第8話 ソフィア視点(過去)
今日は2話ソフィア視点です。
少し暴力的な描写があります。
私はこの国では一般的な茶色の髪、茶色の瞳を持つ平民だ。貸本屋でロマンス小説を借りて読むのが大好きな普通の女の子。いつかロマンス小説に出てくるような王子様が目の前に現れたら素敵だななんて思っている。
私は教会の慈善事業の手伝いをしている。
小さい頃からこの教会で続けているので、同年代の取りまとめのようなことも任されている。
ある日、伯爵令嬢と公爵令嬢が慈善事業の手伝いを申し出る手紙が届いた。
またか。正直そう思った。箔付けのために貴族令嬢が時々来ることがあるのだ。貴族とは平民を利用する……そういうものだ。
2人とも以前に慈善事業を手伝った事があるという触れ込みだったので、孤児院を訪問し料理を振る舞ったり一緒に遊ぶ日に来てもらった。
しかし公爵令嬢は現れず、伯爵令嬢はフワフワとしたドレス姿で現れた。
「料理なんて知識としてはあるけど、ドレスが汚れるわ。それに私の手に傷がついたらどうするの?侍女にやらせるわ」
先に来て野菜の下ごしらえをしていたエプロン姿に頭をスカーフを巻いた女の子2人と伯爵令嬢の侍女と4人で料理をした。この子たちは料理に慣れているらしくあっという間に料理ができたのだ。
まあ、お嬢様は口を出すだけで侍女がこういうことをやるのはいつものことだ。
伯爵令嬢の侍女が令嬢の世話に戻ってもこの2人は裏方に徹し、洗い物まで手際よく進めていた。
伯爵令嬢は事あるごとに
「孤児院に訪問だなんて小汚い子供ばかりじゃない。こんな日に来るのではなかった」
「ガツガツとマナーを知らない平民の汚らしい食べ方を見ていると気分が悪くなるわ」
と、文句ばかり言っている。
食事が終わると、男の子たちは年長のリーダー格の男の子たちと外で遊んで、女の子は絵本が読みたいと言う。
絵本を読むくらいならばと伯爵令嬢が絵本を持った。
その時フワフワとした美しいドレスに小さい女の子が触れようとた。
「そんな小汚い手で触れないで!汚らしい!」
持っていた絵本で女の子の手を叩いたのだ。
「そんな!叩くなんて暴力はお辞めください!」
「何よ!!私は来てあげてるのよ!貴族に逆らうなんて生意気ね!何様のつもり?高位の者が下位の者にするのは暴力ではなく教育と言うのよ!あなたにも教育が必要ね!」
伯爵令嬢は持っていた絵本を放り投げると私に平手打ちをしようと手を振りかぶった。
貴族なんて横暴な人ばかり!絵本のような王子様なんていない!
目をギュッとつぶっているといつまでも衝撃が来ない。
そーっと目を開くと、さっきの女の子の1人が後ろから振りかぶった伯爵令嬢の腕を抑えている。
「何するのよっ!離しなさい!」
腕を離すともう1人の女の子が正面にスッと立ちパシッと伯爵令嬢の頬を叩いた。
「さっきからいい加減にしなさい!貴方はなんの為にここに来ているの?」
「無礼者!平民風情が貴族に手をあげるとは!」
「高位の者が下位の者に手をあげるのは教育なのでしょう?」
女の子がスカーフを取ると中からゆるやかなウェーブの美しい金色の髪が現れた。金色の髪は貴族に多い髪色だ。
「私は一応ブルムーン公爵令嬢と呼ばれているの。横暴な貴方に効率的な教育をして差し上げたのよ」
薄汚れたエプロンを取ると、美しい生地のワンピース姿で平民にはもう見えない。
これが男の人なら王子様だったな。
「ブルムーン公爵令嬢?引きこもりの公爵令嬢のことじゃない!なんでこんなところに!」
「お嬢様!あの……」
伯爵令嬢の侍女がコソコソと耳打ちすると
「ここは私には合わないようなので失礼するわ!!行くわよ!」
伯爵令嬢は嵐のように去っていった。
あのスカーフ姿の女の子が公爵令嬢だなんて。
料理や片付けまでさせてしまった。
私の事を助けてくれるなんて……
「えーっと、ソフィアさん。黙っていてごめんなさいね。公爵令嬢なんて言うと気を遣わせてしまうと思って。結局、肩書に頼ることになってしまったけど」
エヘヘと公爵令嬢は恥ずかしそうに微笑んでいた。
ロマンス小説の王子様みたいに颯爽と現れて私を助けてくれたけど、そんな姿は普通の可愛らしい女の子だった。
―――――――――
スカーレット・ブルムーン公爵令嬢はそれからも時々やってきては手際よく手伝っていった。
「スカーレットでいいわ。私もソフィアと呼ぶわね!」
「はい!スカーレット様」
そんなある日
「ソフィア。ちょっと聞いてほしいの」
スカーレット様が真面目なお顔で声をかけて来た。
「春から私は魔法学園に通わなくてはならないの。今までのようにここへ来ることが難しくなるわ。でもね!夏休みとか長い休みの時には必ず来るから!」
「そうですか……でも、来ていただけるだけでも嬉しいです」
そうは言ったものの私は平民、スカーレット様は公爵家のご令嬢。いずれはこうなる運命だったのだ。
――――――――
――――――――
でも神様は私を見放さなかった。
「貴方は光の魔法を使えるようになる可能性がありますよ。学園に入学し試験を受ければ明らかになります。魔法を使えるようになれば聖女として国を挙げて保護していくことでしょう」
立派な髭を蓄えた教皇様がおっしゃった。
学園に入学するということはスカーレット様とまた一緒にいることが出来る!
聖女になれるかもというよりスカーレット様と一緒にいられる方が嬉しい。
それから、学園に入学するまでのわずかな間に一般教養や礼儀を頭に詰め込めるだけ詰め込んだ。
一緒にいたいと言っても、スカーレット様に恥をかかせるわけにはいかないもの!
スカーレット様!!待っていてください!