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6.信じてくれ、妹よ!

「母さん、あの……話があるんだけど」


 家に帰った俺は、早速母さんに弁当の相談を持ちかけることにした。


「どうしたの? 未稀に何か言われた?」

「今日は何も」


 今日の未稀は比較的静かだった。彼女が出来たおかげかもしれない。バタフライエフェクト的な。


「そうじゃなくて。明日から弁当を作らなくていいって言ったらさ、助かる?」

「え? どうしてそんなこと……。あー、なるほどね……彼女さんか」

「何でわかった!?」


 弁当という単語だけでそこまで推察してしまうのか……。

 やっぱり母親って恐ろしい存在なんだな。


「昨日ずっと手を見つめながらニヤニヤしてたのは誰でしたっけ?」


 あこれ俺がバレバレなだけだ。


「お兄ちゃんに彼女が出来たって本当!?」


 母さんの発言に釣られて、未稀が部屋から出てきた。


「お母さん、エイプリルフールはもう過ぎてるよ?」

「君は何なの!? そんな信じられない?」


 もうやだこの妹……。俺に彼女が出来るのってそんなに信じられないことなんですかね。

 せっかく今日はウザくないと思ってたのに、嵐の前の静けさだったのかよ。

 そういえばバタフライエフェクトで引き起こされるのは竜巻だったな。蝶め、恨むぞ。


「それで? 彼女さんってどういう子なの?」

「もうね、とにかく可愛い。物静かな子なんだけど、俺と話す時、特に俺の話になると饒舌になって、それもまた可愛くて。そんでもってめっちゃ俺のことが好きなの。あと料理が上手い。そして可愛い」

「妄想だね」

「こら未紀」

「いや本当だって! 何で信じてくれないの!?」


 確かに妄想から飛び出たみたいに可愛いのは認めるけどさ! 実在してるんだよ! 


「お母さん、現実的に考えて? そんな都合のいい女の子なんて存在するはずがないでしょ?」

「それが存在するんだよな……」

「確かに都合は良すぎるかも」

「納得するな母さん!」


 母さんを味方につけようとするな!


「私は、『朝彼女が出来る可能性がないって馬鹿にされたから見返してやりたくて嘘をついた』に一票!」

「そんなみみっちい嘘つかないよ! 確かにめっちゃムカついたけども!」


 クソッ、もどかしい……!

 この竜巻はどうやったら信じてくれるのだろうか。


「あ、彼女に電話するよ! そしたら信じてくれるだろ!」

「なるほど、そう来ましたかお兄ちゃん……。しかし、甘い! 私は既に知っているのです。この世には女の子みたいな声が出せる男の人も存在しているということを!」

「両声類を用意する方が非現実的だろうが」

「え、彼女さんと電話するの? 母さんとも話させて」

「それはちょっと遠慮して欲しいな、母さん」


 ふん反り返る妹と、息子の彼女に興味津々の母さん。

 正反対の反応を一度に受けて脳がショート寸前だ。助けて聖徳太子マン!


「それで? 何の話だっけ?」


 母さんの一言でやっと冷静さを取り戻した。

 そう、本題は俺に彼女が出来たかどうかじゃないんだ。未稀は黙っとれ。


「明日からは母さんが弁当作らなくてもいいって話」

「ああ、そういえばそうだったわね」

「お兄ちゃん、何で弁当が要らないの? 学食に目覚めたとか?」

「だーかーらー、か・の・じょ! 彼女が作ってくれるから要らないの!」

「はぁ、もうそういうことにしといてあげるよ」


 おい未稀、なんだその人を憐れむような目は。


「私は別に構わないわよ。でも巻斗、よく考えて。初めての彼女なのよ。彼女さんにそんな負担をかけて大丈夫なの? 弁当を毎日って、結構大変よ? すぐ愛想尽かされちゃうんじゃない?」

「それは俺も聞いたんだが、いつも自分の分を作ってるらしいし、俺の弁当を作るなら苦労じゃないって言ってたから大丈夫だと思う」

「なるほど、それなら早めに籍入れなさい」

「何言ってんの?」

「え、お母さん信じてるの? 明らかに妄想じゃん」

「君はうっさいな! さっきから!」

「巻斗、未稀は後で叱るから安心しなさい」

「感謝」


 恐悦至極です、お母様。


「で、母さんは構わないってことでいいの? それならそう伝えておくから。じゃあ、明日からは弁当作らなくていいからね」

「了解。あ、巻斗! 一つだけ条件をつけてもいいかしら?」

「条件?」


 まさかそう答えられるとは思わなかった。条件、か……。何だろう。昼食代は要らないとか?

 あ、そう言えば俺の分の弁当の代金はどうするんだろう。まさかそれまで栞持ちっていうのは図々しすぎる気もするし……。


「彼女さん、明日家に連れてきなさい。用事があるなら別の日でもいいけど、少なくとも今週中には連れてくること!」

「彼女を? 家に!?」


 母さんの条件を聞いた途端、弁当代の問題は頭から抜けてしまった。

 ……は? マジで言ってる?

 流石に早過ぎないか? まだ付き合って1日しか経っていないというのに。


「……どうしたの? 黙りこくっちゃって」

「いや、流石に家に連れ込むのは時期尚早っていうか……」

「いないのね」

「いやいるから!」


 母さんまで未稀みたいなこと言い出すなよ!


