表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の聖魔術師  作者: 凛。
2/12

プロローグ②

 クレアの家に着いた奏は、少しずつ落ち着きを取り戻しリビングのテーブルに腰掛けていた。少し経って、クレアがシチューとパンを持ってきてテーブルに置いた。


「ほら食いな。食べることは生きること! これ即ちこの世の摂理! なんつってな」

「いただきます..」


 奏がスプーンに手を添えようとした時、ポケットから1枚の写真がヒラヒラと床に落ちる。


「この写真..」


 奏が拾ったのは、笑顔で並ぶ奏とひなのとのツーショットだった。奏は写真を数秒見つめると、ひなのや向こうの世界での暮らしの事を鮮明に思い出し、込み上げる涙を必死に堪えるように目を瞑った。そんな奏を見てクレアが。


「バカが。子供が一丁前に我慢するんじゃねえよ。大人になったら簡単に泣けなくなる。今のうちに目一杯泣いとけ」


 クレアの言葉で、奏は堪えていた涙が溢れ出る。クレアは暖かい眼差しで奏を見て。


「辛かっただろ。今日はゆっくり休め」


 奏は泣きながらシチューを頬張ると、声にもならない声で。


「まっじぃシチュー!!」

「んだとコラぁ! 涙でしょっぱいだけだろ!!」


 奏はそう言いながらもシチューをパンを口いっぱいに頬張った。





 翌朝、クレアが眠い目を擦りながらリビングに向かうと、奏が深妙な面持ちでテーブルに腰掛けている事に気付く。


「おはよう..何だ急に険しい顔して」

「おはようございます..あんたに聞きたい事があるんだけど」

「んだよ」


 奏はポケットから写真を撮り出すと、それをじっと見つめながら。


「俺の幼なじみが消えた時も、俺がここに来た時も、あんたが俺を守った時みたいに地面に似たような紋様が浮かんで青白く光った..あれは何なんだ?」

「魔法に決まってんだろ? 禁止令が出たとは言えそんなに珍しいものじゃねえだろうよ」


 クレアの言葉に、奏は小さく呟く。


「魔法..普通だったらあり得ない話だけど、この状況じゃ信じざるを得ないよな..」

「んぁ? なんか言ったか?」

「いや、何でもない」


 一夜明け、落ち着きを取り戻していた奏には一つの仮説があった。奏は心の中で。


(だとすれば..もしかしたらひなのも同じようにこの世界に飛ばされてきたのかもしれない..それにこっちに何かを呼び出せる魔法があるのなら、反対に向こうの世界に帰る魔法だってあるはず..)


 そして奏はクレアに。


「その魔法っての、俺にも使えるのか?」

「それは無理だな。一般人の魔法の使用は重罪、使おうもんな国のお役人たちがお前を殺しにくるぞ?」

「だったらなんであんたは?」


 聞くと、クレアは壁に立てかけてあった杖を持ってきて奏に見せると。


「私は聖魔術師だからどんだけ魔法使っても問題ないのさ」

「聖魔術師..?」

「お前本当に何も知らないのか? 世間知らずにも程があるだろ..聖魔術師ってのは、国で唯一魔法の使用を許可された国家直属の魔術師であり、国の警護の為なら魔法による武力行使も認められたいわば兵器みたいなものだ」

「マジでアニメの世界の話だな..」

「はぁ? アニメ?」


 そして奏はある事を決断する。


「だったら俺も聖魔術師になりたい。教えてくれよ」


 奏の言葉に、クレアは数秒黙り込むと答えた。


「嫌だね。ガキがなるもんじゃねえよ..それに遊び半分でなれるほど簡単じゃねえからな」

「頼むよ! 目的が見つかったんだ! もうこれにすがるしかねえんだよ!」

「じゃあなにか? お前は自分の目的の為に国の飼い犬になって一生飼い慣らされてもいいってのか? 万が一戦争が起きれば最前線で戦う事になるぞ?」


 クレアは鋭い眼光で奏を見つめる。奏もそれに応えるようにクレアを見つめ返すと、強く握り拳を作って。


「構わない! 国の飼い犬だろうが兵器になろうが構わない! 負け犬になるよりはマシだ! それにあんた言ったよな? 自分を救えるのは自分しかいないって..今の俺を救えるのはこれしかないんだ!」


