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21.異世界に転生したら彼女とのイチャイチャ尽くしだった件⑤

「何やってるんですか巻斗くん!」

「ワンダラー様!」


 ビーンズがボロボロボロ、と音をたてるのを聞き、ドウェラーと栞が二方向から同時に駆けつけてきた。


「よく出来た飾りだと思いまして……すみません……」

「こちらのビーンズは量り売りの分なんですよね、分かりにくくてすみません」


 だってこんなにオシャレな量り売りがあるとは思わないじゃん。

 まさかの事態にただただ平謝りすることしか出来ない。


「もう巻斗くん、ここ初めてなんですか?」

「いや……でもお菓子の家に来たのなんて何年も前だし……」


 栞にまで叱られてしまった。やらかしたな……。


「ビーンズの量り売り、どうです? 買ってみますか?」

「はい買います」


 ドウェラーと罪悪感に促され、俺はふたたび蛇口を捻った。



 気を取り直して、次に向かうは「ロックフォール」。

 ロックフォールとは、パーチ山の左側の麓にある、高いところから一気に落ちる系のアトラクション。智弘の希望だ。


「栞、別に一緒に乗らなくてもいいんだぞ?」

「心配いりません。これくらいなら乗れますから」

「乗ったことあるんだ。なら大丈夫か」

「いえ、初めてですが?」


 じゃあどっから来るんだその自信。


「隣に座ってよ、しおりん!」


 和泉さんがそう提案した。


「ダメ。栞は俺の隣だから」

「沙夜、後で呪われるからやめた方がいいぞ。見ろよあの目」

「あ、やめときまーす……」


 そんな怖い目してた? 別に呪う気はないんだけど。

 結局、左から順に智弘、和泉さん、栞、俺という順番になった。


 ロックフォールの「ロック」とは、伝説の怪鳥のこと。その怪鳥に捕まってしまったので、なんとか逃げ出そうとするという設定だ。


 怪鳥ロックは意気揚々と天へ昇っていく。


「や、ちょっと高すぎません? これ……」

「だから言ったのに」

「風がきもちーねー!」

「そろそろか?」


 智弘がそう言った時、ロックが一瞬高度を下げた。落ちそうで落ちない、ブラフだ。


「ひゃあっ! ん〜!」


 栞の手が震えていたので、俺の手を添えてみた。震えは少しだけ収まったようだ。


 その後も数回ブラフを繰り返した後。


「キィェェェェェェエエエエエエエエ!!!!!」


 ロックが声高々に鳴き声を轟かせた。

 その瞬間、ロックが俺たちの乗るカゴから足を離す。


「ひぃゃぁあ!!!」


 みんなも鳴き声をあげ、地上へと急行。

 地面ギリギリというところで空中浮遊の魔法が機能したらしく、急停止。一命を取り留めることができた。


「ふぅ。巻斗くん、ありがとうございます」

「礼とかいいよ」

「え? どしたの?」


 ロックフォールから降りた後、栞と話していたら和泉さんがひょこっと割り込んできた。


「私が震えていた時、巻斗くんが手を握ってくれたんです」

「へー、マッキーらしくないね」

「そんなこともないですよ。巻斗くんは昔から優しい人ですから」

「昔……? あ、そっか。しおりんってマッキーと塾の時から一緒なんだっけ」

「そうなんです!」


 そこから、栞の思い出話が始まってしまった。


「……しおりん、マッキーのことめちゃくちゃ好きなんだね」

「はい、大好きです」

「私はあっちから告られたからねー、まぁ好きなことに変わりはないけど。片思いの期間もあればもっと楽しかったかもね」


 そう。和泉さんは中学の頃から一緒の学校で、智弘ともその頃に付き合いだしている。智弘がグイグイ行った結果が現在の二人だ。


「振り切れば楽しいですが、いいものではないですよ。片思いって」


 そう語る栞の微笑みには、陰りが生まれていた。


「ごめん」

「別に巻斗くんが謝ることじゃありません」



