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The Great Hope of the Universe  作者: 佐久謙一
第三章 黒虫の女王
21/38

3-5



 物資の入ったリュックサックをコウキは肩に担いだ。リュックはずしりと重かった。

「とりあえず三日分の水と食料が入っているよ~。無くなる前には着くと思うし、道中、町や川もあって補給も楽だから、そこまで節約しなくても大丈夫なはず~」

 ジュンが簡単な説明をしている。コウキはチラリと横に視線を向ける。そこにはエマが仏頂面で立っていた。彼女の分の物資はマイクが担当することになったので、彼女は手ぶらだった。

「……何?」

 エマが顔を前に向けたまま尋ねてくる。コウキは一瞬言い淀み、改めてエマに向き直った。

「僕達って前に会ったことあるかな?」

 エマが横目でコウキを見た。

「さぁ? あなたこの辺に住んでたの?」

「いや、日本から出たことは無いんだけど」

「名前は?」

「コウキ」

 エマは頭をポリポリとかきながら唸る。

「コウキ……。うーん、知らないわね」

「僕は君を知っている気がするんだ」

「そりゃそうでしょ。私って有名人だし」

 エマが鼻を鳴らしながら、ぷいっと顔を背ける。コウキは首を振りながら考え込む。彼女の顔を見た時に沸き上がったあの感情は、決してそういう類の物ではなかった。

「なーに拗ねてんのさ」

 二人のやり取りを見ていたステラが茶化すような声でエマに話しかけた。

「ちょっと怒られたからって拗ねちゃってさ。子供だねぇ」

「私を子供扱いしないでくれる?」

 エマはきっとステラを睨みつける。

「体は子供のままだけど、精神は四十四年の歳月を過ごしているんだから。このグループの中では一番年上よ」

「ふーん? それじゃあおばさんって言ってあげた方が良かった?」

 エマがますます不機嫌な顔になる。その反応に満足するように、ステラはケラケラと笑いながら離れていった。

「……何なのあの子。あの子にあんなこと言われると、何だかすごく腹が立ってくるわ」

 エマがステラの背中を睨みながら呟いた。コウキは気まずそうに頬を掻きながら口を開く。

「まぁ、あの人は結構人をからかってくるから。僕も一回やられたよ」

「こんな状況で非常識ね。親の顔が見てみたいわ」

 エマとコウキは互いに視線を交わし、小さく笑い合う。共通の敵を得たことで少し気が合ったようだ。

「コウキって日本人?」

 エマが尋ねてくる。

「うん、そうだけど?」

「漢字ではどう書くの?」

 コウキは指で地面をなぞって『浩希』と書いた。

「へぇ、素敵な名前ね」

「漢字分かるの?」

「少しはね。『浩』は大いなるって意味があって、『希』は希望。二つ合わせて『大いなる希望』って意味になるわ」

 コウキは感心したように頷く。自分の名前をそういう視点で見たのは初めてだった。

「ちなみにエマって名前にも別の意味があるのよ。『宇宙』、『世界』、それが長じて『多才』、『博識』って意味を持ってるわ」

「そうなんだ。君の為にあるような素敵な名前だね」

「……どーも」

 コウキが微笑みながら言うと、エマは照れくさそうに視線を逸らした。

「それじゃあ皆、出発するぞ」

 方位磁石片手にマイクが言った。皆一様に返事をし、リュックを抱えて歩き始める。エマとコウキも互いに頷き合い、彼らの後をついていく。休まず歩き続けても二日はかかる距離と聞いていた。

 コウキは大地の感触を確かめるように、一歩一歩踏みしめながら歩いていく。崩れた建物跡がどこまでも広がる風景は、お世辞にもいい景色とは言えないが、雲一つない青空とちょうどよい気候が、心を穏やかにさせていた。



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