08・名付けと目的の為の旅の始まり
「えっと…それは…僕は地球に…日本に帰れるって事?」
『はい。マスターの行動によっては可能です』
「ど、どうすれば良いの!?」
まさか地球への帰還が可能という事を知り、何処かに身を乗り出す様に尋ねる桜。
『この世界の何処かに、『日輪の鍵』と『月影の鍵』という鍵があり、その鍵があれば、異なる世界への扉を開く事が可能という伝説があります』
「じゃあその鍵があれば…帰れるって事?」
『そうです』
『世界の知識』からの肯定の言葉を聞き、桜は希望を感じた。
「なら決まりだ! その鍵を探そう!」
『分かりました。私もマスターのサポートを、全力でさせていただきます』
「ありがとう…ところでさ、毎回『世界の知識』って呼ぶのは変だから、他に何か名前は無い?」
『それでしたら、マスターが名付けて下さい』
『世界の知識』に言われて、桜は考える。
「そうだな…う~ん…ヴァンパイアは太陽に弱い…デイライト…じゃあちょっとな…太陽光…光…『ルーチェ』はどうかな?」
ルーチェとは、イタリア語で『光』という意味である。
『分かりました。これからの私の名前は、『ルーチェ』でお願いします』
『世界の知識』は『ルーチェ』という名前に決まった。
「じゃあそろそろ行こうか」
そう言って振り返ると、其処にはこの世界に来た時に、桜が入っていた棺桶があった。
「……」
暫く桜は棺桶を見ていた後、ルーチェに話しかけた。
「ねえルーチェ…ルナ・リングってどうやって使うの? 出来れば、この棺桶を持っていきたいんだけど…やっぱりヴァンパイアだからか、寝心地が良かったから…」
『…対象物に触れて、収納するイメージをすれば、ルナ・リングに収納出来ます』
やや呆れる様なルーチェの雰囲気を察しながらも、桜は棺桶に触れて収納するイメージを行った。すると棺桶は一瞬で消えた。
「消えた!?」
『ルナ・リングに収納した物を見たい時は、リストをイメージすれば、頭に思い浮かびます』
ルーチェに言われて、桜はイメージをしてみる。すると確かに欄の様な物が頭に浮かび、それには棺桶の項目もあった。それ以上に気になったのは、『通学カバン』と表示されている物であった。
『そして出したい時は、今度は出すイメージをすれば出せます』
言いたい事が分かっていたルーチェは先に言い、桜はその指示に従って出すイメージをする。すると今度は桜の手にカバンが現れた。
「これ…僕が使っていたカバンだ」
それは桜が中学に通う為に使っていたカバンであった。桜はカバンの中を開けると、其処には教科書やノート、更には私物も入っていた。
その中から桜は、一冊の手帳を取り出した。その中からは写真が出て来た。その写真には桜の家族が写っていた。
「……」
桜は暫く見つめた後、写真を戻して、カバンを再びルナ・リングに収納した。
『マスター…』
「大丈夫。大丈夫だから…」
ルーチェが気に掛けて声を掛けようとするのを、先に遮る桜。
「必ず…必ず帰るから…行こう!」
決意を秘めた表情をしながら、桜は部屋を出て行く。
『マスター…必ず…必ずマスターを帰れるように、サポートします』
ルーチェも決意に満ちた声で、桜に告げた。
※ ※
暫く廃城を彷徨った後、出入り口へと辿り着いた桜。外は木々に覆われており、どうやら廃城は森の中に建っていた様だ。
「…ねえルーチェ…ヴァンパイアや魔法があるって事は…モンスターも居るって事だよね?」
『はい。ですがマスターなら大丈夫です。何故ならマスターは、最強の吸血鬼、ヴァンパイア・ロードですから』
ルーチェにそう言われて、桜は微かに感じていた不安が無くなった。
「そっか…じゃあ元の世界に帰る為に、頑張りますか!」
そう言って桜は、森の中へと歩き出したのであった。
次の話と登場人物紹介で、今回の章は終了となりますわ。
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