番外編:お母さんの召喚(見知らぬ将軍目線)①
お母さんの召喚で、家のことがありますから……。と国王に直談判して1週間ほどで異世界から帰還したお母さん。
異世界で敵の基地を爆砕したあと、母の味で現地の将軍の胃袋を掴んでプロポーズされたらしい。の胃袋を掴まれた将軍目線。
アケミは、素敵な女性だった。
勇者カミシロと共に国を勝利に導いた将軍、リーグルは後にこう語る。
召喚の間には、定期的に異世界から人が渡ってくる。
戦いの中でしか生きてこなった俺に詳しいことは分からないが、膨大な魔力を使ってこの計画は成され、異世界の勇者たちはどんどんと戦果を上げている。
その戦果が大きければ大きいほど、我々軍人は無用のものだと言われている気分だった。
当時の俺は、少しやさぐれていた。
大量に呼び出される異世界の勇者たちによって作られた軍隊。その力は強大で、もはや脅威でさえあった。
魔法も存在しない国から来たはずの勇者たちは、なぜかやたらと適応力が高く、そして強かった。
それが勇者たる由縁なのか、魔力が無尽蔵だったり、筋力が並外れていたり、少量の魔力で山ひとつを吹き飛ばしたり……神の御業とも言える力を手にしていた。
少し戦い方を教えれば、ものの数分で我々軍人が何年も積み重ねてきた努力を平気で超えていく。
聞けば、あちら側の国では長く戦争も起こっていないのだとか。
戦ったことも喧嘩さえしたこともなかったという勇者たちに、我々は劣るのかと、なんともやるせない気持ちになった。
そんな時、現れたのがアケミだった。
その頃の俺の仕事といえば戦うことではなく、召喚の間に現れた勇者を導くことだった。
軍人でありながら、剣を振るうこともなくただ召喚の魔法陣を眺めていた俺の前に現れたアケミ。
「あらあらあら、困ったわ。ここが異世界なの?」
なんとも澄んだ声だった。
魔法陣の光と共にふわりと舞い降りた女性。少女のようなあどけなさを残しながら、包み込むような優しい雰囲気を持っていた。
困ったと言いながらも おっとりとあたりを見回す女性の視線が、リーグルのものと絡む。そこでリーグルは自身が女性をぼうっと眺めていたことにやっと気付く。仕事をしなければ。
「異世界からいらっしゃった勇者ですね、名前をお伺いしても?」
「あの、私は勇者ではないのですが……タナカアケミと申します」
聞けば、魔法陣で誤って召喚されてしまったのだとか。家族のもとへ帰りたいと言うアケミを哀れに思い、すぐに陛下への謁見を申し込んだ。
「帰ることはならぬ。召喚の儀が成ったのなら、アケミもまた勇者ということ。少なくとも半年は兵役に就いてもらわねば」
「半年も……困ります!家族が待っているんです!今晩の夕飯だってまだ用意していないのに!」
すげなく断られた帰還の申し出。しかし、陛下の発言を受けてもアケミは凛と譲らなかった。
「ならば戦果を上げよ。こちらと向こうの世界では時の流れが違うと聞く。早く戦果を上げれば半年と待たずに帰郷できるであろう。」
折れたのは陛下だった。兵役を戦果によって免除するというのだ。
これ以上の譲歩は難しいと思ったのか、アケミは分かりました……と一言呟いて唇をきゅっと結んだ。
一刻も早く帰るために、覚悟を決めたように見えた。
腕も腰も細いアケミを見て、こんなか弱い女性まで戦いに巻き込もうとする我が国の方針に疑問を持つ。それと同時に、はっとする。
アケミのような女性は、本来なら我々軍人が守るべき弱い人だ。そんな女性が、今まさに戦う覚悟を決めたのだ。家族のために。
自分は、いったい何をやっているのか。
「アケミ、心配するな。私が早く帰れるようにサポートをする。とびきりの戦果を上げよう。」
リーグルの言葉に、アケミは綺麗な笑顔で頷いて見せた。
おまけ書いてみました。