第百十六話 再開
「ナナちゃん、わたしはもう動けません。ナナちゃん、たすけて!!」
わたしは、助けて欲しいと言うより、ナナちゃんだけは助かって欲しいと思っています。
でも「たすけて!!」と言いました。
ナナちゃんなら、たすけてくれようと行動をしてくれるはずです。
思った通り、ナナちゃんは泣きやみました。
「ちーちゃん」
弱々しい声ですが、私を上目遣いで見つめる目には力がよみがえりました。
「本当は、一緒がいいのだけどわたしはここまでのようです。でも、ナナちゃんが戻るまでは絶対に死にません」
「ちーちゃん……わかった。絶対助けを呼んできます。はい、これ」
ナナちゃんは、しばらくわたしの胸に顔を押しつけていましたが、顔を上げると私に水のペットボトルを1本渡してくれました。
わたし達は身軽にしようと水のペットボトルを2本しか持って来ていません。
その1本を私にくれました。
「ありがとう。気を付けてね」
本当は、一緒に行きたい。
置いていかれたくない。
こんな所に一人は心細くて嫌だ。
でも、出来ているかどうかわかりませんが、笑顔をつくりました。
腫れてふくらんだ不細工な私の顔では笑顔かどうかは、わからないかもしれません。
「うん、行ってくる。まってて、ちーちゃん!! まっててね!!」
ナナちゃんが笑顔を見せてくれました。
とてもさっきまで大泣きしていたとは思えないほどの美しい良い笑顔です。
美人はうらやましいなあ。とても美しい、そして可愛いです。
ナナちゃんはスクッと立ち上がると、ものすごい勢いで走り出しました。
途中で一回だけ振り返り手を振ってくれました。
「ふぅーー!! ごめんね。ななちゃん」
わたしはナナちゃんにあやまりました。
嘘をついているからです。
本当は体力的にはもう少しだけ動けます。
とは、言ってもほんの少しだけです。
私も立ち上がり、フラフラしながら場所を移動しました。
もし、いいえ。
必ずナナちゃんは、助けを連れてきてくれるでしょう。
メロスのように途中で投げ出そうなどとは思わないはずです。
ナナちゃんが助けを連れてきてくれた場合、体の動かないわたしはただの足手まといです。下手をすれば、体の動かない私を運ぶために目立ってしまって、全員が侵略軍に見つかって殺されてしまうかも知れません。
そんなことになったら、わたしはとてもたえられません。
だから、場所を移動して見つからないように隠れようと思います。
その分の体力を温存したのです。
足手まといが居なければ、きっと楽に帰ることが出来るはずです。
もうろうとする意識の中でフラフラがんばって歩きます。
しばらく歩くと、ガチャガチャ金属音が聞こえて来ました。
とうとう、空白時間が終わってしまったようです。
私は近くの民家の庭の垣根の影に隠れました。
垣根の間から、様子を見るとナナちゃんと別れた場所から余り離れていません。
目と鼻の先です。
頑張って歩いたつもりですが、思っているより体が動かなかったみたいです。
体がつらいので横になると、そのまま目の前が真っ暗になりました。
「おい、義勇軍の救助隊がこっちに向っている。待ち伏せをするぞ」
わたしは話し声で目を覚ましました。
ビルの影に侵略軍の小隊が隠れました。
わたしには、なぜか恐怖がわいて来ませんでした。
見つかればすぐに殺されるという、この状況なのに不思議と恐くありません。
むしろ、昨日の晩ベッドの上でガタガタ震えていたときの方が恐かった。
このままなら、ケガのせいでそれほど長くは生きられない気がします。
顔が腫れ熱っぽいですが、不思議と苦しみや痛みがありません。
ボーーッとして、心地よささえ感じます。
――ナナちゃん無事かなあ
できれば、避難所の人がナナちゃんに「戻ってはいけない。ここにいるんだ!」そう言って引き留めてくれないかなあ。
わたしが思うことは、ナナちゃんの無事だけになりました。
「うわあああああああぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!! ちーーーちゃーーーーん!!!!」
大声が聞こえました。
神様は意地悪ですね。この声は間違いなくナナちゃんです。
声のする方を見ると、最初に隠れていた場所にナナちゃんが来ています。
他にも数人の人影が見えます。
ナナちゃんは、わたしの姿が見つからなくてパニックになったみたいです。
よりによって、侵略軍の小隊が見張っているのに大声を出しました。
侵略軍の小隊は弓を構えます。
せっかく、せっかく、助かったのにこんな所で、ナナちゃんが死ぬのなんか考えられません。
「だめーーっ!!!!」
わたしは、おもわず小隊の前に両手を広げて進み出していました。
小隊は、自分達の近くに突然現れたわたしに驚いて矢をわたしに放ちました。
わたしは、声を出し数歩進んだあとすぐに、足に力が入らなくてその場に崩れ落ちました。
矢が恐ろしい音をたてて、私の頭の上を飛んで行きました。
「ばかもーーん!! よくねらえーー!!」
すぐに、小隊は弓に次の矢をつがえます。
そして、放たれた矢が私に向ってきます。
ここで私の意識が遠のき、もうろうとしました。
だからなのか、矢がゆっくり飛んでくるように見えます。
矢は、私の頭をめがけて飛んでいるようです。
わたしは、目を閉じました。
真っ暗です。死ぬということは、意外と何も感じないもののようです。
「まったく、ちーちゃんは無茶をするのだからー」
なつかしい声がしました。
わたしは、なにがなんだかわからなくて目を開けました。
開いた目玉に刺さりそうなくらい近くに矢尻が見えます。
でも、その矢は止まっています。
「マモリちゃん」
わたしの目の前には、軽音部の姫神マモリちゃんがいます。
手には、あの人の体をバラバラにするほどの威力のある矢が握られています。
わたしがマモリちゃんの、美し過ぎる顔を見つめていると。
「ぐわああぁぁぁぁーーーー!!!!」
うしろから、侵略軍の声がしました。
恐ろしい顔をした外国人さんが、侵略軍の小隊をこともなげに倒してしまいました。
「ちーーーーちゃーーん!!!!」
ナナちゃんが叫びながら猛ダッシュでこっちに走ってきます。
イノシシでもそんな勢いで走らないよ、というような勢いで突進してきます。
「がはっ!!」
ナナちゃんの猛タックルです。
今度は肋骨が折れたようです。
「ち、ちーーちゃーーん!!!!」
ナナちゃんの声と同時に私は意識を失ったみたいです。
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