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異世界の聖魔術師  作者: 凛。
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第二話 史上最年少の聖魔術師②

「やっぱり魔物の正体は人間だったようだな。おかしいと思ったんだ、今は発情期でも無いオークが何故わざわざ若い人間を狙うのか..そりゃああんたくらいの歳の兄ちゃんなら年中無休で若い女が好きだもんなぁ?」


 リサの背後でそう言い放ったのは白衣のマントを羽織った青年だった。難を逃れたリサはホッとため息をつくと青年に。


「助けに来るならもっと早く来てよ! 怖いじゃん! 主人公気取りかよ!」

「何だとぉ?! 魔物を討伐したって根源をどうにかしなきゃ意味ないだろ?」


 言い争う2人にフードの男が言う。


「ほぉ..私の正体が分かるんですか? 子供に残魔を嗅ぎつけられるとは..私もまだまだですね..」

「まさかこの町に召喚士が居たとはね..」


 召喚士。それは魔力を源に魔物を召喚する事ができる魔術師であり、魔力量によっては空想上や異空間の生物を呼び出す事も出来る。


 フードの男はニヤリと笑みをこぼすと青年に。


「しかし見たところまだ子供..魔法学をかじった程度で力量は知れたものだろう? 私の召喚術にかかれば造作もない!」


 フードの男はそう言って数体の魔物を召喚する。魔物の群れを見たリサが冷や汗を掻いて青年の後ろに隠れると、青年は顔色変える事なく小さな笑みをこぼしてフードの男に。


「それだけ?」

「あ? 何が言いたい?」

「だから、たったのそれだけしか召喚できないのか? って聞いたんだけど」


 青年が煽ると、フードの男は額まで血管を膨らませて叫ぶ。


「ガキのくせに..俺を侮辱するなぁ!! これだけの数を召喚出来る魔術師はそう居ない..ガキがイキがるんじゃねえぞ!」

「子供相手にムキになりすぎだよお兄さん? そこまで言うなら俺が見せてあげるよ」


 青年はそう言うと、マントの下にしまっていた杖を取り出す。そして地面に向かって何かを唱え始めた。


「魂を以て(もって)(ことわり)を示せ..出でよ召喚獣、ケルベロス!」


 青年が唱えると、地面に浮かび上がった紋様から顔が3つある巨大な狼が表れる。するとフードの男は腰を抜かしながら呟く。


「バカな..あり得ない..! あれは空想上の生物のはずだ..こんなガキにそれほどの魔力があるなどあり得るはずが無い..!!」


 ケルベロスの凶暴さに、フードの男が召喚した魔物たちは怯える。そして男に追い討ちをかけるように青年が。


「さあてどうする? 大人しく罪を認めればケルベロスの今晩の食事は牛肉にでもしといてやるよ」


  青年が言うと、男は声を震わせながら呟く。


「そうだ..思い出したぞ..黒い瞳に白衣のマントを羽織った男..史上最年少の聖魔術師か..!!」

「ご紹介ありがとう。まあ俺のいた()()じゃ黒い瞳なんてそう珍しくないんだけどね」


 白衣のマントをなびかせる青年の後ろ姿を見てリサが。


「史上最年少の聖魔術師って..あいつ..めちゃくちゃ有名な奴じゃん..」


 しかし、腰を抜かしていたフードの男は、再び立ち上がる。


「ここまで来て退くわけにはいかない..! せっかく集めた私のコレクションなんだ! 誰にも渡さないぞ!!」


 そう言い放つ男を、青年は険しい表情で睨みつけ。


「コレクションだと? ふざけた事言ってんじゃねえよ..お前が攫った人間にはそれぞれ帰る場所があって..それを待ってる人達がいる..てめぇの私利私欲でそいつを踏みにじって言い訳ないだろ」

「ガキが偉そうに説教するな! やれぇ!! 召喚獣!!」


 フードの男が召喚した無数の魔物は青年に襲いかかる。青年は焦る様子なく自分の召喚獣に。


「ケルベロス! 今晩の飯だ! たらふく食っていいぞ!」


 青年に襲いかかる魔物の群れを、ケルベロスはいとも簡単に食いちぎる。そして気付けば魔物の屍がそこら中に散らばり、残されたのはフードの男だけになる。男は唖然として膝から崩れ落ち青年に。


