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      第四章 眠り姫。      魔の森の入り口。






デザート王領を旅立ったレビンは目的地である魔の森を目指していた。


「サリーさん情報だと…スペランサー伯爵領を通れば良かったはず。

もちろん街には入れないから素通りだけど」


現在もミルキィは眠り姫のままである。

誰もが羨む美貌を有した少女は意識がないのだ。

サリー達から口を酸っぱく言われたのはなるべく人を避ける事であった。


「僕じゃ想像もできないトラブルが起こるって、大分脅されたもんね…」


スペランサー伯爵領はデザート王領からみて北に存在する。

レビン達の故郷のナキ村と同じ北に位置しているがスペランサー伯爵領はやや東に位置しており、ガウェインとの間には険しい山がある為、交流は少ない。


「とりあえずこの道を真っ直ぐだよね。ミルキィ。なるべく揺れないように気をつけるけど、揺れたらごめんね?」


荷車に寝かせたミルキィに語りかけた後、北東に伸びる道をレビンは行く。

眠り姫は未だ反応を示さない。





「お、おい。死体じゃないよな…?」


関所という名の検問に来ていたレビンは荷台を確認して驚いている兵士に伝える。


「死んでませんよっ!冗談でもやめてください。怪我が原因で目覚めないんです。ほら。同じパーティですよね?」


怪我が原因ではないのだが、もし病いだと思われたら入領を拒否されるかもしれない。

その為、頭を打って昏睡状態にあると説明する事に決めていた。


(サリーさんありがとう。この言い訳なら上手くやれそうです)


