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村人と吸血姫と魔族⑥

 





「レビン様ぁ!!」「ミルキィちゃーーん!!」


 王都に繰り出した二人は、すぐに多くの魔族達に囲まれてしまった。

 戦時中、家に閉じ籠っていた魔族達はその鬱憤を晴らすかの様に王都を盛り上げ、又二人を囃し立てていた。

 二人を囲む集団は時と共にその輪を広げていく。


「これじゃあ観光どころか移動も出来ない…」

「ちょっと!レビンを気安く触らないでっ!」


 レビンの見た目は普通より多少良いくらいだ。しかし、そんな親しみやすい見た目のせいで、街の人達は近寄り難い美を持つミルキィを遠巻きにし、レビンに近寄っていたのだ。


 ミルキィは女性達を警戒し、レビンはうまくいかないと遠くを見つめ、魔族の若者達は盛り上がり、年配者はそんな二人を温かい目で見ていた。


「退くのである!!」


 そんな二人に救世主が現れた。

 戦勝の盛り上がりに水を差すのは憚れるが、二人の気配がその中心にある事を察知したゲボルグが『流石に拙いのである』と気付いて、救出に来たのだ。


「ゲボルグさん!良かったぁ…」

「良かったではないのである!変装もせずに街に出るなんてレビンはやはり馬鹿なのである!」

(ゲボルグさんって俺のこと馬鹿だと思っていたのか…)

「そうよ!レビンは相変わらず抜けているんだからっ!」

(えっ…ミルキィ?君も喜んでたじゃん?言えないけど…)