「一般人の魔法使用は重罪..獄中生活は御免だ。私を殺せ」

「勘違いするなよ、死ぬ事と償う事は別物だ。あんたには生きて償ってもらう。大体この世界の常識は俺には通用しないからな? 簡単に人は死んでくし..全く理解出来ない」


 青年が言うと、フードの男は小さく笑みをこぼし。


「そんな甘い考え方で聖魔術師をしている奴がいるとはな..しかもこんな子供が..君の事だ..もう気付いているのだろう?」


 青年も笑みをこぼして答える。


「俺のいた国じゃ常識だよ?」


 言うと、青年は杖を男の後ろにある壁に向け始める。


「レ・ヴィアル!」


 青年は唱えると、それまでは壁だった所に突然空間が表れる。そしてその空間から、手足を紐で縛られた何人もの若い娘たちが姿を現した。それを目の当たりにしたリサは涙を浮かべて呟く。


「サリー..サリー..!!」


 リサは泣きながら捕まっていたサリーの所へ駆け寄り強く抱きしめた。抱き合う2人を見て青年は呟く。


「親友は大事だもんな..」


 

 それから少し経って、騒ぎに気付いた住民の通報によって駆けつけた村の兵隊によって、攫われていた若い娘たちは保護されそれぞれの家族の元へ返された。駆けつけた兵隊は青年を見てすぐにその正体に気づき、冷や汗を垂らしながら敬礼をした。青年は強張る兵隊に。


「そんなに気負わなくてもいいよ。相手は召喚士、魔術師じゃなきゃ対処できなかったからさ」

「はい!! も..申し訳ありません聖魔術師様..!」


 そう話す青年の元にリサがやって来る。リサはモジモジしながらも青年に。


「あんた聖魔術師だったのかよ..隠す事ないのに..」

「んぁ? いやだってその方がカッコ良くない? 颯爽と現れ街のピンチを救って、名も名乗らずその場を去っていく。ヒーローみたいじゃん?」


 青年が言うと、リサは吹き出すように笑って。


「ばっかじゃないの、でも..ありがとう..」

「おう!」


 青年がリサに向けて笑顔で手を上げると、会話を聞いていた兵隊がリサを怒鳴りつけた。


「おいお前! その口の聞き方は何だ?! 聖魔術師は騎士の位で言うと準騎(じゅんき)に値する方なんだぞ? メンドラでそんな事をすれば罪....」

「まあまあ! 気にしなくていいよ、もっと気楽にしなよ兵隊さん」


 兵隊の叱責に青年が割って入る。そして何かを思い出した青年はリサにある物を手渡した。


「あ、そうだ。リサ小銭落としただろ? 拾っといたぞ」

「あー..買い物の途中だっ....ん?」


 青年から小銭を手渡された時、リサは青年の掌を見て気付いた。そこには無数にできたタコが何層にも重なっており、皮膚が硬く腫れていたのだ。それを見たリサは青年に。


「酒場の時は悪かったよ..生まれも育ちも良いとか適当な事言って..」

「なんだよ急に?」

「その掌を見れば誰だって分かるよ、どれだけ努力してきたのかって..」


 青年は笑みをこぼしながら自身の掌を見つめて言う。


「ああこれね..特訓の日々は二度と思い出したくない」

「そいえば、聖魔術師はこの程度の事件じゃ動かないんじゃなかったの?」

「普通の聖魔術師ならね? 俺は先生にこっぴどく言われてたからさ..国の為に聖魔術師が居るんじゃない..国民の為に聖魔術師は居るんだって..」


 青年はそう言ってその場を去っていく。リサは去り行く青年の後ろ姿を見ながら。


「あんた! 名前は?」


 リサが言うと、青年は白衣のマントをなびかせながらリサの方を振り向き答えた。


「カナデ! あ! そうそう! 酒場の時の飯代だけど、今回の件でチャラな! んじゃ!」


 カナデはそう言って手を上げる。リサは笑みを浮かべながら呟く。


「ばーか..お釣りくるでしょ..ありがとう、史上最年少の聖魔術師..」






読んでいただきありがとうございます。

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