最終回!田中の召喚(後編)
カミシロ!カミシロ!カミシロ!
校庭にうずまく熱気がすごい。
アイドルがワイヤーアクションで目の前に迫ってきた時よりすごい。鼻血を出して倒れ込む女子生徒までいる。なんだこれ。
「諸君よ!」
空中へ浮かび上がったまま、手をかざして場を制す先生。呼びかけに応じて群衆がピタリと静かになる。
いやほんと、なにこれ。
先生キャラ変わりすぎじゃね?!!
ほのぼのスローライフを送ってるって想像してたのに!ぜんぜん違うじゃん!覚醒してんじゃん!なにそのカッコいい登場!?
主人公みたいな名前と超合ってる!悔しい!!羨ましい!!!
田中の歯軋りをよそに、群衆が見守るなか先生は静かに語り始める。
「ーーー思えば、召喚されていた月日はとても濃密なものだった。
治癒師として召喚された俺は戦争には向かない。それでも、生徒たちのために何かできないかと技能を高めるしかなかった。
技能を高める修行の最中、各地を旅した。
治癒師の能力で隣国のリーリア王女の病を治し、瀕死の重体を負っていたエルザ騎士団長を治療したことで戦況を大きく変えることができたのは僥倖だった。
そして、壊滅の危機に陥っていたエルフの村を救ったことで能力が覚醒し、治癒の力だけでなく、肉体を極限にまで強化することができるようになった。これで生徒のために力を奮える。とても歓喜した。
戦いのなかで、獣人族や妖精族と結託できたことも大きい。どれも、私一人の力ではなし得なかっただろう!
そして、今日!
ついに私たちはやり遂げたのだ!いままで数万の同胞がなし得なかったことを!!!!
仲間を集めて魔王軍を打ち倒した!!!
もうこれ以上我々が戦う必要はないのだ!!!」
そして高らかに宣言した。
私たちの戦いは終わった!と。
うっわ、ぜんぶ説明してくれたよ。
本当に王女と女騎士とエルフ助けてたよ。獣人と妖精も加えてハーレム祭りだよ。とんでもない先生だよ。
お嫁さんももしかしてこの場にテイクアウトしている?しているのか?羨ましいの限りだな!ぜひ拝ませて下さいコンチクショーめ!!!!
ほのぼの異世界ライフを送っていると思っていた担任教諭の、まさかの主人公ぶりに脱帽だよ。
もう悔しさと羨ましさの限界値を超えて、無我の境地だよ。今なら大賢者になれる気がするよ。
目から汗は止まらないけどな!
こうして、異世界騒動はあっさりと幕を閉じた。
召喚されていた人たちは全員 無事に帰還して、現代社会へ復帰している。
騒ぎが落ち着いてしばらくすると、元勇者たちからは異能の力も消えた。
魔力がないこの世界では、体内にある魔力を使い切ると魔法が使えなくなるらしい。始まりの勇者が涙ながらに会見していたのは記憶に新しい。
ただ異世界で鍛えられた肉体、筋力や頑丈さはそのままのようだ。
小林さんは今日も握力計を粉砕している。
ついに、
俺の、田中の冒険は始まらなかった。
異世界召喚の経験者たちの中には、まだ心に厨二を引きずっている人が大多数見受けられる。が、それもまた人生だ。案ずるな、俺だってそうだ。
波瀾万丈な冒険も、血湧き肉躍る戦いも、きゃ!田中くんのエッチ!なラッキースケベも、多種族に愛し愛されるハーレムも、すべて夢のまた夢。それでも生きていかねばならない。
人生とは、斯くも無情と見つけたり。
最後まで召喚されない田中だった!号泣
おわり。
(おまけ)
のちに、カミシロ先生は『劇場版 終わらない異世界召喚〜最後の勇者〜』を本人主演で映画化され、後世に語り継がれ続けるのであった。
田中は、終わらないのに最後ってなんだよ!と予告CMに盛大にツッコんだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございました!