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異世界の聖魔術師  作者: 凛。
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第五話 王都メンドラ

 王都メンドラに着いたカナデは、王宮横にある騎士団の本部内にいた。英国の軍人のような服装に、左胸には六芒星のバッチと星のバッチが無数に付いている男が、豪勢な椅子に座ってカナデを出迎える。


「長旅ご苦労だったねカナデ」


 机に肩肘をついて笑みをこぼす男にカナデは小さくため息をついて。


「知ってて命令したくせに..召喚士がいるなら先に言えっての..」

「これも君を優秀な聖魔術師に育てる為だ。口で教えるより己で経験する方が成長の速さが段違いだからね」

「だからってあんなど田舎に送り込むのは如何なもんかねぇ..あ、そいえば何年か前に指名手配中だった元聖魔術師を捕まえたんだけど聞いてる?」

「ああ..その事なんだがね..」


 その時、それまで笑顔を見せていた男の表情が曇る。


「実は、君が現地の兵士にガジェッタの身柄を拘束させた後、彼は近くの駐屯地で何者かによって殺害された..」

「はぁ?! 一体誰が..」

「私も先日聞いたので詳細は分かっていない。ただ..駐屯地が襲撃された後、近くの街で左頬に刺青のある怪しい男を目撃したとの報告を受けた。現在その男を重要参考人として行方を追っている」


 カナデは話を聞いてある事を思い出す。


「確かガジェッタが言ってた..神を生み出す力がどうとかって..その話と何か関係があるのかも..」

「神を生み出す力..? 詳しく聞かせてもらおう」


 それからカナデは、ガジェッタが言っていた事を男に話した。話を聞いた男はにわかに信じ難い表情で呟く。


「魔術に召喚術..言われ方は様々..か..単なる噂話で済めばいいが..最も神に()()存在というのが引っかかる..近い存在という事は、それが神であるとは断定できないという事だろう? 何を生み出そうとしたんだ..」

「ああ、そこが謎なんだよね..ガジェッタを殺した張本人をとっ捕まえれば答えが分かるかも」

「そうとなれば捜査を急ごう..こちらでも派遣する兵を増員する」


 その時、誰かが部屋の扉をノックする。


「入りたまえ」


 男が言うと、ブロンド色の長い髪を束ねた、可憐ながらも品格のある女性が入ってくる。


「失礼します..あらカナデ君、戻って来てたのね。無事で良かったわ」

「ローズさん、ほんとにこの人どうにかしてよ。毎度訳分かんないとこに送り込まれて大変だよ」

「団長は昔から人使いが荒い人だから..大目に見てあげて」


 2人の会話中、もう1人の男が部屋に入ってくる。派手な髪型に、軍服を着崩しているその男はカナデに。


「お! ガキ大将のお帰りか! つーかお前ブリッツさんに対する態度どうにか出来ねえのか? この方はかの有名な第一騎士団団長のライノ・ブリッツさんだぞ?!」

「はいはい..耳にタコが出来るほど聞いたよ..」


 カナデを怒鳴りつける男にブリッツは笑みをこぼしながら。


「落ち着けソルノ、彼の態度は許容している。それより何か情報は掴めたか?」


 ライノ・ブリッツ。位は大騎(たいき)であり、聖魔術師の資格を持ちながら、25歳という若さにして第一騎士団の団長に任命された国軍期待の男である。


「ええ、その事なんすけど..左頬にタトゥーのある男がアトランティス付近で目撃されたらしいっす。男の詳細は未だ分かっていませんが、おそらく目的地はアトランティスかと」

