村人と吸血姫と魔族⑤
「凄いな。明らかに見た事がない造りだ」
レビン達は階段を降り、長い廊下に出ていた。
廊下はここが船の中だとは思えないほどに立派な造りをしており、魔導具なのか電灯なのか、それは窓が無くとも煌々と廊下を照らしていた。
「そうね。私達が訪れたことのある大きな街の宿よりも洗練された造りね」
「別大陸から攻めてきたっ聞いていたけど、この海を渡れるくらい敵の文明度が高いのは間違いなさそうだな」
「どれだけ賢くても何もしていない他国を攻めるような戦争を起こしている時点で、コイツらは馬鹿よ」
「そうだな…」
ミルキィは戦争の被害者である。
実際にはその被害を認識すらしていないが、家族を引き離したのは間違いなく戦争だった。
「魔物という脅威がありながらこんなくだらない事をしているんだよな。人同士で争わなくても魔物と争えばいいのにな」
「馬鹿の考える事はわからないわ。さあ。時間がないしゴミ掃除しましょう?」
(…ゴミは言い過ぎじゃないか?)
レビンはミルキィの言葉にしっかりと頷いて応えた。
ゴミ掃除を始めた二人は、廊下の右側をレビンが、左側をミルキィが担当して、素早く進んでいた。
凡そ10m置きに扉があり、全ての扉を蹴り飛ばして中に人が居れば壁を破壊して海に放り投げた。
そんな二人は最奥にある一際豪華な部屋へと辿り着いていた。
「あれ?ここが最後だよな?」
「そうね。ここより下は貨物室だと、さっき海に放り投げたゴミが言っていたわ」
「……。つまりこの船の指揮官は…」
段々と過激な発言が増えてきた最愛の人を怒らせない為に、レビンはスルーを覚えた。
「海に捨てたか、レビンが倒したのなら甲板にいるのじゃないかしら?」
「まぁ仕方ないか…それよりもこれってなんだと思う?」
レビンもレビンだった。
「さあ?魔力は感じないわね」
レビンが疑問に思った物は黒い長方形の物体だ。短辺一メートル、長辺二メートルくらいのモノ。それが大きな部屋に鎮座していたのだ。
「なんだろう?なんか色々ついてるな。あっ。これ動くぞ」
カチャカチャ
ブッ、ブーーザザァーー
レビンがダイヤルらしき物を弄るとその物体から音が漏れ出した。
「ちょっと!何やったのよ!?」
「えっ?いや…これを触って『ど、どう…し…た?』えっ?喋った?!」
その黒い物体から人の声が聞こえ、レビンの好奇心をさらにくすぐった。
『応答せよ』
「応答?なんだろう?おーい。聞こえますかー?」
「ちょっと!やめなさいよ!」
「いや、気になるだろ?もしこの箱の中に人が閉じ込められていたら可哀想だし」
態々そんな所に閉じ込めたりはしないだろうが、無線機を知らないレビン達がそう思っても仕方ないことだ。
『どうした?何があったんだ?応答しろ!』
「おーーい。聞こえないのかぁ!……ダメだ。聞こえないみたいだな」
「放っておきましょう?そろそろアース王国の船が着くわ」
「…気になるけど、閉じ込められている感じじゃないし、仕方ないな…」
身体は成長しても、レビンの好奇心は幼い頃から変わっていない。
しかし、立場は変わっている。
仕方ないと後ろ髪を引かれる思いを感じながらもその部屋を後にした。
「良くやったのである!」
甲板に立ち、王国の船を迎え入れたレビン達にゲボルグが感謝と賛辞を贈った。
「海に落ちていた敵軍も粗方回収したのである。レビン達は…」
「走って帰ります」
「そうしてもらえると助かるのだ」
王国の船は外洋に出られる様な大きさではない。その為、この船に乗っていた者達を乗せるとかなり手狭になる。
レビンはすぐにゲボルグの意図に気付き、海上を走って帰る事を提案した。
ぐらっ
そんなやりとりをしていると船が大きく揺れた。
「な、なんだ!?波はないのであるぞ!?」
「………沈没します」
「えっ…?」
「ですからっ!この船は沈没します!」
ゲボルグの驚きにレビンは明後日の方を向いて答え、尚も理解出来なかったゲボルグに対して声を荒げて伝えた。