サリー提案の嘘を使い、無事にスペランサー伯爵領へと足を踏み入れた。


「う、うむ。確認した。良くなるといいな」


「ありがとうございます。きっと目覚めさせます」


銀ランク冒険者であるレビンの言葉に嘘はないと判断した兵士は一人と荷車を通した。

レビンも怒り口調で言えば大抵上手く行くとアランにアドバイスされていた為、過剰に反応したが、普通に心配してくれた兵士に少し罪悪感を感じるのであった。


これだけの美少女である。兵士も誘拐などを疑ったが、タグを見ればレビンの説明に嘘は見つからなかった。

常識人であるサリーや数々の修羅場(衛兵に捕縛されかける)を経験してきたアランのアドバイスにより、トラブルを回避できたレビンの旅路は順調であった。




「そろそろ街が近づいて来たから人が増えてきたね。今日はこの辺りかな」


夕方前。後一時間も歩かない距離に街があるというのに、レビンは歩みを止めて荷車ごと街道を外れる。


「ホントはミルキィだけでもベッドで休ませてあげたいけど、ごめんね」


そう言いながら街道から少し離れた所にある森に荷車を隠した。


関所のように説明すれば入る事は出来るだろう。

しかし、街の中の人たちがどんな行動をとるかは不明だ。

奴隷制度があるこの国では起きない少女の使い道など五万とある。


もちろん意識のないモノを勝手に奴隷にする事は犯罪であるが、意識がない為犯罪が露呈する危険は少ない。

ローリスクハイリターンなわけだ。


それ以外にも絶世の美少女という事で人目が集まり、噂が噂を呼び、良くないモノを誘き寄せる事は想像に難くない。


街へは必要最低限寄ることにして、出来るだけ人目につかないように旅路の予定を立てた。




荷車に雨つゆや風よけとして幌を貼った。

簡単な食事を摂った後、短時間睡眠を繰り返し朝を迎える。


見張りが自身しかいない為、15分程の睡眠を何度もとるのだ。

気持ちはそれ程休めないが、日が沈む頃からの睡眠の為、十分に身体を休める事が出来た。




「うーん。良く寝た?」


疑問系なのはわからなくもない。

短時間睡眠で得られる満足感は育ち盛りのレビンには物足りないものだっただろう。


しかし、ここまでの道中でも何度となく繰り返して来た為、慣れてはいた。


夜明け前の薄暗い空を眺めた後、顔を洗い、簡単な食事を摘んだ後、荷車を曳き街道をゆく。



街を遠目に通り過ぎると、辺りに人気は無くなった。

スペランサー伯爵領はここブルナイット王国の端の領地である。

この先に大きな街はない。

街道と言える道は無くなり幾つかの村人が使う獣道に毛が生えた程度の道があるのみ。


「荷車の振動が多くなって来たな……ごめんね」


街へ行く人影はない。

収穫期や材木の運搬でもない限り人が通らないようだ。



スペランサーの街を通り過ぎて二時間余り、ついに山道へと差し掛かった。

前方は右も左も山に囲まれている。


「ここを越えないといけないのかぁ…」


レビンは後ろを振り返り荷車に視線を落とす。


「流石にもっていけないな……残念だけどここでお別れだね」


ここまで自分の命より大切なモノを運んでくれた荷車にお別れを告げた。




もしかしたら取りに戻れるかもと少ない可能性に賭けて、荷車を雨風が凌げるところへ隠し、持てるだけの荷物を持ち、一番大切なモノは自身の背中へと預けた。


荷物・レビン・ミルキィ・荷物の構図だ。


「よし。ミルキィごめんね。荷物が減らせないから窮屈だけど我慢してね」


実際の必要な荷物は一つで十分である。

ではなぜ無理な体勢でも荷物が減らせなかったのかというと…


(ミルキィの荷物を勝手に漁ったら起きた時が怖い……捨てるなんてもっての外だし……)


レビンは眠り続ける幼馴染に怯えていた。



ミルキィの中身は不明な荷物が邪魔ではあるが、前人未到のレベルを持つレビンにとってはそこまで苦ではなかった。


山へと足を踏み出したレビンだが、側からみれば平坦な道を何も持たずに歩いているかのような軽やかな足取りに見える事だろう。




「さすがに魔物が出るなぁ…面倒だけど仕方ない」


山へ入ってからというもの、30分に一度くらいの間隔で魔物と出くわしていた。


「よっと」


ビュンッ


『ピギィッ!?』


レビンがポケットから出した小石を親指で弾くと、茂みからレビンを伺っていた額に体長の半分はありそうな立派なツノが生えたウサギの魔物に命中した。


「ごめんね。急いでいるから……」


売れそうな毛皮に後ろ髪を惹かれながらも、荷物とミルキィを下ろして足を止める事を天秤にかけて欲望をその場に置いて先へと進んでいった。


「ここは生活圏じゃないからこのままでもいいよね?」


ここは人里離れた山奥である為、魔物の死体を放置する事をさらに後押しした。


レビンの言い訳(独り言)は深い山の中に消えていった。





「ふぅ。すごい眺めだなぁ……今日はここで…あれ?あそこ……煙?」


その日のうちに山を登り切っていたレビンは暗くなる為今日はここまでと、荷物とミルキィを下ろして登って来た方角とは反対の景色を眺めていた。


「うーん。遠すぎて確信が持てないなぁ。もう暗くなるし益々見間違いの可能性が……」


無限に広がって見える広大な森を見下ろしていたレビンだったが、地平線の辺りに煙のようなモノを視界に捉えたのだ。


しかし、すでに辺りは薄暗くなっていた為、これ以上は見ていても仕方ないと、方角だけ確認した後、就寝の準備に入った。





翌朝。見下ろした山の麓は霧に包まれていた。


「うーん。待ってても変わんないし行こっかな」


そう独り言ちると荷物とミルキィを背負い、眼下に向けて足を踏み出した。


「この下が魔の森。ミルキィ。君が寝てる間に僕だけで冒険してるけど許してね?」


レビンの問いかけに応える声は今はない。

代わりに朝の冷たい山風がレビンの頬を撫でた。


レベル

レビン:22(121)

ミルキィ:99

レベルについて:道中の魔物とは幾度も戦闘はありましたが、レベルが上がるほどの魔物とは戦闘しませんでした。


魔の森では……乞うご期待ください。


四章からは多分隔日投稿になります。


間話は連日投稿します。

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