第七話 最愛なる悪魔②
「ただいまぁ!」
自宅に着くやいなやカッシーロが玄関で叫ぶ。するとリビングから1人の女性がやって来る。
「おかえりなさい貴方、あら? お客様?」
「そうなんだ! きっと正体を聞いたらびっくりするよお?」
「まぁ! それは楽しみね! 立ち話もなんだから2人とも入って?」
女性はそう言ってカナデとルイに笑いかける。その美貌は胡散臭さえ感じるほどに美しく、2人は思わず見惚れながらも案内されるがままリビングのソファーに腰掛けた。
「あれが私の妻のエリナです! どうです? 美人でしょ? 去年この町に越してきてねぇ、向こうから声をかけて来たんだよ! あの時は緊張して何にも喋れなかったなぁ」
「もう..カッシーロさんったら..またその話?」
仲睦まじく惚気話をする2人に、ルイは呆れた様子で。
「なぁ..こんなの見せられる為に来たわけじゃねえよな?」
「まあいいじゃん? 新婚って感じでさ」
カナデは少しの間2人の惚気話に付き合うと、今回の話を切り出した。
「それで本題に入るんだけど、殺された男はみんな22歳を迎えた誕生日当日なんだよね? この町の人で近々22歳の誕生日を迎える人は居ないの?」
「んー..多分居ないと思う。この町は20代の若者が少ないからね..」
「そっか..そうなると探すのは難しそうだな..」
「そうだね..今日だったら僕の誕生日なんだけどね..今はフラワーボムの準備で忙しいから少し前にエリナと誕生日をお祝いしたよ、楽しかったなぁ..」
「....え?」
カナデは突然のビックニュースに驚きながらも話を続ける。
「マジかよ!! もしかして22歳..?!」
「いえ! 33歳になります!」
「33歳..ゾロ目だ..てか何でそれを先に言わねえんだよ!」
「いやぁ..22歳の若者が対象だと思ったからてっきり..」
頭を掻きながらそう誤魔化すカッシーロを見てルイが言う。
「22歳の若者が居ないとなると..次の犠牲者はこの人って事か?」
「ああ..おそらくな、そうとなれば方法は一つしかない」
「方法?」
ルイが聞くと、カナデはカッシーロを見つめて言う。
「カッシーロさん、危ない賭けになるけど、方法はこれ以外に見つからない..乗る?」
「もちろんだよ! カーニバルを開催する為なら..どんなに危ない橋だって渡ってみせるさ!」
カッシーロがカナデを見つめて言うと、カナデは小さく笑う。すると、突然エリナが焦りながら言う。
「まあ..茶菓子が無いわ..買ってこないと..」
焦るエリナに、カッシーロが立ち上がって。
「ああ! それなら僕が行くよ!」
「カッシーロさん..ごめんなさいね..」
「気にしなくて良いんだよ!」
2人の会話に疑問を抱いたカナデが聞く。
「奥さんは外に出られないの?」
「そうなの..私は昔から皮膚が弱くて..日光を浴びると皮膚が爛れてしまうの..」
「そっか..それは気の毒だね..じゃあ俺たちもこの辺でお暇するよ!じゃあカッシーロさん! 日が暮れる前にさっき会った酒場の前に来てね!」
「分かりました! 本当にありがとうございます!」
カッシーロ夫妻と別れた2人は、時間潰しの為、酒場で食事をしていた。
「カッシーロさんの奥さんすげえ美人だったな」
「ほんとびっくりだよ..あんなおっさんでもアプローチされる事あるんだな」
「お前しれっと失礼な事言うな..」
「ていうか..どうも気になる事があんだよなぁ..」
カッシーロの自宅を出てから、ルイにはずっと引っかかる事があった。カナデが首を傾げると、ルイは答える。
「いやさ、あの人の家入って気づいたんだけど、玄関に鏡が置いてなかったんだ」
「それが何か問題なのか?」
「え? まじで? 鏡は聖を映し出す物として、昔から魔除け用に入り口に置くのが一般的じゃねえか」
「あ..ああ! そうだったわ忘れてたぁ! あは!」
カナデは初耳の情報に困惑しながらも誤魔化すように言う。
「鏡を置かねえから悪いもんを引き寄せちまったんじゃねぇの?」
「そんなのただの言い伝えだろ? 鏡と悪魔に何の関係..が..」
その時、カナデが突然何かを思い出したようにハッと目を見開く。