「そうだな..あの近くで栄えているのはアトランティスくらいだ..しかし何の目的で港町へ..」


 頭を抱え悩むブリッツにローズが。


「団長、騎士団を何人か派遣しましょうか? 相手は元聖魔術師を殺害する程の実力を持った強者です。優秀な騎士を送り込んだ方が先決かと..」

「いや..王都近辺での暴動も活発化している今、騎士団を派遣するのは危険だ。勢力を手薄にする作戦の可能性も否定できない」

「では誰がアトランティスに?」


 すると、カナデがブリッツに。


「それ、俺が行ったらダメかな?」


 ブリッツは眉を細めるようにカナデを見つめて。


「....まさか君の探している少女と関係が?」

「いや..それはまだ分からないけど..神を生み出す力ってのがどうも気がかりでさ、もしかしたら何か関係があるのかも」

「なるほど..良いだろう。ちょうど君にささやかな贈り物をしようと思っていたとこだったんだ」

「ささやかな贈り物..?」


 その時、誰かが外側から扉をノックする音が聞こえる。気づいたブリッツが。


「入りたまえ!」


 すると、目つきの悪い黒髪に短髪の青年がゆっくりと扉を開ける。青年は腰に短剣を拵え、片手をポケットに入れて睨みつけながらブリッツの方へ歩いていくと。


「ルイです。ブリッツ団長の命令で呼ばれたんすけど、俺に何か用すか?」


 青年の態度に部屋は静まり返る。そして少しの沈黙の後、ソルノが。


「おいおい誰だ? この部屋に不良少年を呼んだのは、団長がこんな舐め腐ったクソガキ呼ぶわけねえだろうに」


 ソルノの言葉に青年は微笑を浮かべて。


「いや、呼んだのあんたらでしょ。用が無いなら帰りますけど?」


 ルイの態度に、ソルノは額に血管を浮かばせながらローズの耳元で言う。


「こいつ絞めていいか?」

「落ち着きなさいソルノ君。服装から見てまだ若い兵士のようだし、ここは大人の対応よ」


 すると今度は、青年がローズを見て。


「へえ..騎士団にも女の人いるんだ。男達に囲まれてたら女っ気とか皆無でしょ。気の毒に」


 ルイの言葉に、それまで穏やかだったローズの表情が剣幕に変わる。


「ソルノ君..やっぱり絞めてもいいわよ」

「大人の対応って言ったそばから?!」


 苛立ちを募らせる騎士団達に、ブリッツは冷静な態度で言う。


「まあ思う所はあるかもしれないが、彼はまだ新兵だ。君たちの寛大な心で許してやってくれたまえ」


 ルイと騎士団のやりとりを見て、カナデは他人事のように笑みをこぼしながらブリッツに。


「騎士団も厄介な荷物抱えたね。わざわざあんな奴連れて来なくてもいいのに」

「何を言っているんだね? 彼は君の相棒になるんだぞ?」


 カナデは理解するのに数秒かかってから答える。


「..は? 相棒?! 俺の?!」

「そうだが、何か問題かね? 聖魔術師とは言え君はまだ子供だ。1人でこの国をふらつかせるのは危険だと判断した」

「問題しかないでしょ! こんな人斬りナイフみたいに尖ってる奴と一緒に行動できねえよ!」


 言うと、ルイが眉間にシワを寄せてカナデを睨み。


「人斬りナイフ..? 誰に言ってんだ?」


 カナデも負けじとルイを睨みつけ。


「お前しかいないだろ? 他に誰がいんだよ」

「へぇ..だったらお望み通り切り裂いてあげようか?」

「ほぉ..やってみろよ」


 睨み合う2人を見て、ブリッツが間に割って入る。


「それくらいにしたまえ。ルイもカナデも、いち王都国軍の人間ならもう少し冷静に話し合いできないのか? 君たちはこれからお互いの血となり肉となるパートナーだ。大事なのは相手に歩み寄る」

