村人と吸血姫と魔族⑦
「凄いな…髪色だけでこうも変わるのか」
レビンは王城内の一室で鏡の前に立ち、一人呟いていた。
コンコン
「はい」
ガチャ
「っ!!?」
ノックの後に入ってきたのはミルキィだ。
その表情は部屋に入るなり驚きの色に染まる。
「おっ。ミルキィ似合ってるよ。茶髪も新鮮でいいね」
「〜〜っ!レ、レビンも似合ってるじゃないっ!」
(何で怒っているんだ…)
女王が準備してくれていた変装の道具とは、体毛の色を変える魔導具だった。
二人ともこの大陸では目立つ髪色をしていた為、髪色だけ変えればバレないだろうとこうなった。
レビンが言っている通りミルキィは派手な赤髪からありきたりな茶髪へと変わっていて、レビンは黒髪から金髪へと変わっていた。
ミルキィは顔の造形こそ美形だから違和感はない。だがレビンは似合っていた。いや、似合い過ぎていた。
逆説的に考えると、レビンの西洋顔に黒髪は似合っていなかったのかもしれない。
ここにきてしっくりくる髪色を手にしたレビンを見て、ミルキィは見惚れていた。故に長らく封印していたツンが出てしまったのだ。
「これならすぐにはばれないよな!別大陸の科学(?)も凄いけど、魔導具も負けてないと思わないか?」
「そ、そうね」
「ん?どうした?王都観光は気が向かないのか?」
レビンを見て照れているのだが、そんな事にレビンが気付くはずもなく的外れな事を言った。
「ち、違うわよ!行くわよ!」
「お、おう?」
(なんだ?腹でも痛いのか?)
レビンはいつまで経っても勘違い系主人公だった。
「別嬪さんを連れてる兄ちゃん!一つどうだい?」
首から下げるネックレスタイプの魔導具を服の下に隠した二人は王都を練り歩いていた。
そんな二人は露店が並んでいるエリアに来ていて、一人の露店主に声を掛けられていた。
「これはなんだい?」
「これは魔除けって言ってな、元々邪気を祓うモノなんだが、今ではこのヒモが切れると願いが叶うって言われてるモノだ」
露店に並んでいるのは色とりどりのミサンガだ。
「これを着けるのに性別は関係ないのかしら?」
「おう!老若男女関係ないな!どうだい?」
店主の言葉に二人は視線を合わせて頷く。
「じゃあ二人でお互いに贈り合うのを選ぼうか」
「そうしましょ」
「けっ。客だけど、独り身に見せつけるなよな」
「はははっ」「ふふふっ」
店主はこう言ってはいるが、その表情が自虐ネタなのをハッキリと伝えていた。そんな中、二人は仲良く買い物を済ませた。
「お腹が空かないか?」
「そうね。どこか落ち着ける店を探しましょう」
二人は常人には捉えられない匂いを捉え、道も知らない王都を仲良く手を繋ぎ、迷いなく進んでいった。
そんな二人の手首には、お揃いのミサンガが揺れていた。
「二艦いるな」
時刻は夕刻になり、今日の王都散策を終えた二人の姿は城壁の上にある。壁はかなりの高さがあり、遠くに海が見えた。
「全部で十艦だったわね。どうするの?」
「叩くなら徹底的に叩かないとな。集まるまでは放っておこう」
「そうね。ここで逃したら後々面倒な事になるでしょうね」
確認と納得を得た二人は城へと戻って行った。
「急に連絡が途絶えたが…一体どこに行ったんだ?」
ここは連合国艦隊の一室。質実剛健さもありながら一つ一つの調度品のバランスが取られた部屋は指揮官が使うに相応しいモノに見える。
その室内には三人の男の姿があり、例の黒い箱も存在していた。
「命令を破るとは考えられん。これは王国に沈められたと考えるのが妥当だろう」
「しかし、敵は蛮族だぞ?この最先端の船を沈めるどころか、近寄る事も出来ないだろう?」
