6-1
エマの部屋までの直通エレベーターはそのまま非常用の出口へとつながっていた。そして出口には、まるでこうなることを見越していたかのように一人分の物資が置かれていた。コウキは無言でリュックサックを背負い、そしてホルスターに収められたアミィをそっと撫でた。
コウキが研究所から出ると、ちょうど東の空から太陽が昇ってきているところだった。生命の感じられなかった廃墟群が、光に当てられ、徐々にその姿を現していく。
コウキは研究所を振り返る。世界の希望の名を持つその研究所はただ静かにそびえたっていた。先程までの出来事がまるで夢のように感じられる。周囲を見渡し、もう自分の周りに誰もいないことを確認すると、コウキはそっとアミィを撫でた。そして体を前に向け、ゆっくりと歩き始めた。
しばらく歩いていると川が見えてきた。コウキは荷物を降ろし、リュックからファイヤースターターと空き瓶を取り出した。適当に集めた枝を河原の傍に並べ、火を起こす。そして川の水を汲んだ瓶を火の傍に置いた。
「……水は必ず煮沸消毒」
ゆらゆらと揺れる炎を眺めながらそう呟く。
「コウキ、これからどうしますか?」
アミィが尋ねてくる。
「分からない」
コウキは小さく微笑みながら言った。
「ただ、なんとなく誰かを助けたいと思ってるよ」
「どういうことですか?」
コウキはそっとアミィを撫でながら言葉を続ける。
「こんな世界にも、きっとまだまだ生きてる人は一杯いると思うんだ。そんな人達を助けて回って、こんな世界にも希望はあるんだよって教えたいんだ。エマが僕に未来を届けてくれたように、僕も誰かの未来を届けたいんだ。子供っぽい考えだけどさ。そして――」
コウキはすっと目を細める。
「僕は家に帰りたい。そして僕の家がどうなったのか――僕の母がどうなったのか、この目で確かめたいんだ。自分が選択した結末をちゃんと見届けたいんだ」
「……私はどこまでも付き合いますよ、コウキ」
「ありがとう、エマ」
コウキの言葉に、アミィは咳払いをするかのように、コホンと呟いた。
「コウキ、お願いが」
「何?」
「私の事は今までのようにアミィと呼んでくれませんか? その、なんだかそちらの方が慣れてしまって」
その言葉に、コウキは笑顔を浮かべて頷いた。
「あぁ、よろしく、アミィ」
「えぇ、よろしく、コウキ」
瓶から気泡が生じ、沸騰しているのが分かる。コウキは瓶を火の中から取り出す。そしてある程度冷めたところで一気飲みした。
温かい液体が喉を通り体の中央からじわりと広がっていく。命のガソリンを注ぎ込まれたかのような感覚に、思わず瓶を持つ手に力がこもる。
僕は一人じゃない。
君がずっと傍にいる。
その想いが、コウキの心の支えになってくれていた。
「――僕は生きるよ」
水を飲み干したコウキは力強くそう呟いた。




