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村人と吸血姫と魔族④

 





「そ、そんな事が可能なのかえ?」


 レビンとミルキィの話を聞いていた女王が正気に戻り、話を深掘りしていた。


「うーーん。出来れば殺したくはないんですよねぇ」

「船に乗り込んで指揮官みたいな上の立場の人だけを拐う?」

「それも良いけど、もし攻撃をやめなかったら王都に…あっ!」


 先程の話が可能なのかと言われたら可能だ。レビンの性格上、大きな事は言わない。

 しかし、懸念は別のところにあった。レビンは人を殺したくないのだ。ただそれだけのこと。


「私達が乗り込んだら回収に来れますか?」

「それは当たり前だろう。勿論じゃ」

「いえ、私達ではなくて、敵をです」

「は?」


 レビンは基本的にミルキィと二人だけでの作戦ばかり考えていた。

 これは偏に魔族を死なせたくないから。エルフの時と同じ理由である。

 だが…争いが終わった後なら大丈夫なんじゃ?と気付いたのだ。


「私とミルキィとで船にいる敵を戦闘不能にしておきます。それの回収をお願いしたいのですが…出来ます?」

「……言いたい事はいくつかあるが……出来る」


 女王は漸く言っても無駄だと悟った。


「じゃあそれで決まりですね。今日はどこに泊まればいいですか?」


 レビン達は魔族の国の(この国の)貨幣を持っていない。その為、街の宿にも泊まる事は出来ない。


「城に部屋を用意させた。しっかりと休むのじゃぞ」

「「ありがとうございます」」


 翌日の強襲に向けて、レビンとミルキィはゆっくりと休んだ。











 翌朝、日の出までしっかりと休んだ二人の姿は港にあった。


「あの寝具暖かかったな」

「そうね。城の人に聞いたのだけど、鳥の羽が入っているみたいよ」

「凄いな。これも初代国王の知識なのかもしれないな」


 レビン達は知らないが、人の国でも羽毛布団は存在している。但し、王侯貴族や一部の資産家が持っているくらいで庶民には無縁の代物だ。


 このアース王国には初代国王である、異世界からの転生者が様々なモノを遺している。

 畳や漆喰、瓦、製鉄技術など地球産のモノと思われるものから、魔導具などのこの世界と地球の知識との混成のモノなど多岐に渡った。



「あれが標的ね」「そうだろうな」

「…よく見えるのぅ。余には全く見えぬわぇ」


 レビン達の足元数メートル下に波が打ち寄せられている。

 港には初代国王が遺した知識を活用してしっかりとした護岸工事がされているのだ。

 沖合には流氷や氷山がチラホラと散見される。そしてそのさらに先に目的の船が確認された。


「かなり大きいですけど、私達なら同時に出てもアース王国の船が辿り着くまでには制圧出来ると思います。なので、回収船をお願いしますね」

「わかったのだ。レビンのバケモノ具合は我がこの国で一番知っているのだ。

 すぐに向かうから頼んだぞ」


 レビンのその言葉にはゲボルグがすぐに応えた。


「この国を救ってたもれ。黒髪の英雄と赤髪の女神よ」


 アース王国に伝わる伝承の一部を女王が暗唱する。

 そんな事は知らないレビン達は気恥ずかしそうにその言葉を受け取った。






「では行きます」「行って参ります」


 アース王国の船が準備されるとその船首に二人は立って、陸にいる女王へと宣言した。


「うむ。『これより!我等の国を守る為の戦を開始する!皆の帰還を心より待っておる!行け!余の英雄達よ!』」


「「「「おおおおおっ!!」」」」


 女王の声に、船員達は勝鬨の声で応えた。

 自分達には祖王の生まれ変わりがついている。何も恐れるものはないと、盛大に声を上げた。


「盛り上がっている所悪いが、俺たちは先に行こうか」

「ええ。凍らせなくてもいいのよね?」

「ああ。ミルキィが魔法で海を凍らせて道を作ると船が進めなくなるからな」


 レビン達は空を飛べない。いや、飛べるかもしれないが知らない。