「待て。奴らは魔法を使っている。いくら本国では廃れたモノとはいえ、強力な魔法であれば可能ではないか?」
一人は軍人らしく現実を俯瞰し、一人は自分達の力を過信し、最後の一人は原因を探った。
「どちらにしても我々に下された命令は一つ。やる事は変わらん」
「そうだが…もし魔法ならどうする?対策を練らなければ我等も同じ道を歩む事になるぞ?」
「魔法の射程などしれている。もし近づくモノがあれば主砲で撃ち抜けばいい。奴らは油断したから沈んだんだ」
アース王国王都近海にやってきた二艦の指揮官達は、その海域にいるはずの味方の船がいない現実を受け入れる事にした。
一艦だったから沈められた。であれば、揃うまで防衛に気をつけていれば問題はないと、結論を出した。
彼らはまだ知らない。世の中には理不尽な暴力がある事を。
「では、連絡しておこう。『海域に一番艦の姿無し。しかし危険も見当たらない』と」
「ああ。本国に無線はもう届かないが、本隊には連絡しないとな」
「この最新の無線機で届かないとは、流石別大陸といった所だ。ここまで戦線が延びるとはな。いや、我々がすることはいつも命令通りだから考えても無駄か…」
「未開の蛮族とはいえ、政治のせいで人殺しをしなきゃいけないのは軍人の辛い所だな…」
いくら軍の高官といえども国規模でみると所詮実働部隊員。彼等もまた国の駒の一つに過ぎないようだ。
「また二艦増えてましたよ」
あれから数日。今日も今日とて王都デートを終えた二人は、王城内の会議室にて報告をしていた。
「うむ。これで十艦。情報通りであれば明日にでも動きがあるのじゃ」
「その前に攻めたらダメですよね?」
「出来れば話し合いをもって解決したいのじゃが……」
「あっ、いえ。任せます!」
(王都で見る所がなくなったから早く王国の他の場所を見て回りたいなんて理由は通らないよな?)
女王からは潤沢なお小遣いを貰っていたが、二人とも浪費家ではない。買い物よりもむしろ景色、風景、雰囲気を楽しむのが二人のデートのあり方だった。
王都はかなりの大きさを誇る為、買い物であれば何ヶ月かは飽きない。しかし風景であれば何処であれすぐに見飽きてしまう。
「う、うむ。やる気があるのはありがたい事じゃが、国としては戦後不利になる事は出来るだけ避けたいのじゃ…」
「いえ!ホント気にしないでください!」
「女王陛下。レビンの言う事は間に受けてはダメですわ」
焦って否定するレビンに、他所行きの姫モードで厳しい事を告げるミルキィ。
女王にとっては二人とも一騎当千…いや一騎当国に値する化け物である。いくら二人の性格や考え方を知っていても、ビビってしまうのは致し方ない。
「では、予定通り向こうの使者との話し合いを優先します。お二人にはいつでも動けるようにご準備をお願いします」
「わかりました」「ええ」
ロマンスグレーの髪をオールバックにしたアース王国の宰相が二人にお願いをした。
国の重要人物であるのに二人は未だに宰相の名を知らない。理由は『この人…最近まで女王付きの執事さんだと勘違いしてたんだよなぁ…』である。
故に今更名前を聞けない二人であった。
翌朝、期日には少し早いものの、敵艦隊から小舟が出て、その小舟が港へと近づいて来た。
「うん。向かって来てるな」
「じゃあ報せてくるわね」
「頼んだよ」
城壁の上から確認したレビンはミルキィに連絡係をお願いした。
10m程の高さから躊躇なく飛び降りたミルキィの姿は瞬く間に消えた。
「ゲボルグさん」
「どうしたのであるか?」
敵艦隊を油断なく見つめながら、レビンは隣にいるゲボルグへと話し始めた。
敵は集まり、最後通牒の使者は港へと入港した。