 それからフォルトガルドに戻り、「ティル・ナ・ノーグ」というアトラクションに乗った。

 ティル・ナ・ノーグとは何かの神話に出てくる楽園らしく、妖精たちがたくさん住まうその楽園をクルーズして見学していくという室内型アトラクションだ。


「あ、あれってフェアリーですかね?」


 七色に輝く花畑の中を渡っていた時。

 花の間を飛び回る羽根の生えた妖精を見て栞がそう呟いた。


「ピクシーとかシルフとかじゃないか? フェアリーは妖精全般のことな」

「あ、そうなんですね。勘違いしてました。じゃあ、巻斗くんがフォルトガルドでおサボりしてるって言ってたのも?」

「フェアリーだな」


 そうやって話していると、栞が言っていた妖精がこちらに息を吹きかけた。

 その息が起こす風によってか、ボートが進行方向を変える。


「おわっ、小さいのに力があるんですね」

「風を操れるのか、じゃあシルフだな」

「巻斗、結構詳しいんだな」

「まぁゲームとかアニメとかでよく出てくるからな」


 風といったらシルフなのはファンタジーの定石だし。


「じゃあー、あれは?」


 和泉さんが指したのは、しゃべっている木だった。


「え、あれって固有名称あったっけ……」

「うーん、人面瘡(じんめんそう)か?」

「なんで木が患ってんだよ、こえーよ」


 あれ人がかかる病気だろ。いやそもそも存在しないんだっけか。

 少なくとも喋りだすやつはいないはず。


「指輪物語に出てきた気もしますが、気のせいですかね? ……木だけに」

「……読んだことない」

「私も」

「俺もないな」


 最後にボソッと付け加えた栞だったが、全員にスルーされてしまった。

 ダジャレを言ったことに後悔しているのか、耳を赤くして足をブラブラさせている。

 慣れないことやって失敗してるの可愛いな。


「大丈夫、面白かったよ」

「もうやめてください……」


 慰めは逆効果だったらしい。



 ティル・ナ・ノーグを降りた後は、四人でヴァルトガルドを散策した。

 アマゾンの奥地を探検するクルーズや、エルフの住まう森など、ここもなかなかに見応えがある。しかし……


「うーん、もう時間ないよな」

「俺と沙夜は衣装を返しに行かなきゃなんないしなー」

「え、もうなの!?」


 エルフの森で弓矢体験を終えた頃、智弘と俺はそう話し合っていた。和泉さんは時間を気にしていなかったらしい。


「じゃあもう別れようか? 俺たち着替えてくるから」

「おっけ、じゃあまた」


 そう言って、智弘たちは去っていった。


「また二人きりだな」

「急に静かになった気がしますね」


 和泉さん、今日はいつも以上にテンション高かったしな。


「これからどうしますか? 乗れても次が最後だと思いますけど」

「最後か。なら観覧車とかいいかもな」

「そっか、まだ乗ってませんでしたね」



 大観覧車「アトラス・アース」。

 地球の模様が施されている青い観覧車を、ギリシア神話の巨人アトラスが支えているという構造になっている。観覧車の回転は自転を表しているそうだ。

 ギリシア神話にはこの巨人が地球を支えているという伝説が残っているらしい。


 ワンパのアトラスは、片膝を立てて両手を頭の上にやり、背後にある観覧車を押し上げるような態勢で支えている。頭はちょうど観覧車の中心にあり、重過ぎると言わんばかりに苦悶の表情を浮かべているのが印象的だ。

 ちなみに、立てた片膝はそのまま観覧車の入場ゲートになっている。それほど巨大なので、ワンパのトレードマークといっても過言ではない。


 そんな観覧車に乗り込んだ、俺と栞。


「完全に二人きりだな、今」


 栞も俯きがちに首肯した。


 まずい、なんか緊張してしまってる……。


 空を巡るプライベート空間。青いゴンドラが地上から離れていくごとに、自分たちだけが世界から隔離されていくような気分になっていく。そのせいか、自分の部屋で二人きりだった時の何倍も、栞の存在を強く感じてしまう。