「おい..どうかしたのか?」
「待てよ..確か犠牲になった人達はみんな全身の血を抜かれ真っ青になってたって言ってたよな?」
「お..おう..何か分かったのか?」
「そう言う事か! 先生が持ってた悪魔の生態図鑑を読んでおいて良かったぜ! 分かったぞ、悪魔の正体!」
「マジ?!」
ルイが問いかけると、カナデはゆっくりとルイを見つめて少し悲しげに。
「でも..俺の予想が正しかった場合..深い傷を負う人が出てきてしまう..カッシーロさんと合流したら、俺から全てを話すよ」
「どういう意味だ..?」
そして日も暮れ始めた黄昏時、カッシーロと合流した2人は今回の作戦と悪魔の正体について話した。話し合いが終わった後のカッシーロはいつもより少し活気が無くなっていた。
それから小1時間程した所で、空は暗くなり、辺りは夜に移り変わる。カナデとルイは悪魔の出現を待つ為、カッシーロと共に夜の街を徘徊していた。
「あ..あの..やっぱり悪魔はハッタリなんじゃないんですか? 割と歩いているけど悪魔が出る様子は無いし..」
「そう信じたいね..でもとりあえず朝までは俺たちと一緒に居てもらうよ」
「そ..そうですか..分かりました..」
下を俯きながら再び歩き始めるカッシーロを見て、ルイがカナデの耳元で。
「あの話..本当なのか? いくら何でもあのおっさんにとっては..」
「気持ちは分かるけど..今考え有る可能性があるのはこれしか無いんだよ。このまま悪魔が出ない事を祈ろう..」
それからというもの街中を歩き続けたが、結局悪魔は姿を現さないまま日が昇り始めていた。カナデとルイは眠い目を擦りながらカッシーロを自宅に送る。
「結局悪魔は出ませんでしたね..やっぱりカナデ君の言った事は嘘なんじゃないかな..今日はありがとうございました..」
そう言ってカッシーロは自宅に入っていく。カナデは曇った表情でカッシーロの後ろを姿を見つめる。
「ただいまぁ!」
「おかえりなさい! 良かった無事で..お腹すいたでしょう? ご飯にしましょう」
「そ..そうだね..!」
エリナの清々しいまでに爽やかな笑顔に、カッシーロは思わず笑みをこぼす。
「エリナ..」
「ん? どうしたの?」
「どうして..僕に声をかけたの?」
突然、カッシーロがエリナに問いかける。するとエリナは一瞬黙り込むと、ゆっくり口を開いた。
「素敵だったからに決まってるでしょ? 貴方には..他の人には無い魅力を感じたのよ」
「そ..そっか! それは何だか照れるなぁ!」
「どうして突然そんな事を聞くの?」
「いや..! ふと気になっただけだよ! そ..そいえばもうすぐカーニバルだね..! 元気も蓄えとかないといけないし..食事が終わったら少し寝ないとね!」
エリナの質問に、カッシーロは話を逸らして誤魔化した。
一方その頃、カナデとルイは夜の決戦に向け町の宿場で仮眠を取っていた。ルイとカナデはベッドに横たわると、天井を見つめながらルイが言う。
「おっさん..上手くやってくれるかな..」
「どうだかな..今は信じるしかねぇよ..」
「つーか..どうして手を貸そうと思ったんだ? 言ったら赤の他人な訳だろ? 自分が死ぬ可能性だってあんのに..」
ルイが聞くと、カナデは笑いながら答える。
「じゃあ何でお前はついてきた? 命令無視して隊長ぶん殴れるなら俺みたいな奴にのこのこついて来るとは思えないけどな」
「そ..それはあれだ..気を改めたっつーか..」
「はいはいそうですか..俺はただ自分の届く所にあるなら、なるべく手を差し伸べてあげたいだけだ。何の見返りも無く俺を拾ってくれたあの人みたいに..」
「あの人..? 前言ってた先生の事か?」
それからカナデの返事が返って来ないルイはカナダの寝ているベッドの方を見る。
「って..いつの間に寝た?! ほんと変わった奴だな..俺も寝るかな」
カーニバル開催までの時間は残りわずか、果たしてカナデとルイは、この町に潜む悪魔を退治する事は出来るのだろうか。
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