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タナカ



 ここは都内某所のとある高校。


 こんにちは。

 平凡に高校生をしている田中、高校3年生です。

 突然ですが、俺には悩みがあります。



 それは……俺が、

 俺だけが、異世界童貞だという現状です……。



「あれ?佐藤くんは?」

「あ、沢村さん昨日帰還したんだっけ?佐藤なら一昨日召喚されていったよ」


「隣国の王子からプロポーズされたんだけど!契約期間で帰還したけど損したかもーw」

「また異世界に召喚されないかなー?」


 何も知らない人が聞けば、このクラスは中二病の集まりか?と思うかもしれない。だが違う。



 『はじまりの勇者』と呼ばれる高校生が確認されてから数年。異世界への召喚は、もはや日常になっているのです。


 当時、行方不明になった高校生の無事を知らせる会見がニュースで生放送されたことが全ての始まりだった。

 お茶の間の話題性と本人の希望ということもあり、各局がこぞって彼を取り囲むなか、彼は開口一番こう言った。


「僕は、行方不明になっている間、異世界に行っていました」


 報道陣がざわつくなか、力の一端を見せると彼は言った。


 その瞬間。

 眩い光を発しながら、制服だったはずの体が金の甲冑に覆われていく。背中には身長ほどはありそうな大剣まで。


「これは武装魔法です。ぼくは魔法は得意ではありませんが、このように……火を出す魔法も少しなら使えます」


 金の甲冑に身を包んだ彼は、さらに手の平から小さな炎を出して見せた。


 生放送で全国に流れたこの映像。

 アナウンサーが、皆さん信じられるでしょうか!?これは、生放送です!生放送なんです!なんて慌てふためく声が映像の向こうから聞こえる。


「僕が行方不明になっていたのは半年だと言われていますが、僕が向こうの世界で過ごしたのは3年です。いろんな仲間と出会い、いろんな冒険をしました」



 彼の地を懐かしむように続ける高校生。


「僕の冒険は3年契約で終了しましたが、まだ向こう側での戦いは終わっていません。この先、異世界を救うために召喚される人は増えるでしょう!」



 ええ?!まさかの契約?!!しかもこの先召喚される人が増えるだって?!!

 ざわつく会場とお茶の間をよそに、最初の勇者は高らかに叫んだ。



「共に世界を救おう!召喚を受け入れるんだ!!!」


 いやいやいや!知らんがな!

 何を勝手な!彼の発言は妄想だ!虚言だ!と評論家や政治家たちは怒り、お茶の間はあらあらどうしましょう。と戸惑い、ネット住民たちは異世界ヤッホイ!俺たちの冒険が始まる!と歓喜した。


 そして、この会見から程なく。

 本当に人が消え始めたのだ。しかも世界中から、同時に何人も。授業中や仕事中、はたまた通学や通勤の電車内、家族との団欒の最中に。


 異世界騒動を装った事件の可能性もあるとして、大規模な捜索態勢がとられたが、一人も発見されず。



 混乱の矛先は、はじまりの勇者へ。


「私は言ったはずです。召喚は増える、と。」


 なんのドヤ顔やねん。と世界中が思ったに違いない。


「異世界への召喚は免れません。王国も必死なのです。大丈夫、契約期間は1年更新なので早ければ1年経たずとも帰って来られます」


 だからなんだよ契約期間って!

 勇者って契約社員なの!??


 どんどん無差別に人が消えていく中、仕事中に召喚は困る!我が子を返して!国として対策を!と上がる批判の声。


 こちら側から異世界へ交信の術を持たない政府は困った。そして、日本政府は全国民に異世界へ向けての文書を保持させるという対策をとり、異世界との交流に成功したのだった。


 しかし、日本政府からの「召喚をやめてくれ」という抗議の声は聞き入れられなかった。


 異世界からの返答は、

「こちらは王国の存亡がかかってるんだから、ちょっとくらいいーじゃん!」というもの。


 なんという理不尽。


 止まらない召喚に、なす術もなく、それならばと出された案が指定された場所からの召喚だった。



 指定されたのは、全国の高校や大学。


 仕事中や移動中に消息をたつのは勘弁してほしいという大人たちと、義務教育中の子どもを異世界にやりたくない親と、多少の勉学の遅れは補習などで賄えるのでは、進学や就職を補助する制度があれば何とかなるのでは。という苦肉の策だった。


 そうして、なあなあの体制のまま時間だけが経過した現在。異世界召喚は全国の高校と大学の敷地内からされることとなっている。


 俺、田中が通う高校でも異世界召喚はもはや日常茶飯事。

 きのうの友が明日は異世界に。見知らぬ友が急に帰還してクラスメイトに。


 高校3年生となった現在、通学中のクラスメイトは15人。入学当初は5クラスあった学級もすべて統合されての15人だ。ちなみに入学当初は1クラス38人ほどだった。


 おい、召喚しすぎだろ!異世界!

 どんな軍隊作ろうとしてんだ!??

 すでに学級崩壊とかいうレベルじゃねーぞ!

 ここぞとばかりに召喚してんじゃねーよ!!!


 いや、ごめんなさい嘘です。

 みなさん。冒頭、俺が言った言葉を覚えているだろうか。


 俺だけが、異世界童貞だという現状……。


 そう、高校3年間で、俺だけがまだ召喚されていない……!

 残りのクラスメイト14人はこれまでに召喚されて帰還した人たちなのに!歴戦の猛者なのに!

 なんなら、おととい消えた佐藤くんは3度目の召喚なのに!

 なぜ!おれは!?まだ!ただの一度も!召喚が、ないんですけど??!


 『はじまりの勇者』は言った。

 「共に世界を救おう!召喚を受け入れるんだ!」


 受け入れてるよ!!!最初から受け入れてるよ、ばか!!!俺だって異世界いきてーよ!オタクなめんな!


 そんなことを考えていると、教室の一角が鮮やかな光を放ちながら瞬く。


「あ!せんせー!高橋さんが召喚されましたー!」

「おー、じゃあ親御さんに連絡入れてくるからちょっと自習しててくれるかー」



 はあああ??!!!

 異世界の前に俺のメンタルが壊れそうだよ!!!


 きょうも俺は召喚されない!




こんな感じでタナカの受難が続きます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 設定が興味深く惹かれました! 田中くん面白かわいいです! 田中くんのツッコミが面白くて笑って拝読しました。 勢いがある文体なのでとっても読みやすいですし、スマホから拝見しているのですが、パ…
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