その鬼だって真面目にするときはする。
私達は今、依頼人さんの家の居間にいます。とても大きいお屋敷です。大きいです。
大事なので二回言いました。
「……なるほど、地下にスライムが」
「はい……。地下は倉庫になっているのですが、そこにどこからか入り込んだらしく…」
「地下には何が?」
「父の形見なんかが置いてありまして」
「ふむ」
真面目な顔をしてうなずく大人スタイルのサシャ様。先程まで車で「いやじゃいやじゃ、働きとうない!」ってだだをこねてた人と同一人物だとは思えないです。まあ、同一人物なんですけど。
こういう割り切り、というか切り替えができるのはとてもいいことだと思います。いやほら、できない人も多いわけだしね。大事ですよ、割り切り。
「……奈緒さん?何かあります?」
「いえ、何も」
ほら、依頼人さんがきょとん、としているじゃないですか。私の心の声に反応しないでください。とりあえず私はごまかし笑顔を依頼人さんに向けているのでした。まあ、私達がそういう人達ってバレてるからあんまり意味なさそうだけれども、まあ、こうやって内緒話されてるのは嫌だろうし。そういうのは私がフォローしていかないと行けない気がする。
いや、フォローできてるかどうかはわからないけれども。
「おほん。…えー、それでは、地下室へと続く階段の近くまで案内していただければ」
「はい、よろしくお願いいたします」
そう言って、座っていた椅子から立ち上がり、仕事場へと向かおうとする私達。
まあ、私達が前を行っても迷子になるだけなので依頼人さんの案内のあとをついていくだけなんだけれども。いやあ、大豪邸ってすごいね。何度も大豪邸には来ているけれど、来るたびに驚く。それぞれの家の特徴っていうのもあるけれども、なんだかこう、高そうな絵とか飾ってあるのはどこも一緒で、なおかつ割と迷いやすそうな家の作りである。
まあ、それもそうか、と。泥棒なんかが入ってきて、すぐ出られるようになったら物取られ放題になっちゃうものね。そりゃ迷路的な建物の作りにもなるよ。
なんて考えていたら。
「…ここの奥をいったところです。今は、バリケードを作って防いでおりますが、いつまで持つか」
「わかりました、あとは私達にお任せください」
そういって、サシャ様が頭を下げ、すぐさま顔を上げると、てくてく、と奥へと向かっていく。その後を私がついって行って、それをみて依頼人さんが、来た道を戻る。いやほら、待っててほしかったな、ってところはあるけれど、終わったらそのへんを歩いているメイドさんに連れてってもらおう。私達だけでは迷子になってそのままさまよえる幽霊になりそうだ。
「まあ、もともと幽霊みたいなもんじゃろ」
「それもそうですけどー。……どうです、スライムの数とか気配でわかります?」
「スライムじゃからなあ……。あんまり意味ないじゃろ。服を溶かすような邪悪なやつじゃなきゃいいんじゃがなあ」
「多分溶かすやつですよ。そしたら私、サシャ様盾にして逃げますね」
「儂、主様のはずなんじゃが!?」
「私スポンサーですし」
なんて、軽口を叩きながら、バリケードの前について、バリケードをといていくのであった。