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番外編:お母さんの召喚(見知らぬ将軍目線)③

まとめて投稿するつもりが遅くなりました……。

これで完結です。



 作戦の決行を前に、リーグルはそわそわとした気持ちを隠せないでいた。

 指揮する隊員たちからは、なんだか生温い視線を送られている。


 東の山にいる大型魔物の討伐は、アケミの活躍によって迅速に行われ、いまは敵陣を前に襲撃の機会を伺っている。


 いや、伺っているというか。

 いつでも突撃できるのにしていないというか。もごもご。

 


 作戦を遂行してしまえばアケミは帰ってしまうかもしれない。だが、ここで国のために戦えなければアケミに胸を張って想いを告げることもできない。

 リーグルは敵陣を前に判断が鈍りまくっていたのだった。


「リーグルさん、今夜いかがですか?」


 茂みから敵地を伺うアケミが、リーグルに尋ねる。優しい声がつむぐ甘い響きに、リーグルの背中がそわりとざわめいた。


「今夜は月がないから、見つかりにくいと思うのですけど」


 はい喜んで!とアケミに飛び込まなかっただけ自分を褒めてやりたい。

 ああ、これが甘い夜伽の誘いであれば良いのに。茂みの中で、あんなことやこんなことをしませんか?というお誘いな良いのに。


「……ええ。今晩、決行しましょう」


 気持ちとは裏腹に、将軍として仕事をこなすリーグル。生温い視線を送ってくる部下たちを無言で威圧して、迅速に指示をとばした。





 夜。

 闇に紛れて、アケミの爆撃がとぶ。

 山に囲まれた基地。天然の要塞で油断していたのだろう、敵たちは右往左往している。


 こちらとしても、この基地は補給部隊として有効活用させて頂きたいので、アケミの爆撃は最低限に留めてもらっている。

 敵の動揺を誘えればそれでいい。あとは我々の見せ場だ。


 リーグルたちは、爆撃に紛れて敵を斬り伏せていく。どんどんと中枢に迫っていき、一通り基地を制圧したかと思った時、後方が騒がしいことに気付く。


 敵の何人かが、後方から基地を爆砕しているアケミの存在に気付いたようだった。アケミの周りに配置していた隊員たちが、彼女を背に応戦しているのが遠くから見える。


 肝が冷えるとはこのことか。

 近くにいる隊員たちにその場を任せて、リーグルは駆ける。

 敵は劣勢。アケミが落ちれば持ち直すとでも思ったのかもしれない。



 目の前にも、アケミを狙って剣を投擲しようとする輩がいる。すかさず斬り伏せながら、敵を減らしていく。


 もうすぐアケミたちと合流できるかと思った、その時。建物の上でキラリと光るものが視界に入った。


「っっアケミ!!!」


 瞬間に放たれる、矢。

 考えるより先に体が動いていた。




 ◆




 リーグルが目を覚ますと、作戦は成功を収めた後だった。

 部隊は基地を占領。アケミを庇って死にかけたリーグルは、異世界の勇者によって速やかに治療され眠っていたらしい。


 敵の主要な補給部隊を潰したとあって、リーグルの率いる部隊とアケミには国王陛下直々に褒美が与えられることになった。

 それは、アケミが待ち望んだ故郷への帰還が果たされるということだった。




「待ってくれ!アケミ!」


 敵地を爆砕してから3日。

 目を覚ましたリーグルが、彼女の帰還日程を知ったのはつい先ほどだ。

 陛下からの褒美が帰還だとは思っていたが、こんなに早いなんて思ってもみなかった。


 死にかけて眠っていたリーグルに、一言あってもいいのでは?!と思うのは、傲慢だろうか。

 異世界勇者の癒し手が凄いのは分かるが、もう少し心配してほしかった。

 枕元で涙ながらに生還を喜んで欲しかった。



 なんとか召喚の間へ駆けつけたリーグルは、魔法陣へ向かうアケミを呼び止める。


「アケミ、その……」

「リーグルさん!目が覚めたのね!良かった!

 部隊の人へ、手紙を託そうと思ってたんです……本当に、助けて頂いてありがとうございました」


 リーグルが現れたことを心から喜び、にっこりと笑うアケミ。

 その笑顔を見ただけで、さっきまで放置されていた苛立ちが綺麗に霧散した。アケミが無事ならそれでいい。


 しかし……と、リーグルはアケミの足元に広がる魔法陣へ目を落とす。

 彼女がこのまま陣の中へ入ってしまえば、元の世界へ帰ってしまう。家族が待っているとはいえ、俺だって一緒にいたいのだ。

 傲慢な心を押し込められないまま、リーグルの胸の内はキツいアルコールを煽った後のようにぐるぐると渦巻いている。


 黙ったまま、思わずアケミの腕をぐっと掴んだ。


「あらあら、どうなさったの?リーグルさん」


 リーグルの不審な行動にも、アケミはいつもと変わらない、おっとりとした視線を向けてくれる。それだけで胸が熱く締め付けられるようだった。



「……っ俺は!あなたと離れたくないっ……!」



 ぐるぐるとした気持ちを整理できないまま、青臭い少年のように想いが溢れる。

 こんな、すがりつくような真似はみっともないと分かっていても止められない。



「……っどうか、どうか!俺と、このまま……っ結婚してくれないだろうか…………!!!」



「あらあらあら、」



「突然、こんなことを言って困らせているのは分かっている!しかし、抑えられないんだ!あなたへの気持ちを……!!!」



 光を放つ魔法陣の前で、アケミは頬を染めて少しだけ首を傾げる。


「リーグルさん。そう言って頂けてとても嬉しいわ」

「なら!」



 でもね、と続けるアケミ。



「向こうの世界で、が待っているの」


 えっっっ



「気持ちはとても嬉しいのだけど……ごめんなさいね」


 にっこりと笑って、そっとリーグルの手を解くアケミ。

 ゆったりとした動作で魔法陣の中へ向かい、くるりとこちらへ向き直る。



「では、みなさん。お世話になりました。

 お体にはくれぐれも気をつけて下さいね」



 律儀に腰を折って周りへ声をかける。


 あ、ああ……どうも……。と

 将軍のプロポーズ現場を見てしまった周囲はなんとも歯切れの悪い声を返す。



 ピカッと強い光を放ち、起動する魔法陣。

 アケミは吸い込まれるように宙へ消えていった。



 その魔法陣の前で、ずんと地面にのめり込む将軍。



 家族って、家族って……!!!!

 ダンナと子どもかよ……!!!!!!



 その哀れな姿に、声をかけられる者は誰もいなかったという。

 こうして田中母アケミは、わずか1週間という早さで帰還を果たした。


 そしてリーグルは、失恋の痛手こそあったものの、自国を守るのは我々だ!異世界の勇者に負けてなるものか!(泣)と意気込み、勇者カミシロと共に国を勝利に導くのであった。



 一方、

 異世界での冒険譚を母から聞いた田中は。


「ーーーと言う感じだっのよ〜。

 お母さん告白されたのなんて、お父さん以来だったからドキドキしちゃった♡」

「ちょ!?何してるの母さんん!!!!??

 言葉にならないくらい将軍が可哀想なんだけど!!!?」


 のほほんと無自覚に将軍をタラシこんだであろう母を前に、ただただ将軍に幸あれと。遠く異世界へ向けて敬礼したのであった。



(おわり)


ここまで読んで頂き、ありがとうございました!

不憫な将軍のお話として楽しんで頂けたら嬉しいです!田中ぜんぜん出てこなかったな!

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