第百十九話 謎の男
「次は、僕の番ですね。あまり人に見られたく有りません。僕は恥ずかしがり屋なのです。リリイさん、司令官だけは残したままで御願いします」
マモリちゃんは、あんなすごいものを見せられても驚く様子もなく、静かにたんたんと言いました。
「はいですぅ」
姿を消したリリイさんが返事をすると、ドーム状に黒い闇が広がりました。
丘の天辺にいる司令官を除いて、あっという間に侵略軍全員が闇に包まれました。
「うおおぉぉ!??」
闇に包まれた侵略軍から狼狽の声が漏れました。
「安心して下さい。暗くなっただけです。リリイさん、魔法が変りましたね」
「はいですぅ。少し上達しましたぁー」
「さすがですね」
「うふふ、はいですぅー」
姿は見えませんが、リリイさんの声だけでもうれしさが伝わってきます。
「さて皆さん、いよいよ僕の番です。覚悟をしてください」
マモリちゃんが言い終わると、マモリちゃんの体から黒いモヤが出て来ました。
マモリちゃんの表情はほとんど変わっていませんが、わたしには悲しげに感じます。
「ひゃはははは!! 何をするつもりかしらんが、楽しませてみろ!! バカが!! 魔導師隊! 念のため防御魔法を展開しろ!!」
司令官はまだまだ余裕があります。
あの恐ろしい魔法を使う魔導師隊です。
全力で防御をされたら、鉄壁になるのではないでしょうか。
大丈夫でしょうか?
「では、行きますよ」
マモリちゃんが、静かに無感情な声で言いました。
侵略軍に同行している動画配信者のカメラが一斉にマモリちゃんに向けられました。
マモリちゃんは静かにゆっくり、目をとじていきます。
目を閉じきったところで、それは起りました。
「ぐわああぁぁぁぁーーーー!!!! ぎゃああぁぁぁぁーーーー!! ぐええぇぇぇーーーー!!!!」
突然闇の中から、地獄の苦しみのような声が響き渡りました。
耳を覆いたくなるような苦しみの声です。
「うわあああああああぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!」
侵略軍の兵士の声でしょうか。
恐怖に怯える声が響き渡ります。
距離はかなり離れているのですが、わたしの耳元で叫ばれているように聞こえるほどの大音声です。
「やめてぇぇぇーー!!」
「たすけてぇぇぇぇーーー!!!!」
「いやだあぁぁぁーー!!!!」
「おかあちゃぁぁぁぁぁーーーーん!!!!」
悲鳴が続きます。
中で何が起きているのでしょうか。
わかりませんが、わかりませんが……わかるような気がします。
「よかった。こんなものを、配信しなくて」
わたしの横にあの有名人、マーシーの幻覚チャンネルのマーシーさんがいます。
両腕で体を包んで、ブルッと体を震わせました。
侵略軍の司令官は丘の上で、顔面蒼白で唇が紫色になり、ガチガチ歯が鳴っているようにみえます。
どの位、時間がたったのでしょうか。
とても長かったような、それでいて短かったような、不思議な感覚です。
まるで、誰もいなくなったように静寂に包まれました。
「リリイさん、もういいでしょう」
マモリちゃんが、静寂をやぶって言いました。
「はいですぅ」
リリイさんの返事と共に闇が消えました。
侵略軍の兵士の姿はほとんど消えています。
1000人ほどの兵士が、腰を抜かして座り込んでいます。
目が大きく見開かれて、まばたきを忘れています。
「あ、あり得ない。300を超える魔導師だぞ。兵士だって五万を超えていた。いったい、いったい、お前はなにものなんだーーーー!!」
侵略軍の司令官がガックリひざをつくと、空に向って絶叫しました。
その絶叫と同じタイミングで、司令官の10メートルくらい上に黒い球が出現しました。
それが、徐々に大きくなります。
――司令官の魔法??
それは、おぞましい赤い稲妻のような物を出しながら、ドンドン膨れ上がります。
それと同時に、あたりが暗くなります。
黒いモヤがあたり一面に広がり、夕闇のように暗くなっていきます。
赤い稲妻が、成長する球のまわりでバチバチ音をたて激しく暴れます。
赤い稲妻が少し落ち着くと、球も成長を止めました。
その球の中にうっすら人影が見えてきます。
人影の後にゆっくり球が移動すると、人の姿がすこしずつ外に出てきました。
いったい何者なのでしょう。
出て来たのは、男性でした。宙に浮いています。
体のまわりには、さっきのマモリちゃんのように黒いモヤが出ています。
でも、そのモヤはマモリちゃんのものより濃くて大量です。
そのモヤが空気中に広がると、まわりの闇に同化し闇が濃くなりさらにあたりが暗くなります。
もし、この闇がその男性の体から出たものなら、男性の闇の量はすさまじい量です。
マモリちゃんに視線を移すと、マモリちゃんの表情が緊張して硬くなっています。
男も、マモリちゃんの表情を見て満足そうにニヤリと笑いました。
男の顔は、細い目が吊り上がりその中には小さな瞳がギラリと光ります、眉も薄く吊りあがり、まるで悪魔を想像させます。
体は細く、真っ黒なタキシードのような服を着て、手には真っ白な手袋、足には真っ黒な革靴を履いています。
「お、おっそろしい顔だ」
マーシーさんが言いました。
「きさまーー!! 俺の頭の上に立つなーー!! ふざけるなーー!!」
侵略軍の司令官が、上を見上げて叫びました。
その声を聞くと男の顔から笑顔が消え、寒気がするような不機嫌な顔になりました。
男は、音もなく下に移動します。
そして、司令官の横に立ちました。
司令官はひざをついたまま、男の顔をにらみ付けます。
「ふっ! ゴミがっ!!」
男は、そう言うと司令官の体を右手で払いました。
まるで、うるさいハエを追い払うように軽く。
「ぐあわああぁぁぁぁぁーーーーー!!!!」
司令官はまるで重力を無視するように真横にふっとびました。
男は、横に立っている巨大な侵略軍の国旗を片手で引き抜くと、司令官めがけて投げつけました。
何十キロもあろうかという旗を、軽々と片手で投げたのです。
その旗は、空中で司令官と一つになり、それを合図にしたように司令官の体は地面に落ちていきます。
地面に大きな音を立てて落ちた司令官の体のまわりに、血の赤い水たまりが出来て、それがみるみる広がりました。
「ひっ、ひいぃぃーーー」
近くにいた兵士が悲鳴を上げました。
「ちっ、うぜーーなぁーーーー!!!!」
男がそう言うと、右手を肩まで上げて、手のひらを開きました。
そして、その手を橋の上のわたし達の方に向けました。
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