【コント】明るい謝罪文
社員=ボケ
部長=ツッコミ
場面は会社内での一コマです。よろしくお願いします。
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【……謹んでお詫び申し上げます。この度の不手際は私どもの不徳の致すところであり、大変なご迷惑をおかけしたと、従業員一同深く反省している次第です。誠に申し訳ございませんでした。つきましては先日のご商談の件、何卒……】
社員「ウッス! あれ部長、どうしたんスか?」
部長「”どうしたんスか?”じゃないよ! 先日の、B社との商談の件さ」
社員「ンぁ……あぁ」
部長「また気の抜けた返事して。君がやらかしたんだろ、君が!」
社員「あぁ……こないだ俺が、向こうのお偉いさんの鼻の穴にゴボウ突っ込んだ件っスか?」
部長「そうそれ! 何でそんな真似を……。おかげで折角決まりそうだった大口の取引が、パーになりそうなんだよ!」
社員「スンマセン、てっきり部長と間違えて……」
部長「いや僕だったとしてもダメだよ! なんで僕にならゴボウ突っ込んでいいと思ってるんだ君は。というかなんで会社にゴボウ持ってきてるんだ君は。しまい給え」
社員「ははぁ。それでわざわざそんな謝罪文書いてるってワケっスね」
部長「そうだよ。元はと言えば、全部君のせいなんだからね!」
社員「でも……こんな堅苦しい文で伝わりますかね?」
部長「何?」
社員「だって……こ〜んな決まりきったオカタイ文章じゃ、何にも感情伝わってこないっショ」
部長「君ねえ! ビジネスにはビジネスのしきたりってもんがあってだな……」
社員「でも奴さん、新進気鋭のベンチャー企業って感じで、歳めちゃ若くなかったっスか?」
部長「奴さんて。失礼な。取引先の相手だよ、仮にも。でも、確かに若かったな……君のいうことも、一理あるかもしれない」
社員「でショ!? だからもっと、気持ちのこもった文章にしないと! 定型文だけじゃ伝わるモンも伝わりませんって!」
部長「じゃあ、どうするんだ?」
社員「そっスねぇ……ちょっとペン貸してもらっていいっスか? 俺だったら……」
【イェ〜イ! みんな謹んでる〜?】
部長「いやダメだろこれは!」
社員「何で?」
部長「何でって……何で謝罪文なのに、出だしからこんな”パーティ感”出てるんだよ。何だよ”イェ〜イ!”って……一番謝罪文で使っちゃいけない語彙だろ。一番使っちゃいけない語彙が、一番先頭に来ちゃってるよ」
社員「アゲアゲな感じが最高じゃないっスか? みんな明るい感じのを待ってるんスよ、今の時代」
部長「待ってないよ! 明るい謝罪文なんて聞いたこともないよ。大体、謹むのはこっちの方だろ。何で相手側に謹みを求めてるんだよ先ず」
社員「イェ〜イ!」
部長「イェ〜イ……って、ハイタッチするかァ! そんなワケあるか!」
社員「ダメかぁ……イェ〜イは気持ち乗ってて良いと思ったんスけどねぇ」
部長「気持ちのこもった文にするのは良いけど、もっと真面目に考えてくれよ。やっぱり最初は、”謹んでお詫び申し上げます”じゃないかなあ。”イェ〜イ”じゃ謝ったことにならないよ」
社員「分ぁ〜かった、分かった……ワカリマシタ! だったら俺も、ある程度妥協しましょう」
部長「妥協?」
社員「ちょっとペン貸してください」
【謹んでイェ〜イ申し上げます】
社員「これで行きましょう!」
部長「もっとダメだろ! 何だよこれ、謝罪文だって言ってんのに! こっちが勝利宣言しちゃってるじゃない! 怒られるよこんなの!」
社員「ダメっスか?」
部長「分かるだろ! こんなもん、会社が吹っ飛ぶよ!」
社員「コッチとコッチならどっち?」
部長「どっちでもないよそんなの! どっちもない!!」
社員「じゃあとりあえず両方送っとくかぁ……」
部長「何でだよ! その思考回路がイマイチ良く分からないよ! 両方ダメだって言ってんのに……」
社員「あれ? 部長、なんか奴さんから、先にFAX届いてますよ」
部長「だから奴さんて。失礼だからなそれ。何々……」
【先日はゴボウありがとうございました。
実はあの時、ウチの内野の鼻の奥にかなり毒性の強い物質が入り込んでいたのが後日発覚しました。
その物質はゴボウにより中和されることが分かっており、もしあの場面で貴社の社員が鼻にゴボウを突っ込んでいなかったらと思うと……本当に感謝の気持ちで一杯です。
つきましては先日のご商談の件、何卒……】
社員「あの場面、ゴボウで合ってたんだ……」
部長「いやそんなわけないだろ。何だよゴボウが正解の場面って。そんなビジネスシーン聞いたことないよ。なるほど。これは向こうもかなり頭を悩ませたな。頭を悩ませすぎて、かなり強引にゴボウOKに持ってった感があるけど……」
社員「……とりあえずゴボウ食べます?」
部長「食べません!」
どうもありがとうございました。