「ど、どうしてであるか!?」
「…そのぅ…敵を無力化するのに、船体に穴を開けまくったからです……はぃ」
「………。総員!撤退っ!!」
敵を殆ど回収したアース王国軍は、例の武器などを押収する為に船内に入っていたが、直ちに撤退するように指示を飛ばした。
「よし!ミルキィ、行こう!」
「…誤魔化したわね」
「…さあ。女王が待っている」
壁に穴を開けるのを同意したじゃないか!とは言えず、レビンは不可抗力として誤魔化す事にした。
海を駆けた二人は女王が待つ港へといち早く戻っていた。
「ほう。あの巨船が沈むか…いや。構わぬ。我が国には過ぎたモノよ」
「ありがとうございます。そう言ってもらえて、肩の荷が降りました」
「うむ。それよりも二人には感謝してもしきれん。この後も我が国に暫くはおってくれるのじゃろう?」
「はい。許されるのなら観光もしたいです」
怒られないのなら万事OK。レビンはどうせなら見聞を広めたいと逆に滞在の許可を願った。
「無論じゃとも!!其方達二人にこの国で立ち入ってはならない場所などないのじゃ!レビンに興味があれば余の寝室に入っても構わぬのじゃ!」
「レビン…?」
「メ、メサイア陛下!冗談が過ぎますよ!」
女王の言葉に反応したミルキィの魔力の奔流にレビンは包まれる。
「じょ、冗談なのじゃ!!」
女王もまた魔族。ミルキィの一国をも簡単に滅ぼしかねない魔力を感じ、すぐさま訂正した。
後の世に、本当に恐ろしいのは魔王の番の方だと記される事はまだ誰も知らない。
三人が国を滅ぼしかねない本末転倒なやり取りを行っていると、ゲボルグ率いる王国船が港へと帰港した。
何も知らされていないレビン達はそこで女王と歓談をしながら暫し待ち、漸く王都へと向けて進み出した。
「えっ…」
レビンがこの国を訪れてから、街の門は堅く閉ざされていた。その門が開いていたのだが、驚いたのはその事に対してではない。
英雄様ぁーー!!お姫様ぁーー!!
ありがとうぉおっ!!可愛いぃ!!
女王陛下万歳っ!!
水軍も良くやった!!
黒髪の英雄様ぁ!!
王都の入り口には人が列をなし、レビン達を出迎えてくれていたのだ。
「英雄達の凱旋じゃ!皆の者!確とその目に焼き付けるのじゃっ!!」
大腕を振って歓声に応える女王。その横でレビンは大きくなった身体を小さくしていた。
「ちょっと!こんな時くらい堂々としてなさいよ!」
「えっ!だって恥ずかしいだろ!?俺たちがしたのって有り余るレベルの力を奮って船に穴を開けただけだぞ!?」
「…そこは…ほら。よくいうじゃない?歴史は勝者が作るって。何かカッコいいホラ話でも考えなさいよ」
ミルキィはこの一年余りで悪い方に賢くなっていた。
歴史は勝者が作る事も王族としての身分で学んだ事だ。
「やだよ…俺は人々の英雄にはなりたかったけど、捏造された英雄は遠慮する」
レビンは未だに冒険録を引き摺っていた。
「其方達。何をしておる。主役の二人なのだから民達に応えてやってくれんかのぅ?」
「「は、はい」」
「?」
歯切れの悪い二人を疑問に思うも、二人の事は元々変わっていると認識している女王はすぐに民達に向けて笑顔を作った。
戦勝パレードを終えた一行は、白亜の城へと戻って報告会を開いていた。
「なに?それは真実かぇ?」
「はい。黒い大きな箱から人の声が聞こえました」
「ええ。ですが、どうもその中から話している訳ではなさそうでした。箱の中に魔力は感じられませんでしたので」
女王の疑問にレビンが応え、ミルキィが補足した。
あの箱は何だったのだろうか?
レビンの疑問や好奇心は尽きないが、答えは捕虜達に聞けばわかる。
謎は一旦置いておいて、事実だけを報告した。
報告会を終えた二人はまだ昼過ぎの為、女王からお小遣いを貰い早速王都に繰り出す事にした。
そこでとんでもない事態に巻き込まれるが……どうやら不幸なモノではなさそうだ。