 レビン達は王国兵に護衛されながら城へと戻って行った。







「ほほほっ。それは災難じゃったのぅ。変装の道具は後で貸そう。それよりもじゃ」


 報告会を開いていた広間に再び訪れた二人を女王が労う。

 そんな二人に何やら話があるようだ。

 女王に視線で促された魔族が、代わりに話し始める。


「はっ。英雄様が発見された黒い箱の正体がわかりました」

「ホントですか?」

「はい。捕虜に問いただした結果、アレは連絡・通信用の機材と判明しました」

「機材?魔導具ではなく?」


 レビンは魔族の国も気になっていたが、同じくらいあの船の中身も気になっていた。

 そんなレビンに報告されたのは機材。その言葉にレビンは引っ掛かりを覚えて疑問を返した。


「はい。どうやら別大陸の敵国…『ユーポート連合国』では魔導具よりも使い勝手のいい科学の道具が使われている様です」

「科学…って、水車とかの?」

「はい。その様なモノ全般のことです」


 この大陸にも科学(化学)は少なからずある。全ての人が魔法や魔導具を使えるはずもなく、街を離れるとどちらかと言うと科学の方が使われていたりもする。

 しかし、国規模で大きな事をする為には魔導具や魔法を頼っているのが現状であった。

 魔族の船の動力も魔導具であるように。


「この国にも科学に対する書物がいくつかある。それは建国王が遺したモノが殆どじゃ。未だに謎が多いモノじゃのぅ」


 学ぶ機会が少ないこの世界…大陸では、地球の科学力は理解出来ないのだろう。出来たとしてもその者の発言力が小さければ、それは埋もれてしまう。


「へぇ…いつか行ってみたいですね」

「これを聞いて行ってみたいと思うのか…これも魔王種あるあるなのかも知れぬのぅ…」


 どうやら建国王も知りたがりだったようだ。


「その道具を使って本国と連絡を取っていたのですか?」

「いえ。聞いた所、直接は出来ないようです」

「えっ?でも声は聞こえましたよ?」


「はい。それはあの船よりさらに沖に停泊している船とのやり取りのようです。

 ですので直接は連絡取れずとも、船をいくつも介して別大陸にある本国に連絡していたと聞いています」


 なんとも凄い話であった。

 レビンはそれを想像してみるが、あまりピンとはこなかった。それ程想像の範囲外という事だ。

 レビン達普通の大陸人が想像出来る連絡方法といえば、目視による手旗信号や手信号くらいだ。


「最後の交信は我が国の船が近づいてきたという報告のようです」

「そうですか。…ん?じゃあ、そこで連絡が途絶えたら…そのユーポート連合国でしたっけ?そこはどうするのでしょうか?」

「うむ…それなのじゃが…」


 レビンの気付きに対して女王が渋い顔をして続ける。


「レビン達が倒してくれたのはユーポート連合国の先遣隊とのことじゃ…」

「先遣隊って…つまりユーポート連合国の本隊ではない?」

「そうじゃ。本隊はあの規模の船が十艦らしいのぅ…」


 女王は肩を落として、自分達の敵の強大さを恨めしく思う。


「それがいつ攻めてくるんです?」

「捕虜の話によると予定日がその日らしいのじゃ」

「ああ。それで攻めて来なかったんですね」


 元々のタイムリミットは後数日後。連合国は王国に対して余裕を見せていたわけではなく、元々本隊が来るまでの時間稼ぎと威力偵察が任務だったということだ。


 全てに合点がいったレビンは漸くこの不可解な戦争に一人で納得していた。


 この会議室には円卓があり、王国の重鎮達とレビン達がそれを囲んでいる。

 魔族達は皆俯いていて、レビンは納得できたからなのか腕を組み上を見ていた。ミルキィはそんな不思議な光景を気にせずにレビンの反応を待っている。


「じゃあそれまではここで観光しよっか?」

「ええ。次は変装して行くわよ」

「当たり前だろ?あんなのはもう嫌だからな…」


 まるで先程の報告を聞いていなかったかの様なレビン達の会話に、女王は目を丸くして二人を見た。


「と、いうわけで変装の道具を貸してもらえますか?」

「えっ…ああ。そうじゃな…誰ぞ。持って参れ」

(頼り過ぎてはダメじゃ。これは国と国との争いゆえ、個人に任せては…)


 女王はもしかしたら…と期待していた。しかし他国の人、それも本来であれば来賓として招かねばならない王女までいる。

 そんな二人だが、話を聞いて参戦してくれたらどれだけ心強いかと、守らねばならないモノが多い女王は期待してしまっていた。


 国はとんでもない窮地ではあるが、この二人は間違いなく救国の英雄。自身が叶えられる事であれば喜んで叶えなければと、気持ちを切り替えて為政者の顔に戻った。


「レビン。恥を忍んで頼みたいのである」

「よすのじゃ!」

「陛下!今しかないのです!!」

「しかし……」


 女王は半ば覚悟を決めていた。そんな所にゲボルグの一言。気持ちが再び揺らいでしまう。


「ん?ゲボルグさんの頼みですか?なんです?」


 王都に出るからお使いかな?くらいの気持ちでレビンは聞く。それを見てたった一人、この場のチグハグさに気付いた人が、まとめる為に声を出した。


「レビ『私達も戦うので安心してください』えっ…?」


 ゲボルグがレビンに頼もうとした矢先、ミルキィがその言葉に口を挟んだ。

 これまではあくまでもゲボルグが個人的にレビンに頼み事をした体である。

 一国からの、それも女王の御前で国の今後を左右する依頼を頼むとなると、レビン個人に思う所はなくとも周りがうるさくなる。ミルキィはさらに他国の王女であり、国交は無くとも他国に借りができる。それも返せないくらいの。


 その辺りの事をこの一年でミルキィは学んでいた。所謂帝王学を齧っていたのだ。

 その為、この場での頼み事を王国が出来るだけ避けたいと考えているのもわかっていた。だから言葉を遮ったのだ。


「聞こえませんでしたか?ユーポート連合国との次の戦も私達が終わらせると言ったのです」

「み、ミルキィ!?ちょっと!そんな大それた言い方しちゃダメだろ!?」


 レビンはもちろん色々と抜けている。


 態々そんな風に言わなくても元々最後まで自分達が協力できる事はするつもりだ。というのがレビンにとっては当たり前で、当然皆んなもそう思っているとレビンは思い込んでいた。

 レビンにとって今回の件はそれくらい大した事ではないという事の裏返しでもある。


「ほ、本当かぇ…?」


 女王にとっては余りにも都合が良い言葉の為すぐには信じられず、レビンへと確認する。


「えっ?そりゃそうですよ?ゲボルグさんの頼みは『敵をどうにかしろ』でしたから。勿論この国にはこの国のやり方があると思うので、指示には出来るだけ従います……でも、皆さんには良くして貰っているので、邪魔でなければ出来るだけ手伝えたらとは思っています」


「な、なんと……はあああぁ…」

「えっと…どうかしましたか?」


 女王はここで自分達のとりこし苦労に漸く気付き盛大な溜息を吐いた。

 そしてレビンは『俺、なんかやっちゃいました?』系主人公への道を歩んでいた。

 無論すぐにミルキィの手によって調教(きょういく)されるのだが……

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