 そんなレビン達が敵船に辿り着く方法はいくつかある。その内の一つが、先程言っていた海を凍らせてそこを歩いて渡るというもの。


「よし。行こう。波には気をつけてな?」

「レビンじゃないんだから大丈夫よ」

「……お、おう」


 恐らく過去にレビンが何かしらの失敗をしていたのだろう。二人にしかわからない会話を紡ぎ、二人は船を飛び出した。










「報告します。アース王国で動きがありました」


 早朝、船の司令室に軍服を着た者が報告に入る。室内にいた上官と思わしき者が続きを促した。


「はっ。船の出航準備をしています。岸には女王の姿も確認できたと報せが入っています」

「…血迷ったか?まぁいい。こちらに向かってきたら主砲をお見舞いしてやれ」

「はっ!発射準備に取り掛かります」


 上官の指示を受け、報告に訪れた軍人が司令室を出る。


「あれだけ力の差を見せたのに、降伏しないか…王都は無傷で手に入れたかったが、致し方ないな」


 そう言うとその男も部屋を後にした。








 バッバッバッバッバッバッ


 そこには水の…海水の上を軽快に走る二人の姿があった。

 水面に急激に力を加えると硬くなる。二人はその硬さが無くなる前に脚を動かしているのだ。


「俺は右舷から入る。ミルキィは反対から頼む」

「ええ。殺さない様にするのが一番大変だけど、何とかするわ!」


 今の二人にとっては、人と蟻の力の差がわからない程度には力がある。制圧する事は容易く、生捕りする事が困難なのだ。


 視認出来ない程の速さで船に近づいた二人は、二手に分かれて船に飛び乗った。

 レビン達は兎に角近くにいる者達からその動きを止めるように行動した。


「えっ?誰だ?」

「旅の者だ」


 ドッ


 先ずは一番近くに居た者に近寄り、鳩尾に掌底をお見舞いした。


「て、て」ガッ

「……」


 それを目撃した者の背後に移動して、首を優しく締め上げる。


 ドサッ


「ふぅ。最初の人は生きてるよな…?次からは首を絞めて落とそう」


 レビンの視界の中に腹を押さえて痙攣している者と、安らかに寝ている者が映る。


「さっ。急ごうか」


 このペースだと日が暮れてしまうと思ったレビンは、さらに速度を上げた。



 数分後、船の反対側で二人は合流する。

 レビンの予想は外れ、先に待っていたのはミルキィの方だった。


「ミルキィ!早かったな!ちなみにどうやって無力化したんだ?」

「待ちくたびれたわ。簡単よ。全員海に放り投げたのよ」

「えっ…それって、もしかしなくとも死なないか?」

「この寒さだともって四半刻ってところじゃないかしら?そうなる前に王国の船が救助してくれるわよ。間に合わなければ運が悪かったって事よね」


 吸血鬼やエルフは種族的に人族よりも魔法が上手く、筋力が低い。

 そんな両親から産まれたミルキィも例に漏れず同レベル帯では、身体能力で負ける。しかしそこはミルキィもまた人外のレベルを持つ者、敵が気付いた時には空を舞っていた。


「…まぁ戦争をしているのなら死は覚悟の上だよな」

「そゆこと。さっ。そんな事よりも船内に行くわよ」

「お、おう」


 レビンもミルキィの為であれば殺人に躊躇はしないだろう。但しそれは殺さねばならない時のみ。こうして余裕があり、誰かの仇という訳でもないのであれば、なるべくなら殺したくはない。背は伸びても根は田舎の村人なのだ。


 二人は近くにある扉から船内へと足を踏み入れた。

 外から見ると小屋の様な建物の中には階段があるだけのようだ。


「下は明るいな。これも魔導具か?」

「さぁ?火ではない事は確かね。降りましょ?」

「じゃあミルキィは後ろを頼む」

「ええ」


 その部屋は薄暗いものの、階段の下を覗けば灯りが漏れていた。その光は炎の様な揺めきはない。

 二人は警戒もそこそこに階段を下っていった。

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