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血の盟約無双。





「マジックボール」


ダンジョンの比較的浅いところで魔法の炸裂音が鳴り響いた。


「その掛け声って必要なの?」


「そんな事はないわ。あくまでも魔法使いが魔法をイメージしやすいようにということと、周りにこれから魔法を使うという事を知らせる為のものね」


特にワードに意味はないらしい。

ミルキィがあの病気の人でなかったのはありがたい…


「じゃあさ。何かカッコいい名前にしない?例えば『爆裂魔球』とかさ?」


「却下よ」


レビンは病気に罹っていた。


なぜミルキィが魔物を倒しているのかというと、この20日間でレビンのレベルがあがってしまった為、ゴブリンや大蛇の魔物程度の経験値では何の足しにもならないと判断して、ミルキィの戦闘訓練も兼ねて好きなようにやらせているのだ。


「でも誤魔化せるもんだね!」


「運が良いだけよ…」


二人が話ているのはレビンのレベルの事だ。


別々に行動していた時は街に帰る度にミルキィに血とレベルを与えていた。

他の人はレベルが上がる事はあっても下がる事はない。

その為、ダンジョンに潜る時のタグの提示でレビンはドキドキしていた。


もちろん赤い方のタグを見せるだけで良いのだが、レビンは銀のタグも同じ紐にぶら下げていた為、無駄に緊張していた。

外せよ…


「それに7より高ければ問題ないでしょ?」


「それもそうだね!今は11だからむしろレベル7でダンジョンに入るよりは怪しまれないよね!」


レビンは考察は大好きだが、危機管理能力はない。


(私がしっかりしなきゃね…)


ミルキィは自分の事に頓着のない幼馴染を守る決意を改めた。


人は不完全な生き物である。

決して一人では生きていけない。

幸運な事にこの二人は生まれた時から一人ではない。

二人はお互いの足りないところを補える存在へとなれるのだろうか。


今はまだ誰にもわからない。






「ここで魔石と資金稼ぎをしてたんだよ」


二人がたどり着いたのは……


「山ね」


「うん。懐かしい?」


森とは違い殆どの場所に傾斜があるところだった。

傾斜がなければ足元がかなり悪い森なのだが、山育ちの二人には何の弊害もない。


「全然違うわよ!もっと景色が綺麗だったわ」


流石に故郷を思い出す事はなかった。

レビン達が住んでいた山は人の手が入っていた。


木は一定間隔で間引かれていたし、猟師も枝引きをしていた為、見晴らしも見通しも良かった。


しかしここは薄暗く空気もどこか湿気を帯びていてジメッとしていた。


「森、遺跡、草原で山ね。次は街だといいわね」


「ははっ。それなら寝る時に楽だね」


二人は冗談を言いながらも魔物を狩っていく。

この場所では熊や猪の魔物とオークが出現する。

熊や猪の魔物は殆ど単体で現れるが少し知能の高いオーク(豚頭で人型180cm)は3体程の集団で現れる事が多い。


「次の魔物は当分先ね」


「りょーかい」


ミルキィの索敵により奇襲もない。遭遇してもこの辺りの魔物は二人の敵ではない。特にレビンの。


レビンの現在のレベルは表記11であるが中身は75である。

レビンの考察は当たっている部分と間違っている部分はもちろんあるのだがどちらにしてもすでに人の領域から足を踏み出している強さである。


「ミルキィの魔力はやっぱり種族的な事で多いのかな?」


「そうね。カレンさん曰く『多過ぎるし魔法の適性が高すぎる』そうよ。疑われないかと心配だったけどカレンさんは魔法に関する事に興味があっただけで他の事には頓着なかったわ」


