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    第一章 レベルドレイン     プロローグ 旅立ちの決意。

新しい小説の始まりです!






「ミルキィ?大丈夫?」


少年の目の前には呼吸の荒い赤毛の髪の長い少女が、大木に手をつき(うずくま)っていた。

少女の名前はミルキィ・レーヴン。


「レビン!来ないで!近寄らないで!」


「そ、そんな…僕はミルキィが心配で…」


黒髪の少年は物心がついた時から仲の良かった少女に初めて拒絶されて狼狽える。

少年の名前はレビン・カーティス


「うぅ…」


涼しい春も終わりに向かい季節は夏に向けて準備をしている陽気の中、少女の体調は依然改善されない。







時は遡り、少女が家を出る時。


「ミルキィ。貴女ももう15歳。そろそろヴァンパイアとしての本能が出て来るから体調には気を付けてね」


ツヤのある黒髪を頭の後ろで束ねた20代の美女が少女に伝えた。


「ママ。わかってるわ。もしおかしくなりそうになったらすぐに帰るから」


「ごめんね。貴女には辛い思いをさせて…」


「ママもパパも悪くないわ。レビンが待ってるから行くね」


そう母親に告げた少女は家を出て行った。


ヴァンパイアはこの世界で嫌われている。もちろん血を吸うからでもあるが、人間は長寿の生き物を嫌う傾向にある。自分達は老いるのに老いないからだ。

嫌われ者のヴァンパイアは肩身の狭い思いをしながら細々と生きながらえていた。差別のきつい所ではヴァンパイアというだけで処刑される場所もある。

噛んだ所で死にもしないし、眷属になるわけでもない、ただ血を少し吸われるだけなのに。


ミルキィ一家も例に漏れず、素性を隠してこの小さな村に来ていた。

吸血種であるヴァンパイアだが摂取する血は人の血ではなくても問題はない。必要なのは同族以外の新鮮な血液だ。

しかし問題もあり、吸血衝動に駆られると攻撃的になるだけではなく、血を摂取出来なければ一週間ほどで死んでしまう。


少女はその血を半分(・・)受け継いでいた。




同じ頃、少年の家では


「レビン。いくらレベルが上がったからって貴方はまだ成人したばかりなんだから気をつけなさいよ?」


明らかに人間種である30代中頃の女性が少年に告げた。


「わかってるよ。父さんの狩りについて行って魔物を運良く倒せたから、だよね?もう耳にタコが出来そうだよ」


「成人祝いの食事が終わったら、遅くならないうちに帰るのよ?」


「はーい。行ってきまーす」


少年は家を出た。

この国では満15歳で成人と認められる。レビンもミルキィも先日15歳を無事に迎えたばかりだ。

この世界はレベルという眉唾なモノが信じられている。

レベルはこの世界に蔓延る魔物を倒すと上がると言われていて、その恩恵を得られれば少し強くなれる。

最初の頃はレベルが上がるのを感じられるくらいの頻度でレベルが上がるものの、それを10回ほど繰り返せば中々上がらなくなる。

レベルの測定方法は冒険者という魔物専門のハンターのような職業があり、冒険者を管理している冒険者ギルドではレベルを測る事が出来る。しかしこの小さな村には冒険者ギルドの出張所すらなくレビンも自身のレベルがわからないままだ。


レビンとミルキィの家は隣同士であるが、田舎の村なので隣家まで徒歩2分程の距離が離れている。二人は村の中で落ち合うと仲良くパーティ会場となる村の外の小川へと向かった。村での新成人はこの二人きりのため、隣村との合同パーティになり中間地点のその小川が選ばれたわけである。