 観覧車で、恋人と二人きり。そんな初めての状況では言葉どころか声すら出せず、聞こえてくるのは小さな機械音のみ。栞の方も、俯いたまま硬直しちゃってるみたいだ。


 何か、何か言わないと……。


「付き合ってくれて、ありがとうございます」

「え? ……うん、こちらこそ」


 俺が心の中で唸っていると、突然栞が顔を上げてそう呟いた。

 内容はあまりにも唐突だが、おかげで重い空気が流れ落ちていった気がして、なんだか心が安らいだ。


「夢かも、なんて思ってた時期もあったんです。巻斗くんが私を好きと言ってくれることが、あまりに現実味なくて。私の知ってる巻斗くんは、私のことなんか知らないはずなのに。でも目の前の巻斗くんは私を好きだ、一生大切にするって言ってくれるじゃないですか。もうわかんなくなってるんです。望みがいっぺんに叶っていくので。それも、絶対叶わないと思ってたことが、いっぺんに」


 栞は何かが決壊したように、矢継ぎ早に言葉を紡いでいく。

 その潤んだ目に、歪んだ俺の姿が映り込んでいた。


 これまで、栞はずっと俺のことを見守っていた。そのうちに、俺の人物像もなんとなく把握していったんだろう。その中で、栞は悟った。自分の思いは伝わらない、と。

 しかし、俺は変わった。それこそ夢のせいだ。栞が言っている幸せな夢ではなく、悪夢。

 その悪夢を現実にしないようにと動いていることを、栞は知らない。もちろんそうする理由は、栞が好きだからなんだけども。


 まぁ、そりゃ分かんなくもなるよな。


「でもこれに乗って、改めて実感できたんです。私、巻斗くんと付き合えてるんだな、って。今、生きている中で一番幸せな時期を歩んでるんだなって。ごめんなさい、何言ってるのかわかんないですよね」

「……栞」


 目に涙を浮かべ、感情を吐露していく栞。俺をこんなにも好きでいてくれる人を無碍になんてしたくない。そう、強く感じた。

 夢なんて関係ない。俺が、この子のことが大好きだから。

 栞が幸せになるなら、何をしたって構わない。絶対に、栞を守り続けたい。


 ……ああ、もう!


「好きだ」

「……私も、です」

「好きだ、どうしようもないくらい。俺は変わったけど、それは栞を好きになったから。栞が、俺を変えてくれたんだ。だから、何も心配しなくていい。栞が、俺のこの気持ちだけずっと受け取ってくれれば、それだけでいいんだ」

「……えへへ、余計わかんなくなっちゃいます」


 力なく微笑んだ栞が、そうこぼす。


「隣行ってもいい?」

「はい」

 

 対面で座っていたが、ここじゃ遠すぎる。栞の隣へ、そっと移動した。


 もう、言葉じゃダメだ。いくら本音で喋ろうと、またいくら綺麗な言葉で塗りたくろうと、自分の今の気持ちを表現することはできない。


「目、瞑って」

「……え、どういうことですか?」

「いいから」

「まさか、え、今から? ……はい、分かりました」


 栞は、深呼吸をしてギュッと目を瞑った。

 俺の心臓も自己主張が激しくなってきている。


 息を整え、栞をじっと見据えた。


 その瞬間。自分の今日の過ちが、己の内側に流れ込んできた。


 お化け屋敷に騙して入らせ、ジェットコースターでは愛を叫んで恥ずかしがらせる。栞の弁当が食べられることが当然のように考えている自分もいたし、栞が智弘と和泉さんとの話に入っていきにくいことにも気づかなかった。ビーンズだってそうだ。明らかに注意散漫。