「無理!!」

「無理!!」


 ブリッツの話を遮るように、カナデとルイは口を揃えて答える。2人の様子を見て、ブリッツ達は呆れたようにため息をつく。


「まあ何はともあれ命令は絶対だ。アトランティスへ行って有力な情報を掴んできてくれ。いいな?」


 カナデはため息をつきながらも、渋々小さく頷く。ルイは不本意ではあるもののブリッツに。


「あんたには借りがあるし..分かったよ」


 2人の言葉に、ブリッツは小さく笑みをこぼす。


「よし、じゃあ行くぞルイ」

「言われなくても行くっての」

「お前なぁ、俺は天下の聖魔術師さまさまだぞ? いくら歳が近くたってお前より偉いんだからな? もっと敬え!」

「あーうるせぇ..肩書きや地位で偉そうにする奴って大体小物って相場は決まってんぞ」


 激しくいがみ合いながら2人は部屋を出る。不安そうな顔をするローズとソルノに、ブリッツはニヤリと笑みを浮かべて。


「彼らの活躍が楽しみだな」


 ブリッツの言葉に、ローズは疑念を浮かべながら。


「あの2人のどこを見てそう思うんですか..?」

「いずれ分かるさ、彼らは良いコンビになる」




 部屋を出たカナデとルイは本部を出てアトランティスへと歩みを進める。気になっている事があったカナデはルイに聞く。


「そいえばお前、ブリッツさんに借りがあるって言ってたけど、なんかあったのか?」

「前の部隊にいた時、俺は隊長の命令を無視して独断で行動した。挙げ句の果てに腹が立って隊長をぶん殴るざま..当然隊律違反を犯した俺は処分をくらって隊を追い出された。隊長をぶん殴るような奴を引き受けてくれる部隊はある訳もなくて行き場の無くなった俺の前にあの人が現れたんだ」


 ルイが言うと、カナデは吹き出すように笑って。


「バカだなぁお前、除兵にならなかっただけマシじゃねえか!」

「笑うんじゃねえよ! あいつ(隊長)は目の前で助けを求めてた奴を放って自分の身を庇いやがったんだぞ! そんな奴の下に付くなんて死んでも御免だ!」

「へぇ..そういう事な。隊長の命令を無視して助けに行ったのはお前ってわけか」

「何だよ? 俺は反省してねえかんな」


 ルイが顰めっ面で言うと、カナデは少し笑いながら。


「別に悪いなんて言ってねえだろ? ただ、ブリッツさんがお前を連れてきた理由が何となく分かっただけ」

「大体..俺は軍の連中が嫌いだ。結局全員大事なのは自分の首..何の為に兵士になったんだって話だよ。聖魔術師だって..魔法が使える事がそんなに偉いのかよ..」


 ルイは地面に転がる石ころを蹴飛ばしながら言う。カナデは笑みをこぼしながら。


「だったら何でお前は兵士を目指したんだ?」

「知ってたら入る訳ねえだろ! 俺はただ..親父との約束を果たしたかっただけだ」

「親父? どんな約束なんだ?」

「お前には関係ねえよ! つーか..そういうお前は何で聖魔術師になったんだよ..気まぐれでなれるようなもんじゃねえだろ」


 ルイが聞くと、カナデはジャケットの内ポケットから写真を取り出して答える。


「探してる奴が居る..バカで..どっか抜けてて天然な奴なんだけどさ..俺の大事な人なんだ。そんでこいつを見つける為に俺は国の飼い犬になる事を決めたって訳..ま、魂までは売らねえけどな」

「ふーん..あんた以外にも瞳が黒いやつが居るんだな」

「俺のいたとこじゃ珍しくねえさ。ここと違って争いも少ない平和な場所だ..」


 カナデは上を見上げながら小さく呟く。そして、写真をグッと握りしめて。


「その為にはとりあえずガジェッタ殺害の犯人をとっ捕まえる! お前も協力しろよ?」

「言われなくても、あんたより早く捕まえてやるよ」


 こうして、カナデとルイはガジェッタ殺害の犯人を突き止めるべく、水の都アトランティスへと向かった。





 


 

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