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村人と吸血姫と魔族⑧

本日二話投稿。一話目です。

 






「じゃあ、行って来ます」


 港で沖合を見つめたまま、レビンは告げる。

 使者との交渉は決裂した。

 交渉とは言うものの、相手の要求は変わらず、それを受け入れられるはずもない為、両国は戦う事となった。


「要らぬ心配であろうが、気をつけるのである」

「ははっ。ありがとうございます。では」


 シュバッ


 レビンは地を蹴り、流氷が浮かぶ海へと飛び出して行った。


 今回は数が多い為、王国から船は出さない。どうせ足りないからだ。

 よって見送りもゲボルグただ一人。他は王都でその時を待っていた。







 タッ


 軽やかな音を立てて、レビンは敵艦隊の一つに乗り込んだ。そんなレビンの近くから、敵兵の声が聞こえる。


「こんな晴れた日に戦争か…気が滅入るな」

「馬鹿言ってんじゃねーよ。雨の日にこの極寒の中戦うのはゴメンだぜ!」

「ははっ!それもそうだな!」


(二人か…出来ればギリギリまで気付かれたくない。一人の奴から絞め落とそう)


 レビンは音も立てずにその場を後にした。




「!!?!?!!…」ドサッ


 音もなく突如背後から首を絞められた男は、何も出来ずに意識を手放した。


「ふぅ。この作戦の良いところは、縄は自前で敵が持っている事だな」


 敵海兵達は縄を腰に常備していた。それで自分が縛られるのだから世話はない。


 ゴキッ

「やべっ……すまん」


 時々その有り余る力のせいで強く縄を絞め過ぎ、骨を折ってしまうのは不幸な出来事であった。




 その調子で敵を捕縛していったレビンは漸く一艦を攻め落とした。


「ここまでは順調。問題はバレた時だな」


 無線機は船同士でも使用されていると聞いていた。この船から応答がなくなった事で異変に気付かれるのも時間の問題だ。


「ま。なるようになる。後九艦がんばるか」


 長い戦いは始まったばかりだ。




 あれから一時間ほど後、連合国艦隊が漸く異変に気付いた頃には、レビンは四艦を攻め落としていた。

 残された全艦からけたたましいサイレンが鳴り響いた。


「あっ。バレたな」


 まるで他人事のようにレビンは呟いた。







 少し前。敵艦隊にて。


「どういう事だ!?何故応答せん!?」


 黒い箱を前にしてユーポート連合国艦隊のトップであるアイスバーレー海軍元帥は怒りを露わにしていた。


「四番艦、七番艦共に応答ありません!」


 怒りに震えるアイスバーレーに部下が報告する。


「な、何が、何が起きておる!?」

「無線に応答がない為、何もわかりません。目視では艦は健在とのこと」

「わかっておるわっ!!馬鹿者がっ!!」

「も、申し訳ありませんっ!」


 見て聞いてわかることしか答えない部下を叱責するが、軍とはそういうもの。憶測というモノからは遠い職種だ。


「二番艦からも連絡が途絶えました」

「……」


 心霊現象か?いや、そうであって欲しい。

 アイスバーレーはこの不可解な状況にそう願う。


 残された艦隊は三五六八九十番艦と自身(アイスバーレー)が乗る十一番艦のみ。そもそも一番艦が何の報告もなく消えた事も不可解なことだったのだ。


「アース王都攻撃準備を中止!お互いを見張らせるのだ!」

「はっ!」


 最早敵はアース王国ではない。この不可解な現象から対応せねばならん、とアイスバーレーは指示を飛ばした。






「報告します!!」


 そんな司令室に待ちに待った報告がやってきた。


「三番艦にて、何者かが侵入しているのを確認しました!」

「よし!侵入者は何名だ?」

「それが…恐らく一人かと」

「ば、馬鹿な…ちゃんと確認したのかっ!?」

「は、はっ!見つけてからは全艦の見張りを三番艦に向けました!」


 報告を聞いて、アイスバーレーの頭の中は余計に混乱した。

 しかし、そこは元帥まで登り詰めた男。すぐに気を取り直し、指示を飛ばす。


「全艦の機関砲を三番艦に向けるのだ」

「えっ…しかし…」

「何をしておる!これは命令ぞ!?」

「は、はっ!!」


 主砲は王国に向けている。そして主砲の照準は中々変えられない為、取り回しやすい備え付けの機関砲を使う事にした。







 レビンが三番艦とは知らずに内部を殲滅し終えた頃。


「ふう。半分まで後一艦だな…」


 身体は全く疲れていないが、単純作業と化した締め落とし作戦に精神的な疲れが出始めていた。


 そんなレビンは甲板に出る為の階段を登っていた。そこに……


『侵入者に告ぐ!直ちに姿を現さないのであれば、その船を沈める!これは警告である!侵入者に告ぐ!直ちに・・・』


「…遂に居場所までバレたか。仕方ない」


 そう呟くとレビンはその足を止めずに甲板に躍り出た。