 真っ直ぐな眼差しで見つめる奏に、クレアは小さくため息をついて。


「私も丸くなったな..分かったよ。その代わり1ヶ月間お前を見定める。聖魔術師は誰にでもなれるものじゃないからな。根性、センス、頭脳その他諸々言い出したらキリがないほど必要なスキルがいる。もし1ヶ月で私が無理だと判断した場合はこの話は無しだ。いいな?」

「分かった。よろしく頼む」

「頼むじゃねえだろ? お願いします先生だ! これからは私に敬語を使え?」


 こうして、奏はクレアの元で聖魔術師になる事を決意したが一つだけ気になる事があった。奏は改まってクレアに。


「どうして俺に何も聞かないんですか? 普通あんなとこにいたらヤバい奴かもとか思うと思いますけど..」

「別に知る必要が無い。仮にお前がヤバい奴だとしたらすぐに消せばいいだろう?」

「ま..まあそうですね..でも話して信じるかは分かりませんけど..俺は異世..」


 奏の言葉を遮るようにクレアが。


「それ以上は言わなくていい。言ったはずだ知る必要が無いと。それから金輪際その話は他の奴らにはするな、分かったか?」

「は..はい..」

「よし、じゃあ私はちょっと行かなきゃいけない所があるから行ってくる。帰ってきたらすぐに始めるからな」


 クレアはそう言って中世の騎士のような正装をして白衣のマントを羽織り家を出て言った。奏はそんなクレアの後ろ姿を見つめながら呟く。


「魔法を使えるようになればひなのの居場所や向こうの世界に帰る事が出来るはずだ。何が何でもなってやる..聖魔術師に..」


 




 家を出たクレアは、世界最大の国サルエレムの中心地、王都メンドラにそびえ立つ城に来ていた。大きな扉を開け、赤いカーペットが敷かれた長く広い廊下を進むと、鎧を着た男がクレアを出迎える。


「クレアか。珍しいな、お前が家に帰るなど」

「そりゃ数ヶ月も家に帰らないとホームシックにもなりますよ」

「ここの所、ヤマトの魔導師が不穏な動きをしていたからな..お前に居なくなられると困る」

「あー..その話なんですけど..今日限りで聖魔術師は引退させてもらいます」


 クレアの言葉に男は一瞬黙り込む。最初は冗談だと思った男だったが、クレアの表情を見て。


「どういう風の吹き回しだ? 今になって怖気付いた訳じゃないだろう?」

「帰りを待ってる奴が出来たんです。私はそいつの帰る場所を作ってやりたい..それだけです」


 聞いた男は、驚きを隠せない表情で。


「そんな..天地がひっくり返ってもあり得ないだろ..」

「いや..恋人とかじゃないですよ?」

「何..? では一体..」

「弟子が出来まして」

「はぁ?! お前が弟子を取る?! その方があり得ないだろ!?」


 男は空いた口が塞がらないほどに動揺する。そして一度呼吸を整えてクレアに。


「しかし..誰がお前の代わりを務めるんだ? お前の代わりになる奴なんて居ないぞ..」

「いや..少し時間をください。私より優秀な聖魔術師が必ずここにやってきますから」

「なに..?」


 男はにわかに信じがたい顔でクレアを見つめる。するとクレアが。


「バカな話ですけど..絶望の中に居ながら、聖魔術師になる道を選んだ子供がいるんですよ..私は彼の可能性を信じています..いつか彼がこの世界を照らす希望になると..」

「お前にそこまで言わせるか..もう分かった。どうせお前を止めても無駄なんだろう?」

「はい..急で申し訳ありません、今までお世話になりました..」


 こうしてクレアは再び奏の待つ家路へと足を進める。そして絶望を味わった奏は、大切な幼なじみを見つけ、元いた世界に帰る事を決断し再び立ち上がる。


 果たして奏は無事に聖魔術師となり、ひなのを救い向こうの世界に帰る事は出来るのだろうか....


 


 


 



読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