村人と吸血姫と魔族③
「ゲボルグよ。その二人がお主が言うておった者達であるな?」
紫の髪をしたアース王国国王は女王だった。30歳程で綺麗な見た目をしているが和装ではなく、この世界でよく見る装いだった。
「はっ。二人ともこの方こそ、アース王国国王であらせられる『メサイア女王陛下』である。自己紹介を」
「えっと…レビン・カーティスです。ゲボルグさんにはお世話になったので微力ながら手助けに来ました。一応魔王種らしいです」
「もうっ!もっと自信を持って言いなさいよ」
ゲボルグに促されたレビンは名乗りを告げたがすぐにミルキィにダメ出しされる。歳を重ねてもこういう所も変わっていなかった。
「アース王国、女王陛下に御目通り叶ったこと、望外の喜びです。私はエルフの国の王女ミルキィ・レーヴンと申します。以後お見知り置きを」
「なんと!其方はエルフの姫君であったか!通りでこの世のものとは思えぬ美しさをしておる。
余の血にもエルフの血が混ざっていると聞いている。こちらこそ宜しく頼むのじゃ。
……そして魔王種。その血ももちろん受け継いでおるが…強さは受け継げなんじゃ……
まぁ座ってくれ。ここには椅子がないでな。その座布団を下に敷くとよい」
女王はミルキィがエルフの姫と聞いて喜びを露わにし、レビンが魔王種だと聞いて遠い目をしていた。
やはりここも古来日本と同じく座布団に座るようだ。
畳は実現しなかったのかここにはなく、床は板張りだ。
「其方ら二人が建国王とその王妃と同じという事はこのゲボルグから聞いておる」
「あの。一ついいですか?」
「なんじゃ?」
物怖じしないレビンが気になる事を聞かないはずがない。
ゲボルグは首を振って諦め、ミルキィはこめかみをひくつかせた。
「ゲボルグさんって、ここではお偉いさんなんです?」
「ん?なんじゃ聞いておらんのか。ゲボルグはな、王家の血を分けた公爵家の血筋の者じゃ」
「えっ!?ゲボルグさんってお貴族様だったんですか!?」
「いや…今更貴族くらいで驚くな…レビンの周りは王族ばかりであろうが…」
(見た目ややっていた事は置いておいて、確かに言葉遣いが独特だったよな。あれは生まれのせいだったのか…)
とても失礼な驚きだった。
「ゲボルグのことはいいのじゃ。余は二人に頼みが『必ず守ります』……のう。ゲボルグ。此奴はずっとこの感じか?」
「はっ……これがレビンの通常運転です」
女王の言葉を遮って返事をしたレビン。
女王は必死の思いで伝えようとしていた。それを遮られたが、返事は最上のモノだった故に唖然としてしまったのだ。
「ま、まぁそれなら良いのじゃ…」
女王はゲボルグから聞いていた話を鵜呑みにはしなかった。魔王種とも呼ばれる人外の戦闘力を持っている者はどこかおかしいという言い伝えがある。それはある意味正常で、その言い伝えは知識人には常識として備わっているモノだった。
その一癖も二癖もある魔王種に、只人である自分の願いを聞いてもらえるかは、返事をもらえるまで安堵できない事柄であったのだ。
(余の緊張と覚悟は一体……)
静まり返る謁見の間。
女王は放心し
ゲボルグは首を振り
ミルキィはレビンの足をつねり
レビンは部屋の装飾を見回していた。
「うわっ…これも美味しい…」
レビンは夕食に舌鼓を打っていた。
ここは城の中にある食堂。普段は色々な人達が利用する場所のようだが、今はレビン達と女王、そして世話人しかいない。
レビン達が地べたに座って食事する事が難しいかもしれないと気を遣った女王の計らいで、ここでの夕食となっていたのだ。
「……話を続けてもいいかのう?いいよな?余は女王だし…」
女王はマイペースなレビンを見て、自身の身分に自信が持てなくなっていた。
「ごほんっ。奴らの使う武器は様々じゃ。まず、鉄の粒を飛ばす物。そして破裂する球じゃ。さらには、これは持って移動できないのか、あの大きな船から一抱え以上の大きさの鉄の塊が轟音と共に信じられない速さで射出される物があるのじゃ」
「もぐもぐ」
「…魔法で迎撃しようにも速すぎて間に合わん。船からの武器は連射出来ないのかしないのか、今のところ単発での攻撃のみである。それ自体は飛んでこない事を祈るしか無いのであるが、脅威は接近戦にある」