「冗談。私は彼女がいないとは思ってないけど、でもやっぱりどんな子か知っておかないと息子のお昼は任せられないじゃない。ないとは思うけど毒薬とか混ぜられたらどうするつもり?」

「……なるほど。そういうことなら仕方ないか」


 確かにそうだ。顔も知らない人に任せるのは怖いよな。


 というわけで、栞を家に連れてくることが決定してしまった。


「それでよし! じゃ、彼女さんによろしくね」


 にっこりと微笑む母さん。それを見て、そういえばまだ言ってなかったことがあることを思い出した。


「あ、そうだ、母さん」

「こんどは何?」

「これまで、毎日弁当を作ってくれてありがとうございました!」


 母さんは、目を見開いて驚いた。


「急にどうしたの? あんた、いつもそんなこと言わないじゃない」

「だからこそ、だ。最後くらいはきちんと感謝を伝えないと。いつも当たり前のように思っていたけど、よく考えたら当たり前で片付けちゃいけないよな。だから、ありがとうございました」


 呆気にとられていた母さんだったが、俺が頭を下げると、ゆっくりと瞬きをして微笑んだ。

 目が少し潤んでいる。


「巻斗……。変わったわね」

「何が?」

「未稀もいずれ分かるようになるわ」


 未稀は未だにきょとんとしている。


「さ、今から未稀を叱るから巻斗はあっち行ってなさい」

「わかった!」

「何で! 不信心は罪ですか!」


 罪だよ。意味違うし。



 話を終えた俺は、自分の部屋に篭った。

 母さんからの許可をもらったので、栞に報告しようと電話をかける。


「……もしもし?」

『あ、巻斗くん!お母様の返事はどうでしたか?』

「条件付きでオッケー貰ったよ」

『条件、ですか?』

「ああ、栞を家に連れてきて欲しいんだとさ」

『私が……巻斗くんの家に!?』


 向こう側で何かが落ちる音が聞こえた。


『すみません、取り乱してしまいました……。えっと、今からですか?あわわ、何を着ていけば……』

「落ち着け栞。いくら母さんでもそこまで鬼畜じゃない。明日連れて来いって言われた。でも明日用事があるなら別の日でも……」

『行きます! 分かりました! 明日ですね! 巻斗くんの家……。精一杯オシャレしなきゃ……』

「多分学校帰りだから制服だぞ」

『……分かりました、少し落ち着いてからしっかり考えますね。それで、巻斗くんの家にお邪魔すればお弁当を作ってもいいってことですね』

「まぁそうなる。というわけで、これからよろしくな」


 今度は飛び跳ねる音が聞こえてきた。


『よし! よし! ……あ、すみません。喜びが抑えられませんでした』

「はぁ、可愛い」

『へ?』 

「あ、いや何でもない」


 うっかり心の声が漏れそうになってしまった。気を付けねば。


「それでさ。今日栞のこと怒らせちゃったじゃん」

『ああ、そのことは気にしないでください!私としては思い出してくれて嬉しかったので』

「それでもな。あんな顔をさせてしまったっていう罪悪感があってだな。だからさ、お詫びとして今度の休みにデートに行かないか?」

『デートですか!? ……そっか、私と巻斗くんは付き合ってるんですもんね。そういう行為も許されちゃうんですね!』


 ……電話越しにも満面の笑みなのが伝わってくるんだよな。デートなんて何でもないし、寧ろ俺が行きたいくらいだから、ここまで喜ばれると罪悪感が増幅する。


 そうして栞と電話をしていると、いつの間にか一時間経っていた。


「もう一時間……。そろそろ切ろうか」

『あ、最後に一つだけ聞いていいですか?』

「どうした?」

『私が巻斗くんのことが、その……好き、な理由は話しました。でも、巻斗くんの方は聞いてないなって。だって立花くん曰く昨日から好きになったらしいじゃないですか? 私はてっきり昔から好きでいてくれたんじゃないかなんて自惚れていたんですが……』

「ああ……」


 なぜ好きになったか、か。どう答えよう……。

 正直に話すとしたら夢の中の彼女に似ていたからなんだけど、そんな突拍子もないことを話したくなんてない。


「うーん、昨日クラスメートをボーッと眺めてたらさ。初めて栞の存在に気付いたんだよ。こんな可愛い子がいたことに気付かなかった自分を責めていたら、自分の気持ちを自覚したっていうか……」

『可愛いって、思ってくれたんですね。これまでの頑張りが報われた気がします』


 これは半分くらい事実。本当の理由から夢の部分を全て抜いた余りだ。

 流石に無理があるとは思ったが、栞は納得してくれたらしい。


「あともう一つだけあるな。好きな所」

『それは何です?』

「俺のことをめっちゃ好きでいてくれる所かな」

『………!!!!』


 膝の辺りを叩いていそうな音が聞こえる。


『そういうのズルいです! もっと好きになっちゃいます!』

「そしたら俺も栞の事をもっと好きになるな」

『もう!! 殺す気ですか?』

「何で!? ……あー、切れちゃった」


 それにしても、こんなに長いこと電話したのって初めてだな。


 栞と一緒にいれば、色々な初めてを経験出来る気がした。


 ……あ、別に変な意味じゃないからな!

いや…ビックリしました。

今確認したらジャンル別で日間10位にいたんですよね…。


元々100ブクマ超えればいいなー、なんて考えていたんですが昨日の時点で超えちゃってましたし…。嬉しくて涙が出そうでした。出ませんでしたが。


予想以上に沢山の方々に見ていただけているようで、感無量です!ただこうなってくると落ちるのが怖くなってきますね…。怖がってばかりじゃいられないんですけどね。さ!続き書かなきゃ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] にやニヤ
[良い点] にやニヤ
[良い点] 巻斗くんがお母さんに感謝を伝えるところが好きです。 当たり前だと思っていたことも、当たり前で片付けてはいけない…本当そうだなって。 過ぎ去っていく前に気づいて、伝えられてよかったねって思…
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