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異世界の聖魔術師  作者: 凛。
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第六話 最愛なる悪魔①

「神を生み出す力....もし仮にそれが召喚術だとしたら、どこからかその神とやらをこの世界に召喚できるって事だよな? それがもし神じゃない別の何かだとしたら..俺やひなのが召喚された術の事が分かるかもしれない..でももしそれが本当に神だったらぁ..あー分かんねえ!」

「おい、さっきから何をブツブツ呟いてんだ?」

「あー..いや何でもない! そんな事よりアトランティスに行く為にはまずカルデラに行かなきゃだから適当に馬車捕まえて乗せてもらおう」


 王都を出た2人は、急行アトランティスの列車に乗る為、カルデラという町に向かっていた。カナデは馬車乗り場の男に声をかける。


「ロブさんこんちわ! 今日も儲かってる?」

「おぉ! 聖魔術師さんじゃねえか! いやあそれがさあ..いつもこの時期になるとカルデラのカーニバルを見に行く客でがっぽりのはずなんだけどよぉ..どうも悪い噂のせいで今年は商売になんねえのよ」

「悪い噂?」


 カナデが聞くと、ロブは表情を曇らせながら答える。


「悪魔が出るんだとよ..若い男が何人も行方不明になってるらしい..物騒だよなぁ」

「それは気の毒だな..まあ今から俺たちもカルデラに行くとこなんだけどさ」

「聖魔術師さんの事だから心配なんて余計なお世話だろうけど、長居しない方がいいぜ」


 そして、カナデが馬車に乗り込もうとした時、ルイがカナダの袖を掴んで。


「おい..他に行く方法は無いのか..?」


 冷や汗を掻きながらそう言うルイを見て、カナデは一瞬戸惑いながらもニヤリと笑みをこぼす。


「もしかしてお前、ビビってんのぉ?」


 言うと、ルイは顔を真っ赤にして。


「そ..そんなんじゃねえよ! 出くわしたら面倒なだけだ..! 誰が悪魔なんかにビビるかよ..」

「ふーん?」

「だ..大体..! そういうのはエクソシストが対処するもんだろ? わざわざ悪魔がいる場所通らなくてもいいだろ..」


 ルイがタジタジになりながら言うと、カナデは目を細めてじっとルイを見つめ。


「まあそっかぁ、まだ兵騎(ひょうき)のぺーぺーだもんなぁ..そりゃ対処できないよなぁ..」


 カナデの煽りに、ルイの額から太い血管が浮かび上がる。意固地になったルイはカナデに。


「だぁくそっ! 行ってやろうじゃねえか!」

「ルイって扱い易いんだな..」


 こうしてカルデラへと向かう事になったカナデとルイは馬車に揺られながら進んで行く。ルイが憂鬱そうにため息をつく中、カナデは大草原の合間に建ち並ぶ煉瓦造りの家々を眺めながら呟く。


