第三話 汚名の聖魔術師①
「はぁ?! 今なんて?!」
「..ですから..次の列車は明日の朝と..」
マッソーリを出て王都を目指していたカナデは乗り換えの為に途中の駅を降りていた。カナデは苛立ちを募らせながら小さく地団駄を踏み続ける。
「王都から離れるとこうなるから嫌なんだよ..田舎は列車の本数が少ないのはあっちの世界と変わらねえのな..」
次の列車が明日の朝と知ったカナデは、メンドラとマッソーリの中間地点であるソアルという町に下宿することにした。
街に着くと、カナデは掲示板のとある見出しに目が止まる。
「聖魔術師の卵育てます。魔法使いになって世界の平和を守りたいそこの君! 私が主催する聖魔術師養成学校に来ればたった数ヶ月で聖魔術師になれる! 申し込みは下の書類から! ....んだこれ? こんな制度やってんのか今?」
にわかにも信じ難いカナデは眉を細める。すると、通りかかった小柄で華奢な体つきの青年らしき人物がカナデを見て、思わず持っていた荷物を落とした。
「白衣のマントに黒い瞳..間違いない..本物だ..」
「ん? 誰あんた?」
カナデが聞くと、青年は目を輝かせながらカナデに。
「僕はリアム! 貴方の事は知っています! 史上最年少の聖魔術師ですよね?!
「お..おう..圧がすごいな..」
カナデは困惑しながらも青年に会釈する。明らかに面倒臭そうな態度を取るカナデだったが、青年は引き下がる事なくカナデに。
「実は僕聖魔術師を目指しているんです! 属性は水です! もし良かったら僕に魔法の使い方を教えてくれませんか?!」
「嫌だよ、そもそも人に魔法を教えるほどこの道長くないし」
「えー! ケチだなぁ..」
「なんか言ったか?」
いじけるリアムにカナデが掲示板を指差し。
「この学校通えばいいじゃん? 聖魔術師養成学校らしいけど」
「もう通ってますよ..でも誰も魔法が全く使えるようにならなくて..」
「そりゃそうだろ、努力だけで使えるもんじゃねえからなぁ、ま、大事なのは自分をよく分析する事だ。って..先生みたいな事言ってんな俺..」
掲示板の前で話していると、数人の集団が近くを通りかかった。リアムとさほど歳が変わらないような容姿のその集団はリアムに気付くと鼻で笑いながら言った。
「おい見ろよ、弱虫リアムだ。一丁前にサボってやがるぞ」
「うわほんとだ..とっとと辞めればいいのに」
リアムの横にいるカナデの耳にも届くほどの声で話す青年たちに、リアムは聞こえないふりをしながら下を俯く。そんなリアムを見てカナデが。
「おい言われてんぞ? 言い返さないのか?」
「いいんです..言ってる事は間違ってないですから..じゃあ僕は学校に戻ります..いきなり声かけてすみませんでした..」
その時、そう言ってその場を後にしようとしたリアムをカナデが引き止めた。
「あ、その学校俺も案内してよ」
カナデが言うと、リアムは態度を一変させ目を輝かせた。
「てことはやっぱり稽古を?!」
「いや、違う」
「え〜..ガクンッ..」
少し歩くと、そこまで大きくはない煉瓦造りの建物が見える。
「あれが学校です! 史上最年少の聖魔術師が来たなんて知ったら皆驚くだろうなぁ」
リアムに案内されるがまま、カナデは職員のいる部屋に入る。
「リアム、案内はここまででいいよ。ありがと」
リアムが部屋を出た直後、職員と思わしき人物がカナデの前にやって来る。
「こんな小さな街に客人とは珍しいですね。どなた....え? 君はまさか..?」
いかにも温厚そうなその男はカナデを見て驚く。
「偶然この街に来たら興味の惹かれる看板を見てね。あんたが先生?」
「え..ええ..一応私が生徒に魔法を教えています」
「ふーん..あんたがねぇ..国から許可はもらってんの?」
「も..もちろんだよ..! 教育の一貫であっても魔法の使用は禁じられているからね..」
カナデの質問に男はたどたどしく答える。
「まあ国が許してるならとやかく言わないけどさ、間違った使い方を教えちゃだめだよ?」
「ああ..! 立派な聖魔術師を育てる為に精進するさ!」
カナデは男をじっと睨みつけると部屋を後にした。
すると、男の元にもう1人の教員らしき人物が現れ。
「ガジェッタさん、面倒な奴が来ましたね..」
「気にすることはないよ、邪魔な奴は消せばいい..現役の頃はそうやって生きてきた..」
「そうでしたね..」
カナデとの会話が気になり、部屋の外で隠れて話を聞いてきたリアムはガジェッタの話を聞いてしまう。リアムは部屋に入りガジェッタに。
「先生..今の会話はどういう意味ですか..?」
ガジェッタは一瞬驚くが、すぐに冷静になりリアムに。
「何も聞かなかったな?」
鋭い眼光で睨みつけるガジェッタにリアムは硬直する。
「い..いや..はい..」
すると、ガジェッタはにんまりと笑いかけ、何かを閃いたようにリアムに。
「あぁ! そうだ! 君が連れてきた聖魔術師を連れて来てくれないか? あいにく手が離せなくてねぇ..頼むよ?」
「あ..あの人に何か用でも..?」
リアムが声を震わせながら聞くと、ガジェッタは再び険しい表情になりリアムの肩をギュッと掴んだ。
「私の言う事が聞けないのかな? どうせお前は低級魔法1つ使えないカスだ..これくらいの事は出来るだろう?」
「わ..分かりました..」
そしてリアムは瞳に涙を浮かべながら部屋を出ていった。
一方その頃、カナデは何かを考え込みながらベンチに座っていた。
「やっぱりこんな田舎町じゃひなのの手掛かりは掴めるわけないよなぁ..ていうかさっきの教師どっかで見たような見てないような..あ〜色々考えてると禿げそうだわ..」
「聖魔術師さん..!」
その時、リアムが息を切らしながらカナデを呼ぶ。
「なんだそんな急いで、魔法なら教えないって言ったはずだぞ?」
「いえ..ガジェッタ先生が呼んでます..話があると..」
「ガジェッタ..? あー分かった、行くよ」
それから数十分経ち、カナデはリアムと一緒にガジェッタの元へ辿り着く。先刻の部屋とは違い、学校の外でガジェッタは微笑を浮かべながら立っていた。
「話って何? 先生をやってくれって頼みなら聞かないよ?」
「いえいえ..そんな無礼なお願いはしませんよ..ただ王都に報告されたくない..それだけです..」
「....?..」
その時、カナデが油断した隙を見てリアムがカナデの持っていた杖を奪い取った。
「やれば出来るじゃないか! これくらいしか取り柄ないもんなぁお前は!」
杖を奪ったリアムにガジェッタが笑いながら言う。リアムはカナデから目を逸らすように下を俯く。
「あちゃ〜..油断してたぁ..」
「聖魔術師とは言えまだ毛も生えていないような赤子、私とは経験が違いすぎるんだよ」
ガジェッタはそう言ってカナデの周りを囲うように炎の魔法を放った。燃え上がる炎に囲われたカナデは身動きが取れなくなる。
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