清流と言える山間の小川でのバーベキューパーティを終えた二人は小川で涼んでから帰る事にした。


「ミルキィはどうするの?」


「どうするって?もしかしてレビンは村を出るの!?」


少女は家族以外で唯一気を許せる相手である少年が目の前からいなくなると思い、焦る。


「う、うん。冒険者になりたいんだ」


少年は小さな勇気を振り絞り胸の内を打ち明けた。


「な、なんでよ!?おじさんの跡を継いで狩人になるって言ってたじゃない!」


少女は益々興奮していく。


「…この前、話したでしょ?レベルアップしたって。あの感覚が嬉しくて。狩人だと魔物を狩れる頻度が余りにも少ないから。

ごめんね。約束を破って」


約束とは狩人になる事。それも自身が望んでいた事ではない。あくまで少女とレビンの父が望んでいた事だ。


「嘘つき!もうレビンなんて知らないんだから!」


「ちょっ!?ミルキィ!?待って!」


少女は小川から山の中へと走って行った。





時は戻り、最初の場面へ。

そして漸く少年が追いついた頃には少女は吸血衝動に駆られていた。


「うぅ…」


「ミルキィ…どうしたの?」


拒絶された少年であったが余りにも様子のおかしい少女が気掛かりとなり肩に手を乗せた。すると


「いたっ!?ちょっとミルキィ!?痛いよ!」


少女は我慢できずに少年の腕に噛みついてしまった。


ごふぇん。(ごめん。)ごふぇんれ、ふぇびん(ごめんね、レビン)


泣きながら腕に犬歯で噛みついた少女を見て全てを悟った少年は少女の頭を撫でた。

ヴァンパイアは衝動に駆られると自然と犬歯が出てくる。そんな理由を少年は知らなかったが、少女の顔を見れば全てを汲み取れた。


「こっちこそごめんね。15年も気づいてあげられなくて。もう泣かなくて良いよ」


都市部ならこの思いは抱かなかったかもしれない。ヴァンパイアの事も話題に上がらないほどここは小さな村。その為、レビンに嫌悪感はなかった。

ただただ、幼馴染の苦悩に気付いてやれなかった自分の不甲斐なさを呪った。


暫く後、漸く(ようやく)少女が落ち着いて話しが出来るようになり、これまでの事を少年に伝えた。


「そうだったんだ。でも、良かったよ。これでこの村に留まる決心が出来たよ」


「な、何を言ってるのよ!?レビンは冒険者になるんでしょ?!」


「ミルキィを置いて行けないよ。僕達は生まれた日も同じなんだ。幼馴染が困ってるのに助けられないなら、魔物から人を守る冒険者なんてそもそもなれないよ」


少年はこの赤髪の少女を見捨てる事は出来なかった。


「じゃ、じゃあ私も冒険者になるわ!だからずっと一緒よっ!」


「えっ!?でも街に行くんだよ?おばさんが反対するんじゃない?」


街でヴァンパイアだとバレれば逃げられない。村であればバレる危険も少なく、もしバレても山に逃げ込む事が出来る。

その為、少女の親はこの地に移ってきていた。

幼い頃から少女を街に一度も連れて行かなかったのはその為である。


「説得するわ。ママは反対するだろうけど、私の人生だもん」


「…そうだね。ミルキィの未来はミルキィの為にあるもんね。それより体調はどう?」


「それが…悪いどころかすこぶる良いわ。何だか強くなった気さえするわね」


少年は少し考えたものの、一人の成人した人の意見を尊重した。体調に問題がない事もわかった為、二人は連れ立って夕暮れの山から村へと帰って行った。


この時は知る由もないが、ミルキィの父はエルフと言う幻の長寿の種族であり、母は純粋なヴァンパイアであった。

その為、ハーフのミルキィは普通のヴァンパイアとは違い、血と一緒にあるモノを同時に奪っていた。

それは『レベル』だ。

そしてレベルの恩恵を奪う事は無かった。





「ただいま。ママ、今いいかしら?」


家に着くと早々に母を説得に掛かる少女。



「ただいま。少し予定より早くなったけど、明日家を出るから」


家に着いて、両親を前にしてこれからの事を伝える少年。




翌朝、村人達はいつもの仲の良い二人の後ろ姿を総出で見送った。漸く体格とのバランスが取れてきた大きな背嚢(はいのう)を背負う二人の姿を、見えなくなるまで見送るのであった。

後の世、この二人が世界に名を(とどろ)かせる冒険者になるとは、村人達は夢にも思わなかったことだろう。


レベル

レビン:1→0

ミルキィ:0→1

『月の神様に〜』から来られた方、ありがとうございます!


いいね。ブックマーク。高評価ありがとうございます!


長く続けられる様に応援して頂けたら幸いです。

小説自体は長くならない予定です!

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