 これは全部、自分の感情だけで突っ走った結果じゃないだろうか。そして、今もそうじゃないのか。

 このまま突っ走った先にあるのは、成功とは限らない。

 ただイチャイチャしたらいいなんて単純なものじゃないんだ、恋愛は。


「ごめん、やっぱなんでもない」


 冷静になって気付いた。俺は今日感情に正直すぎなんだ。このままやっても、後で後悔するだけ。もっと適切なタイミングが、きっとあるはず。


「なんですかそれ」

「え? ……んっ」


 栞が何かを言った途端、俺と栞の距離はこれまでで一番近くなった。


「……焦らさないで、ください」


 ファーストキスは、栞からだった。


「……ごめん、色々考えちゃってさ。俺、今日失敗続きだったし。栞にこれ以上迷惑かけられないって」

「逆です」

「逆?」


 栞がポツリと呟く。勇気を使い果たしたのか、今は俺の肩に頭をもたれかけている。


「迷惑、かけてほしいんです。私の知ってる巻斗くんは、他人のことで、悩んだり、しません。自分が信じる正解に、まっしぐらです。失敗を気にせず、挑戦してばっかり。成功と正解は、別なんだって、そう言っているようでした。そんな、自分の意思を貫き続ける巻斗くんを、支えていけることが、私の幸せです。だから、迷惑とか考えないでください。私、巻斗くんに振り回されたいんですから」

「……そっか」


 一見頼りなさそうに見えて、栞は強い。そもそも、報われない恋をずっとし続けていたんだ。並の精神力じゃ耐えられない。


 俺が守ってやらなきゃ、じゃなかったんだ。

 本当の幸せは、迷惑をかけあっても笑い続けられることなのかもしれない。そして、栞はそのことをずっと昔から知っているんだろう。


 栞は強く、そして弱い。無理をして燃え尽きることだってある。俺も多分そうだ。だからこそ、支え合う人が必要になってくる。栞は、俺とそんな関係になることを望んでいる。なら、俺もそれに応えないと。


「栞、ファーストキスもらってくれてありがとな」


 プシュー、と機械から蒸気が噴き出すように、栞からもモヤモヤが飛び出した気がした。


「もう。そういうとこ、大好きです」

「俺からもしていいかな」


 栞が肩に頭を擦りつける。オーケーの合図だろう。



「あのー……自転、一周しましたよ?」


 ドウェラーの声がかかり、俺と栞は我に返った。


「え、あ……」

「もう!?」


 急いで支度をして、観覧車を後にした。

 腕時計で確認すると、乗ってから何分も経っていた。乗ってから数分もせずにあのやり取りが始まったわけだから、半周以上ずっと……ってこと?

 

「好きな人との時間って、一瞬だな……」


 栞は何も言わずに、俺の腕をギュッと握りしめた。



 ワンパでの遠足が終わり、再び授業の毎日が戻ってきた。

 まぁもうすぐゴールデンウィークなんだけど。そのせいか未だに遊園地気分が抜けていない人も多い。


 いつもより活気のある放課後の喧騒から逃れ、俺と栞は図書室で本を読み漁っていた。ゴールデンウィークの特別課題をこなすためだ。


 そんな栞に声をかけるヤツが、一人現れた。


「あぁ、君が栞ちゃんか!」

「お前は……」


 やっぱり、いたんだ。


「巻斗くんがご存知の方ですか?」


 栞がそう耳打ちしてきた。

 

 知ってる、じゃ済まされない。あの悪夢の、もう一人のキャストだ。

ではまた一年後に。


一年半後の追記

ごめんなさい、全然更新できてませんね

気付いたら上のバナーに「今後更新されない可能性が極めて高い」とか……

マジでごめんなさい!更新する気だけは満々なんです!!

もう少し待っててください!!


エタる気はないよ。ほんとよ。


2023/4/9

細々としたところ修正しました!

プロットとか書き直したら書きます! よーし、そろそろ書くぞ!

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― 新着の感想 ―
[一言] くっそ馴れ馴れしいヤりチンチックな登場の仕方だな。 大抵一緒にいる男は無視される。
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