「もきゅもきゅ」
「……せ、接近戦では向こうの兵士全てが先の武器を装備して連射してくるのじゃ。壁や大楯は突破できんのじゃが、その際は破裂する球を投げてきよる」
「お寿司っていったっけ?これ美味しいな!」
「レビン。確かに美味しいけど、今は女王の話を聞きましょう?」
「は、はぃ…」
女王の懸命な説明よりも初めて食べる食事に夢中なレビンを、二人にしか判らない威嚇によりミルキィが諌める。
気を取り直したレビンは、姿勢を正して漸く話を聞く姿勢になった。
「う、うむ。それで?どう対応するつもりであるか?」
「うーーん。一度も見ていないのでなんとも…」
「そ、そうか…」
レビンの言葉を聞いて女王は肩を落とした。
「ですが、聞く限りでは問題ないかと」
「なにっ!?本当か!?」
「え、ええ。恐らくは」
多分大丈夫じゃね?と気安くは答えられないが気軽に答えたレビンに、女王はテーブル越しに詰め寄った。
「速さには自信がありますし、武器に頼っているということは、敵の素の戦闘力はそれほど高くないと思います。
それなら私とミルキィとで当たれば、どうとでもなるかと」
「女王様。私もそう思います。仮にその武器がレビンや私でもどうしようもないものであれば、海の上の敵はすでに攻め込んできているはず。
魔族の魔法は効かなかったのですか?」
レビンの言葉にミルキィも賛成の意を示し、次いで疑問の言葉を残した。
「なるほど…な。魔法は効いたようである。但し手数の違いと発動の速さで負ける魔法は、撃つ前に殆ど敵の攻撃にあってしまって撃てなかったようじゃがのう…」
「であれば問題ありません」
「…なぜじゃ?」
問題がない。その強い言葉に縋りたい女王は答えを急ぎたくなるが、一呼吸置いて質問をした。
「私達であれば、魔族の魔法を受けても無傷でいられます。そもそも避けれるので。魔法に当たることもないです。その魔法で倒せるのであれば私たちの敵ではないと思います」
「……伝承の通りじゃ」
「「えっ?」」
次に疑問の声が出たのは、女王を驚かせてばかりいた二人の方だった。
「王家に纏わる伝承でのぅ。『建国王とその妃は、皆が不可能と思う事を、まるで呼吸するかのように簡単に行った』とある。
其方らはまさに伝承の二人そのもの。見た目は残念な事にわからぬが、髪の色は全くもって同じじゃ。
ありがとう。余に…いや、アース王国に再び希望を持たせてくれて」
そういうと女王とゲボルグは立ち上がり、二人に深々と頭を下げた。
「えっ!?」「ま、待ってください!私達はまだ何もしていません」
その行動を見て焦った二人はあたふたした。
「わかっておる。じゃが、余りにも伝承の通りでのぅ。余はすでに安心しておるのじゃ。
建国時の魔族の気持ちと同じ気持ちなのだろうのぅ…」
伝承の一節に『王と妃の会話を聞いていると、不安に思うのが馬鹿らしくなる』とある。
どんな窮地であれ、この二人がいればどうにでも出来るという安心感を表した一節である。
女王はレビンとミルキィの二人を見て、久しぶりの安心感に浸れていた。
顔を上げて着席した二人を見て、安堵の溜息をレビン達は溢した。
続けて
「敵が言っていた期日はまだ先でしたよね?」
「そうじゃ。まだ数日の猶予はある。よって作戦を練る時間はあるのじゃ」
女王はその言葉に真剣な顔で答えた。が…
「じゃあ、明日倒してきます」
「…はぁ?」
女王はレビンの言葉に間の抜けた声が出る。
「あっ!でも、全員捕まえるのは難しいよな?」
「そうね。私の魔法一撃であの船は沈める事が出来るけど…間違いなくみんな死ぬわね」
「は?」
「じゃあ、やっぱり海を走って船に乗り込んで倒そうか」
「ええ。それなら二、三人なら捕虜に出来るわね」
「は…?」
二人に掛かれば一国の王もただの人となる。
そして女王は気付く。
あの一節は安心の意味ではなく、建国王と妃に振り回されてきた者達の嘆きの声だったのではないのか?と。
ここから不定期更新になりますが、魔族編は必ず完結させます。
少々お待ちください_:(´ཀ`」 ∠):