「おおいっ!出て来たぞー!」


 まるで旧友と再会でもしたかの様な仕草だ。

 まさかこれほど簡単に姿を現すとは思ってもいなかった連合国の動きが止まる。

 それもそのはず。これまで姿を現さずにここまでの事をされたのだ。

 敵は隠密に長けた者である事は明らか。なればそれに備えたマニュアルをこなすだけだと皆思っていたのだ。そうで無くとも敵に姿を見せるメリットなど見当たらない。


『…………』

「おーーい。どうしたー??話があるんじゃなかったのかぁー?」


 尚もレビンはレビンだった。

 そんなレビンに敵艦から反応がある。


『と、投降するのであれば命までは取らない!』

「いやぁ…捕まるのはちょっとな。銃ってのがあるんだろ?使ってみろよ?」

『………』


 この状態であってもレビンの態度は揺るがない。それを不気味に思う敵軍は再び言葉を失った。

 レビンは捕虜から齎された未知の武器に興味があった。所謂知りたがりが出たのだ。自身の脅威になるのであれば逃げればいい。軽い気持ちで敵を煽った。


『狙いはあの馬鹿だ!五番艦発射っ!!』


 これまでは若い男の声が響いていたが、急に声の年齢が変わった。

 レビンの挑発にアイスバーレー元帥がキレたのだ。


 ドンッ


 待ち構えて…棒立ちしているレビン目掛けて砲丸が飛んできた。

 大きさは手のひら程。レビンの元に辿り着く頃には速度は音速には程遠く、発射音の方が先に辿り着いていた。


 バシッ


 えっ?そんな声が敵艦隊のあちらこちらから上がる。

 レビンは事もなげに砲弾を片手で受け止めた。どうやら砲弾ではあるが、破裂する事はないようだ。


「へぇ…これをあの速度で誰でも撃てるのか。確かに脅威だな」


 レビンの言葉の後に『普通の人には』と付くのは容易に想像出来た。


「借りた物は返さないとな」


 ヒュンッ


 レビンが砲弾を持っていた手を振るとその手から音速を超える速さで砲弾が放たれた。

 連合国兵達は急にレビンの手から砲弾が消えたように見えた為、一様に驚いていたが後数瞬もすればそれが何をしたのかを理解する。


 ドゴーーンッ

 パラパラパラ……


 レビンが投げた砲弾は寸分の違いなく、五番艦の機関砲へと命中した。


「ば、化け物だ…」「何だあれは…」「ゆ、夢か?」


 軍人である為、五番艦以外の者達はその場から動いたりはしなかったが、放心はしている。

 レビンへと攻撃した機関砲は粉々に壊れていたが、幸いにも死者はいなかった。もちろんレビンがそうなるように放ったのだ。


「おーし。手の内は理解したし、どうせバレてるからこのままそっちに行くぞ」


 そう独り言を呟いたレビンは近くにいた六番艦に飛び移った。




「ひっ!?」


 突如として現れたレビンに六番艦の連合国兵が悲鳴をあげる。


「さ。眠ってくれ」


 レビンはこれまで通りに流れ作業を開始した。






『侵入者に告ぐ!』


 六番艦を制圧したレビンに方針が決まったのか、再び連合国側から話しかけて来た。

 最早聞きたい事、知りたい事は無くなったので話に興味がないレビンだったが、律儀にそれに応じるようだ。


「なんだ?」

『貴様の強さはわかった!だが、脅威は貴様だけの様だ!我等には数がある!その意味は…わかるか?』


 レビンの強さに打つ手は無くなったかに思えたが、アイスバーレー率いる連合国海軍も戦果なく帰るわけには行かない。海を越えて別大陸を攻めるにはそれだけの理由があるのだ。


「さあ?」

『わからんか。蛮族なら仕方ない。教えてやろう』


 レビンの返答にアイスバーレーが得意げに告げる。


『我らの叡智を使えば、ここからでも貴様が守る王都を壊滅させる事が出来るのだっ!!わかったか!?』

「……わかった」


 嘘は言っていないとレビンも知っている。捕虜から聞いていたからだ。


『はははっ!では、直ちに武装解除…いや、何も持っておらんな。こちらに投降しろ!さもなくば王都を滅ぼす!わかったな!?』

「わからん」

『えっ…?』

「だからわからないと言ったんだ」

(耳が遠いのか?まぁこっちは地声だしな。向こうは何かの道具で大きな声で聞きやすいけど)


 聞き返された理由はもちろんそれではない。


『お、脅しではないぞ!?』

「ああ。知ってる。やってみろよ?」

『ぐっ…』

「その代わり、もう容赦はしない。その覚悟でしろ」


 撃っていいのは撃たれる覚悟のある者だけ。

 レビンの怒気混じりの声に連合国海軍は息を呑んだ。


『わ、我等は手ぶらでは帰れん!!全艦主砲発射っ!!』


 後にアイスバーレーはこの時の心情を語る。

『帰るところがなくなればこちらに鞍替えする可能性に賭けた』と。

 窮鼠猫を噛む。

 果たして、アイスバーレー率いる連合国海軍(きゅうそ)レビン(ねこ)を噛めたのか。

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