような痛みが走りました。
人生2度目の頭蓋骨骨折です。
「だ、だいじょうぶ??」
はわわ、上目遣いで心配そうに見つめるその顔は……すげーかわいい。
これが、あの魔王様ですかー?
パワーはありますね。
でも、かわいい!
わたしは、ぎゅっとマオちゃんを抱きしめました。
「大丈夫よ」
わたしは、痛みをこらえて笑顔を作りながら安心してもらおうと、そう言いました。
遠のく意識の中で、見えたのはレイコちゃんが、ナナちゃんに抱きついている姿です。
レイコちゃんは、ナナちゃんに優しく抱きついています。
――あら?? 急に痛みが無くなりました。
マオちゃんが、ニッコリと笑います。
なにか、魔法を使ったのでしょうか。
確か能力は魔王様と同じ……
と、とんでも無い美少女が誕生しました。
「あーあ、ユウキが恐くて逃げ出したみたいですね」
逃げ出した、マオちゃんとレイコちゃんを見つめながら、悲しそうな表情でマモリちゃんが言いました。
「えーーっ!? ショックです。初めての失恋みたいにショックです」
ユウキちゃんが悲しそうな顔をします。
おかしいですね、どちらかと言うとわたしには、マモリちゃんを恐れて逃げたようにみえました。
でも、マオちゃんは、これだけ美人がいる中で、なんでわたしなんかを選択したのでしょうか?
「ちーちゃん、ななさん。2人をお願い出来ますか?」
「は、はい」
わたしとナナちゃんの返事がかさなりました。
そういえば、この集まりは地球防衛義勇軍の最高幹部の人達の集まりです。
わたしは、なぜここにいるのでしょうか? いていいのでしょうか? と不安でした。
マオちゃんは、そんな私の不安な表情がわかったのではないでしょうか。
きっとそうですね。
マモリちゃんと話していたときの魔王様は、とても優しい国民の為の政治をする良い王様だったように感じました。
きっと、その優しさは今もそのままなのですね。
「さあ、メイヤの用事はすみました。とっとと帰ってください」
マモリちゃんが、冷ややかに言いました。
「へっ!?」
メイヤさんが間抜けな顔をして驚いています。
「耳が悪いのですか? とっとと、帰ってくださいと言ったのです」
「お、お待ち下さい。わたくしは、既に家臣筆頭になる心の準備は出来ています」
「……!?」
マモリちゃんの目が冷たく光ります。
お、怒っています。
怒っていますよ。
「あなたは間違っています」
ユウキちゃんも眉毛をつり上げて言いました。
ユウキちゃんも怒っています。
怒っていますよ。
「なにーーっ!! 小娘がーー!!」
こ、こんどは、メイヤさんが怒っています。
この人の怒りの表情は寒気がするほど恐ろしいです。
地獄からの使者のような恐ろしさです。
「それが、駄目だと言っているのです」
ユウキちゃんはすごいです。
こんな恐ろしい顔をしたメイヤさんの顔をにらみ返しました。
それを見て、マモリちゃんの表情が無表情になりました。
止めないで静観するようです。
「なんだと!?」
メイヤさんが、ユウキちゃんの迫力に負けて怒りの表情が消えました。
「人を見下し、ゴミ呼ばわりしながら命を奪う。そんな人を神様は決して許しませんよ。その行為はアッガーノ王国の暴君と変わりありません。国民を思い、国民の為になる政治をしようとしていた魔王様とは大違いです。あなたは、弱き者の喜びや悲しみを知らないのですか、それとも忘れてしまったのですか?」
「わ、われは……」
メイヤさんが、考え込んでしまいました。
遠い昔を思いだしているのでしょうか。
遠くを見るような目になりました。
ユウキさんは、その姿を見るとゆっくり静かに話し始めました。
「底辺に暮らしてきた私は、あなたから見たらゴミのような存在なのでしょうね。力ある人達は皆そうです。日本の政府もそうです。底辺で苦労する人々がゴミにしか見えないのでしょう。でも、一生懸命生きているのです。必死で苦しい中にも喜びを見つけて生きているんです。そんな弱い立場の人々を、あなたほどの力を持ちながら、ゴミ呼ばわりして命を奪うなどという行為を、神様が許すわけがありません。神様は弱々しく消えてしまいそうだった私を、ずっと寄り添って育ててくださいました。そんな神様の元に、あなたのような人はふさわしくありません」
「くっ」
メイヤさんは歯を食い縛りました。
何も言い返せないようです。
「神様、御願いがあります」
ユウキちゃんが神様の目をキラキラした瞳で見つめます。
「えっ!?」
不意を突かれてマモリちゃんが驚いています。
「神様! メイヤさんを、配下の末席に加えて下さい。御願いします。なんでもします。じんじゃ――」
「ちょ、ちょっと待って。えっえっ、話が見えません」
ユウキちゃんの言葉をさえぎって、マモリちゃんが困っています。
「メイヤさんをこのまま帰してしまっては、弱者をゴミとしか見ないままです。なんとか、更生させないとメイヤさんの為になりません。草履取りとして神様のお近くに置いてあげて下さい。御願いします」
「ええぇーっ、ちょっとー、ずるいよぉー、ユウキィー! 僕はユウキとの約束があるから断れないんだからー」
マモリちゃんがメイヤさんをチラッと見ました。
メイヤさんの顔におごった様な、嫌な雰囲気は消えています。
「神さまーー、おねがいします」
ユウキちゃんが深く頭を下げました。
「メイヤ、末席の草履取りだそうですがどうしますか」
「わたくしは、遠き昔は人間でした。それが、いつのまにか人をゴミのように見下していたのですね」
メイヤさんは真剣な表情で答えました。
「よし! ユウキ。メイヤの更生は終わった。このまま帰っていただこう」
マモリちゃんがうれしそうに言いました。
「ええぇーーーーーーっ!!!!」
ここにいるほとんど全員が声を出しました。
「ちぇっ! メイヤ、ユウキに感謝するのですね」
マモリちゃんの言葉を聞くと、メイヤさんが深々とユウキちゃんに頭を下げました。
そして、こちらを見て全員に頭を下げました。
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