ご近所さんの召喚
同級生たちが入れ替わり立ち替わり召喚されていくなか、なぜか一向に召喚されない俺。
田中です。
なぜ召喚されない!?帰宅部だからか??!
いや、帰宅部の同級生だって召喚されたし、なんならワル的な帰宅部だって召喚されていったし違うのか……?
ひとまず俺はいつ召喚されてもいいように、筋トレを始めることにした。
早朝から校庭でランニング。鉄棒で懸垂と腹筋。どこのアスリートだ?スポ根か?ジャンル間違えてね?という頑張りっぷりだった。
俺のたいして発達してもいない筋肉たちは、まだ見ぬ異世界にワクワクが止まらないのだ。
うなれ!テストステロン!
異世界への知識を深めようともした。
帰還した人が書いた著書を読み込んだ。ぜんぜん関係ない異世界を題材にしたラノベも手当たり次第に読んだ。
そして、異世界へ召喚された時のことをひたすらに妄想する毎日……。
召喚されてもないのに、自分の能力はこうだったらいいなとか、必殺技の名前を考えたりだとか、最初から調子に乗ると王国に裏切られる可能性もあるから慎重に行こう、とか。
ただただむなしい。
チート能力めっちゃ欲しい。
ハーレムめっちゃ羨ましい。
そんな、ある日。
洗い物を片付けながら母が言う。
「お隣のノボル君きのう異世界から帰ってきたらしいわよ」
ノボル君とは、お隣に住む高校1年生だ。
高校に入学してすぐ、異世界へ召喚されていった、俺からするとなんとも羨ましいやつだ。
帰還のお祝いに行きなさい。という母の言葉に従い、菓子折りを持ってお隣さんに向かった。
「ーーー!」
「ーー?!」
すると、ノボル君の家の前で何やら言い争う声。
好奇心で覗きみると、そこにいたのは、俺の反対隣のお隣さん。アカネちゃんだ。
反対隣とはあまり交流はなかったけど、そういえばノボル君と同い年だったか。
ノボル君からは喧嘩ばかりしてるって聞いてたけど……。
「なんで私のこと避けるのよ?!」
「べっ、別に避けてねえだろ!家まで押しかけてくんなよ!」
なになに、え、痴情のもつれですか?
よくよく話を聞けば、この2人どうやら一緒に異世界に召喚されて、一緒に帰ってきたらしい。
なにそれ、どんな羨ましいエピソード?
愛が芽生えちゃうやつじゃないの?というか元々芽生えちゃってたやつでしょ??
ヒートアップしていく2人を前にハラハラと血涙が流れそうな俺です。
「アカネお前いい加減にーー
「っじゃあ……!」
耐えきれなくなったのか、ノボルくんの言葉を遮って叫ぶアカネちゃん。
目元にはぶわわと涙をたたえている。
「あんな風にキスしてほしくなかった!」
おいィィィイイイイ!!!
ノボルうううううう!!!!!?
やめて!?!俺より先に大人の階段登るのやめて!??お前アカネちゃんに何してんの!!!?
「あれは……」
ごにょごにょと言い訳を口の中でするな?!
俺の家を挟んで愛育むのやめて?!!!
そこでようやく2人は家の前で血涙を流す俺に気づいたらしい。
「はっ!にいちゃん?何やってんだよそんなとこで!」
可愛いお隣さんに、お前が憎いとは言えない。
「ノボルぅ、女の子泣かすなよぉ?」
ただ声に怨念はこもっているかもだが。
「なっ!こいつが勝手に泣いたんだろ!」
「ノボルぅうう」
俺の怨念のこもった声に、ちょっと引き気味のノボル君だったが、何も言わずにしくしくと涙を流すアカネちゃんを見て少し冷静になったらしい。
「……戻ったら、ちゃんと言うつもりだったんだ」
「……え?」
顔を真っ赤に染めて、もごもごと喋り始めたノボル君。
「でも、異世界だから、それでアカネは俺のこと良く見えただけでっ、戻ったら俺のことどうでもよくなってるかもって思ったら……」
「ノボル……っ」
涙で目をキラキラさせたアカネちゃんが、ノボル君にひしっと抱きつく。
「ばかっ!そんなわけないじゃない!だって、わたしっ最初からノボルのこと……!!!」
ぶわわっと顔を赤らめて、ぎこちなくも抱きしめあう2人。
おい?俺を置いていくな?ん?
あれ、おかしいな目の前が霞んで何も見えないや。
さっきまでのケンカっぷりが嘘のようにイチャつき始めやがった。2人の視界に、俺はもはや映らない。
「ノボルぅ、帰還のお祝い、ここ置いとくねええ?」
声も届かない。
俺は血涙を流しながら帰宅したのだった。
帰還カップルめ爆ぜろ!ハッピーエンドで何よりだよ!!!
今日も俺は召喚されない!!!泣