吸血鬼(ヴァンパイア)森人(エルフ)のハーフだから多いのかとレビンが聞くとミルキィは明確な答えを持ち合わせていなかったが、間違いではないと答えた。


いいなぁ。と羨ましがるレビンに


「貴方は私より身体能力が伸びやすいのだからいいじゃない。私はレビンと同じが良かったわよ」


ヴァンパイアとして育てられたミルキィは、真実を打ち明けるまで母親しか心の内を明かせる相手がいなかった。

ずっと(レビン)と同じになる事を夢見ていたのだ。


しかし、魔法という特性が判明した今となってはレビンが届かない種類の強さに自分なら届くかもしれない。いつか支え続けてくれる幼馴染の役に立てる日が来るかもしれないと、この特殊な出生に今なら少し感謝出来るかもしれない。


ミルキィの未来は少しずつ明るく彩られていくのであった。


(これまでの生活である程度吸血衝動の間隔も掴めたし……ママ。私は人として…自由に生きていけるのかな?)


「あっ!どんぐり!ミルキィ見て!ダンジョンの中なのにどんぐりがあるよ!」


どこまでも自由なレビンであった。


きっとレビンと一緒にいると自由の意味を履き違える。私はそこそこ自由でいいわと、常識人である事を誓うのであった。





「ここが次の環境ね。…戻るのは無しなのよね?」


ミルキィは一縷の希望を託してレビンに問いかけた。


「?戻るわけないでしょ?さっ。行こうか」


「はぁ……」


二人が辿り着いた次のステージは湿原であった。

辺りは長めの芝生と表現するのが正しいのか…沼地とまではいかないが泥濘んだ足元に靴が3センチほど沈み込む。


所々に点在する水溜まりは黒く濁っていて深さはわからない。

その水溜まりより数は少ないが頼りない木も生えている。


そして。


「いるわ…20mほど先の水溜まりの…中?かしら」


「わかった。僕が先に進むからミルキィは3メートルくらい後から着いてきてね」


戦闘になった時に相手がどんな動きをするのか予想が出来ない。

その為、レビンの剣の間合いにミルキィが入らないように距離を取った。


「うーん。どうしたらいいんだろ?」


水溜まりの近くまで着いたレビンは姿を現さない敵にどうすればいいのか悩む。


「…諦めて帰るのはどうかしら?」


どう考えても汚い水溜まりの中にいる魔物との戦闘は避けたいミルキィだったが、思考中のレビンに華麗にスルーされた。


「近づくのは得策じゃないよね。とりあえず何か投げてみよう」


答えを出したレビンは足元に転がっていたテニスボールより一回り小さい石を拾い上げた。


「魔物はどの辺りにいるの?」


「…右側よ」


直径5メートルほどの楕円形の水溜まりのある箇所を指差しながらミルキィは応えた。


「えいっ!」


ビュンッ


人族の最高峰の身体能力に近づきつつあるレビンの渾身の一投は水に当たったとは思えない音を上げながら水溜まりの泥水と周りの泥を撒き散らしながら着弾した。


ビチャチャチャチャ…


二人とは反対方向に泥が地面に当たる音が静寂を呼び込む。


「……」


「……何も起こらないわね…」


そう。魔物は出てくる事はなかった。


「ミルキィ。もう一度確認してくれる?」


「わかったわ。……反応がなくなっているわね…」


「倒しちゃったかぁ…」


まさか相手を確認も出来ずに討伐するとはレビンも思っていなかった。

しかし、レビンには核心があったようだ。


「レベルが上がったからいいか」


「えっ?!あがったの?」


他の冒険者…いや、レベルの恩恵を受けている者達が聞いたら口を揃えていう事だろう。『ずるい』と。


「うん。でも魔物は確認出来なかったし、魔石も得られなかったし…次はどうしようかな…」


またも思考の海にダイブしたレビンに


「…これでいいじゃない」ボソッ


特に気持ち悪いものも見なくて済み、汚れる事も無かったミルキィはレビンが変な事を思い付かないように祈るしか出来なかった。


レベル

レビン:11→12(76)

ミルキィ:64

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