「こっちの世界にも慣れてきたなぁ..今となっちゃ目の前の大草原を見て心落ち着かせてる自分がいる..友達とか家族とか元気してんのかなぁ..」

「なぁ、魔法なら悪魔倒せんのか?」

「さあな、対峙した事無いし..てかまだ気にしてんのか?」


 カナデが言うと、ルイはムキになって答える。


「な訳ねえだろ! 俺は魔法が使えないからよく知らねえけど、大抵の事はどうにか出来るんじゃねえのか?」

「案外そうでもないぜ? 実際、魔法なんて使わなくても人は生きていけっから」

「万能なんじゃねぇのかよ」


 それから2人が他愛もない会話をしていると、ロブが言う。


「お二人さん、もうすぐ着くぞ。忘れもんねえようにな」


 そしてカルデラに着いた2人は、ロブに別れを告げ馬車を降りた。

 着いてすぐ、カナデは酒場の前で2人の男が言い争いをしている事に気づく。


「悪魔なんてただのハッタリだ! カーニバルは予定通り開催する!」

「だめだ! 死人が出てるんだぞ?! お前1人の感情で周りの人間を巻き込むな!」

「悪魔の仕業かなんて分かんないだろ! 野獣にやられただけかもしれないじゃないか!」

「だったらお前が悪魔倒してみろよ! そしたら俺も文句言わねえさ!」

「分かったよ..やってやるよ! 僕が悪魔取っ払って..カーニバルを開催してやる!」


 すると、傍の男がため息をついてその場を後にする。様子を見ていたルイが呟く。


「おいおい..街中で喧嘩かよ..」

「ちょっと行ってみようぜ」

「はぁ?! ちょっ..! 待てよ..!」


 カナデは残っていたもう1人の男に近寄って声をかけた。


「ほんとに悪魔倒すつもりな訳?」

「聞いてたのか..もちろんだとも、このカーニバルは町の平和を願う10年に一度の宴だ。父の意志を継ぐ為にも必ず成功させたいんだ」

「街の平和ねぇ..それを願うなら大人しく家にいた方が良いんじゃないの?」


 カナデが言うと、男は剣幕な顔つきでカナデを睨み。


「なんだと! 大体君たち町の人間じゃないだろ! よそ者は首を突っ込まないでくれるか....って..君はまさか!!」


 さっきまでの険しい顔つきとは打って変わり、男は動揺を隠せない表情で言う。


「せ! 聖魔術師さま?! どどどうしてこんな所に!?」

「アトランティスを目指しててね。急行に乗るつもりなんだよ」


 すると、男は少し残念そうに。


「やっぱりそうですよね..町一つの為にはさすがに来ないですよね..」

「王都も色々とバタバタしててさ」


 申し訳なさそうに言うカナデを見たルイは心の中で呟く。


(やっぱりこいつもあいつらと変わらねえな..)


 男は小さくため息をつくと、一度大きく深呼吸して。


「よし! 俺が何とかしてみせる! カーニバルは絶対に成功させるんだ!」

「カーニバルって何すんの?」


 カナデが聞くと、決意を固めた男は答える。


「フラワーボムを打ち上げるんですよ! 」

「フラワーボム..?」


 カナデの頭上にハテナが浮かぶと、気づいたルイが言う。


「知らねえのか? でかい玉の中に火薬とオモイソウを入れて火をつけると上空に舞い上がって爆発するんだ」

「そう! そして爆発した玉の中からオモイソウが一気に飛び出すんですよ! 光り輝く無数のオモイソウは夜なのにまるで昼間みたいに明るくてとても綺麗なんだ!」

「ああ!! 花火か!」


 理解したカナデはそう言って大きく頷く。ルイは不思議そうにカナデを見つめる。


「あ? 花火?」

「あーいや! こっちの話! 俺のいたとこでも似たようなものがあったんだ」

「たまに意味分からん事言うよなお前..」


 男は笑みを浮かべながら呟く。


「オモイソウは人の想いで育つ特殊な花..つまりフラワーボムはこの町のみんなの想いが詰まってるんです..10年前に僕の父がフラワーボムを打ち上げた時は感動で言葉が出てこなかった..それに今年は嫁だって出来たし、僕にとっては大事な年なんです..」

「なるほどね..」


 カナデは男を見つめ小さく呟くと、ルイを見て言う。


「ルイ、少し寄り道していかないか?」

「おま..! まさか悪魔退治しようなんて考えてねえだろうな!」


 ルイが言うと、カナデは小さく笑いかける。ルイは小さくため息をついて。


「ったく、どうなっても知らねえからな..」


 寄り道する事にした2人は、男から詳しく話を聞く事にした。協力すると伝えると、男は嬉しそうに言う。


「本当にありがとうございます! 僕はカッシーロと言います! 聖魔術師さまが居れば怖いものなしですよ!」

「いやぁ..まだ分かんないよ..相手は悪魔だ。魔法による物理攻撃は効かないかもしれないしな。んで? その悪魔について知ってる事を話してくれない?」

「ええ..事の発端は5年前まで遡ります。夜遅くに仕事を終え帰宅していた1人の男が突然行方不明になったんです。それで町のみんなで捜索を始めた結果..全身の血を抜かれ真っ青になった男の死体が見つかりました。それから毎年同じような事象が起きるようになって..」


 話を聞いていたルイが顔を真っ青にして怯えた様子で呟く。


「おい..嘘だろ..」

「つ..続けていいかい?」

「お..おう..」


 カッシーロはルイに聞くと、再び話を続ける。


「偶然か奇遇かは分からないんですが、行方不明になった人は全員男で、さらに行方不明になる日は決まって22歳になった誕生日当日の夜なんです..気味悪がった町のみんなは悪魔の仕業だと噂するようになって..」

「22歳の誕生日当日ね..確かにゾロ目で気色悪いな」


 カナデが呟くと、ルイがカナデの袖を軽く引っ張る。


「なぁ..やっぱり止めとかね..?」

「やっぱ悪魔嫌いなんじゃん..」

「そうだよ大嫌いだよ悪いか!!」

「そこは素直なのね..」


 そう話す2人にカッシーロがとある提案をする。


「ああそうだ! 2人に僕の奥さんを紹介するよ! 頼りになる人だからきっと何か力になってくれると思うよ!」


 そして、2人はカッシーロに案内され奥さんのいる自宅へと向かった。

 



 




 


 

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